49 1巻発売記念番外編 旋風と太陽29
『駄犬⇒金狼』の第1巻が発売中ですが、現状かなり厳しく、この調子であれば続刊は無理そうな状況です!
そこでお願いなのですが、発売中の第1巻をお手に取って頂けると嬉しいです!
私のやる気を、充填するためにも……! ぜひお願いいたします!
ゴトシゴッドの関係者が開催するイベントというのは、いつもケチをつけてゲームを無効にし、打ち切り漫画のような後味の悪さで締めるのが恒例とされている。
しかし今回は少しばかり、様子が違っていた。
どんどん大きくなっていくブーイングを慌ててかき消すように、司会者が叫ぶ。
『い……いつもだったら失格じゃん! でも今回は特別に、改めて優勝賞品を賭けたゲームに挑戦してもらうじゃんっ! それに勝てば、今度こそ、今度こそ本当に、豪華賞品をあげちゃうじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ!!』
発表されたのはなんと、延長戦……!
これは、異例中の異例の発表といっていい。
もちろんこれもインキチの差し金である。
彼女はこのまま終わらせるのを良しとはしなかった。
なぜならば今回の『聖心披露会』は、彼女が胴元を務めたゲームにおいて、もっとも大掛かりなものであったから。
実のところ、『聖心披露会』というのは、主催者となった大聖女の持ち出しとなる部分が多かったりする。
しかし主催をすると、自分の一門の聖女たちに好成績を収めさせることができるので、損して得が取れるようになっているのだ。
例えとしては正確ではないかもしれないが、オリンピックを自国開催すると金メダルの数が増えるのと同じようなものかもしれない。
そしてインキチの場合は、今回の『聖心披露会』にすべてを賭けているといってもいいほどに、私財を投げ打っていた。
もちろんそれも、投資として。
ホーリードール家を駒にするという、絶大なるハイリターンを得るがために……!
もしここでノーゲームにしてしまえば、釣り上げたも同然のクロマグロを、再び海に帰すようなものである。
そして漁船を動かすために費やした莫大な費用は、すべて無駄になってしまう。
だからこそインキチは通例の『勝ち逃げパターン』を歪めてまで、延長戦を企てたのだ。
そしてそれ以上に、彼女を駆り立てている要素がもうひとつあった。
それは……。
ホーリードール家に、デスゲームの怖さを知らしめること……!
件の姉妹はこれまでのゲームを、苦しむどころか楽しみながらクリアしてみせた。
他の聖女たちはゲームを通じて丸坊主にされ、病院送りにされ、人間関係までズタボロにされたというのに……。
あの姉妹だけは、3種のデスゲームを……。
まるで3種のチーズ牛丼のごとく、ペロリと平らげてしまった……!
デスゲームをチー牛扱いされたのでは、ひいてはゴトシゴッドの名にも傷が付く。
インキチはゲームマスターの名にかけて、何としても姉妹を叩き潰そうとしていたのだ。
しかし、これには大いなるリスクも存在する。
『隣人への愛』でホーリードール家を失格にできたのは、プリムラがマザーのフィールドに立ち入ったからという、いちおうの名分が存在する。
観客からのブーイングはあったものの、押し通せないほど理不尽な判定ではない。
これにより、大切な優勝賞品をホーリードール家に渡さずにすんでいたいのだが……。
延長戦を提案したということは、インキチはかならず、以下のどちらかを成し遂げなくてはならなくなってしまった。
次に提案するゲームで、ホーリードール家を失敗させる。
たとえホーリードール家が成功したとしても、ケチが付けられるような終わり方をさせる。
もし、次のゲームにおいてもなお、ホーリードール家が完全勝利してしまったら……。
今度こそ、優勝賞品を渡さねばならないだろう。
もちろんそのことは、インキチは100も承知であった。
だからこそ次のゲームのおいては、ホーリードール家の成功は絶対にあり得ないものを用意した。
それほどまでの自信を彼女にもたらしている『鉄板デスゲーム』。
その名は、なんと……!
『延長戦のゲームは、「旋風と太陽」じゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーんっ!! なんとこのゲームでは、今回の「聖心披露会」の総責任者と、1対1で戦ってもらうじゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ!!』
司会者の宣言にあわせ、ステージにひとりの大聖女が登壇した。
肉感的なボディを妖艶なドレスに身を包んだ彼女は……。
イ ン キ チ ・ オ ブ ・ ソ イ ホ イ …… !
『インキチ様は凄腕のギャンブラーとしても知られているじゃんっ! 彼女が現れたカジノには、多くの破産者が出ることから、「ゼロ・テロリスト」とも呼ばれているじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんっ!!』
インキチは普段、表舞台にはほとんど姿を現さない。
なぜならば、デスゲームの主というのは影で駒を操るのが美徳とされているからだ。
しかし、彼女は今回、胴元として姿を現し、姉妹に挑戦状を叩きつけたのだ。
しかも、彼女が最も得意とし、一度も負けたことがなく、勇者ですらひれ伏させたゲームで。
『旋風と太陽』のルールは単純。
インキチが親である『旋風と太陽』側となり、ホーリードール家が、子である『旅人』側となる。
親はどんな手段を用いてもよいので、子を全裸にすれば勝ち。
子の勝利条件としては、制限時間まで逃げ切ること。
今回の制限時間は10分。
10分を過ぎたあとに、子が靴下一枚でも身に付けていたら、子の勝ちとなる。
……このゲームはそもそも、大衆の前で行なうゲームではない。
理由は、言うまでもないだろう。
しかしそこにこそ、インキチの狙いはあった。
そう……!
彼女はこれだけ多くの勇者と聖女たちの前で、ホーリードール家をすっぱだかにしようというのだ……!
聖女というのは、一生をかけて仕えると決めた勇者以外には、肌を晒してはいけないとい不文律がある。
それを破った聖女は、聖女の恥さらしと呼ばれ、崇められることはなくなる。
といっても、多くの聖女は勇者に取り入るためにバンバン肌を晒す。
ようは、バレなければいいのだ。
しかし今回のゲームで敗北したら、多くの観客たちに肌を見られることになる。
そしてインキチはすでに観客を駒にしているので、見た者たちの口封じなど難しくない。
となれば姉妹は、葉っぱ一枚ない惨めな姿でインキチに跪き、
「お願いします、インキチ様! このことは公にしないでください! 黙っていてくださるのであれば、なんでも、なんでもいたしますから! お願いします、お願いしますぅぅ!!」
ついには、駒と成り下がるのだ……!!





