55 1巻発売記念番外編 旋風と太陽35
『駄犬⇒金狼』 第1巻、発売中です!
書籍化にあたり、大幅な加筆修正をさせていただきました!
プリムラやマザーのサービスシーンはもちろんのこと、プリムラがおじさまを好きになるキッカケとなった『初めての体験』が明らかに……!
また勇者ざまぁも新たに追加! あの勇者の最期が描かれています!
さらに全ての始まりとなった、ゴルドウルフの『初めての追放』がついに明らかに……!
若きゴルドウルフの姿は必見です!
そして、第1巻の最大の目玉となるのは、勇者の始祖である、ゴッドスマイルが『初めての登場』……!
世界最強勇者の姿を、ぜひその目でお確かめください!
まさに第1巻は『初めて』だらけ……!
目にしたあなたはきっと、『初めての衝撃』を感じていただけることでしょう!
そして読んでいただければWeb版がさらに楽しくなりますので、ぜひお手にとってみてください!
取り合った手を、天にかかげるリインカーネーションとプリムラ。
「かゆいのかゆいの、遠いお空にとんでいけ……!」
すると彼女たちの指先から、降雪機から出された雪のような「かゆみ」たちが噴出した。
陽光を受けたそれはキラキラ輝きながら舞い上がり、青い空になじんでいく。
悪夢の象徴のようだった白カビも、彼女たちにかかれば、雪の姫君がもたらす美しい奇跡へと変わる。
「きれい……」
勇者や聖女たちは、その幻想的な光景にかゆみも痛みも忘れて見入っていた。
ゲレンデも溶かしそうなほどの熱っぽい視線を、リインカーネーションやプリムラに送る。
「やっぱり俺たち勇者組織には、ホーリードール家のような聖女たちが必要なんだ……!」
「ええ……! そしてホーリードール家に仕える私たちも、勇者様にはなくてはならないものなのです……!」
彼らは自分の欲望のために、ホーリードール家を勝手に巻き込んでいた。
しかしどんな憎悪や欲望に晒されようとも、ホーリードール家は聖女としての仕事をまっとうする。
そしてかゆみが消えたインキチは驚くほど素直に、勇者や聖女たちに転移した『白き音符と赤き線譜』を解除していた。
どうやら、ホーリードール家の屈託のない行動に、さすがのインチキ聖女も改心したようだ。
彼女は老木に埋め込まれたビー玉のような、澄んだ瞳で言った。
「さぁ、これですべてが元通りになりました……! それでは、栄えある優勝者様への祝福へとまいりましょう……!」
インキチはついに、ホーリードール家への完敗と、優勝を認めた。
あれほどまでに出し渋っていた優勝賞品を、ついに渡そうというのだ。
この英断にはついに、すべての者たちが快哉をあげた。
「お……おおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!」
観客の勇者や聖女、司会者やインキチ、そしてホーリードール家聖女たち……。
すべてがここにきて、ひとつになったのだ……!
ステージのまわりに集まった勇者や聖女たちが見守るなか、賞品授与式が行なわれた。
『ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ! それじゃあまず、副賞の授与じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんんっ!!』
司会者が合図をすると、ステージには黄金の塊が運ばれてきた。
明らかに純金のはずなのに、大きさは棺ほどもある。
表面には無数の宝石がちりばめられ、競い合うように七色の光を振りまいていた。
考えうるほどの贅のかぎりをこれでもかとつくし、よくばりな夢が現実になったかのような調度品。
観客の聖女たちからも、「ふわぁ……!」と感嘆の声が漏れる。
女であれば誰しもが心奪われる、永遠の輝き。
それはホーリードール家の姉妹ですら、例外ではなかった。
「うわぁ……! とっても綺麗です!」「うん……! とっても素敵ねぇ!」
『副賞はなんと、「伝説の黄金棺」じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんんっ!! かつて神が創造して地上にもたらし、この世界には数えるほどしか存在しないといわれるじゃんっ! 純金製なのに秘宝の魔力のおかげで軽量で、ここに入って埋葬されたものは、必ずや天国に行けるといわれているじゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんっ!!』
司会の紹介をよそに、姉妹はさっそく黄金棺の中に入り、キャッキャとはしゃいでいる。
「うん! これならパインちゃんも含めて、4人でも入れそうね!」
「はい! みんなで入るバスタブにぴったりです!」
それは、聞き捨てならぬ一言であった。
『ば、バスタブ……? あ、あの、それは伝説の黄金棺で……』
「おうごんひつ? でもごはんを入れるにしては大きすぎるでしょう?」
『い、いや、リインカーネーション様、そっちのおひつじゃなくて……』
「私たちは、このバスタブがちょうどいいサイズだと思って、今回の『聖心披露会』に参加することに決めたんです!」
望みのものが手に入って、幸せいっぱいの姉妹たち。
伝説級の逸品だというのに、さっそく使い倒す気でいるようだった。
これは例えるなら、空飛ぶじゅうたんを玄関の足ふきマットに使うと宣言しているも同然。
その大胆なる用途に、司会者だけでなく、観客の額からも、タラーとひとつじの汗が落ちる。
『ま……まあいいじゃん! 次はいよいよ、優勝賞品の進呈じゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ!!』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!」
これには観客たちも大いにヒートアップ。
なにせこの優勝賞品を手にいれるために、いままで多くの聖女たちが命がけのゲームに挑んできたのだから。
それを手にできるホーリードール家の姉妹は、きっと天にも昇る気持ちに違いないだろうと、思っていたのだが……。
ふたりはなんと、
「じゃあプリムラちゃん、そっちを持ってね」
「はい、お姉ちゃん。うわぁ、噂どおり、本当に軽いです!」
「これなら馬車まで運べそうね、おいっちに、おいっちに」
もう用はすんだとばかりに黄金棺をかかえ、そそくさとステージを降りようとしていた……!
『ちょっ!? ちょっと待つじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんんっ!! 肝心に優勝賞品がまだ残ってるじゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんっ!!』
呼び止められたリインカーネーションとプリムラは、運んでいる冷蔵庫をどこに置いたらいいのかわからない、引っ越し業者のようにキョトンとしていた。
「あらあら、まあまあ……。賞品って、これだけではなかったの?」
「そういえば、チラシにはなにか書いてありましたね。ぜんぜん印象に残っていなかったので、忘れておりました」
『なっ!? なんで忘れてるじゃんっ!? チラシには黄金棺よりデカデカと書いてあったじゃんっ!? それに賞品としては、こっちのほうがメインなんじゃんっ!?』
まったく信じられないといった様子で言われ、姉妹は持ち上げていた黄金棺を仕方なく降ろす。
観客たちは唖然としていた。
なにせこの優勝賞品を手にいれるために、いままで多くの聖女たちが女の命ともいえる髪を失い、なかには病院送りになった者までいるというのに……。
あまりといえば、あまりのリアクション……!
嫌な空気を吹き飛ばすように、司会者は叫んだ。
優勝商品を知ったら、彼女たちはきっと失神するほど驚くだろうと信じて。
『それではついに、おまちかねの優勝賞品のご入場じゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんんっ!!』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!」
歓声とともにステージ上に現れたのは、複数の警備をともなったガラスの入れ物。
まるで世界最高の宝石のような扱いで、うやうやしく運ばれてきたのは……。
それは目にしただけで、観客の聖女どころか勇者までもが、感涙にむせび、興奮のあまり呼吸困難になってしまうほどの……。
神話級の、逸品であった……!!
 





