48 1巻発売記念番外編 旋風と太陽28
『さあっ、これですべてのゲームが終了したじゃん! すべてのゲームに勝ち残り、見事優勝を手にしたのは……!』
司会者が、ステージ上に設えられた優勝台をサッと示す。
2位と3位の所には誰もいなかったが、頂点の1位にはふたりの少女が仲良く手を取り合っている。
『……誰もが満場一致の、ダントツ優勝は……ホーリードール家じゃぁぁぁぁぁぁーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ!!』
「うおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
本日何度目かとなる歓声と、拍手が沸き起こる。
優勝台の姉妹に向けられたのは、他人が傷付くのを喜ぶ、ヤジや嘲笑などではなく……。
純粋に彼女たちの勝利を祝う、混じりけのない賞賛の気持ちであった。
ホーリードール家の聖女たちはついに、憎悪と流血、欲望と裏切りに満ちた『デスゲーム』を、愛に満ちあふれる空間に変えていた。
終盤だけ見るならば、これはまさに『聖心披露会』の光景といっていい。
そしてここでなぜか、せっかく醸成されつつあった清らかムードに水を差すかのように、ステージに勇者の像が運び込まれてくる。
先の『勇者への愛』で使われた、転移魔法の触媒となる像であった。
『それじゃあここで、勝者の聖女たちによる、勇者への忠誠のキッスじゃぁぁぁぁぁ~~~~~~んっ!』
『聖心披露会』は恒例として、優勝者の聖女が、勇者にキスをすることとなっていた。
これは『勇者への忠誠』を意味するものであり、キスする場所は聖女が選ぶことができる。
ここでより忠誠心を感じさせるキスをすることができれば、勇者へのアプローチともなるのだ。
そしていつもでれば、キスされる勇者は観覧ゲストのなかからひとりが選ばれる。
しかし今回は大勢いるということで、せっかくだから転移魔法にキスしてもらおうということになった。
つまり像にキスをすれば、そのキッスの感触が、2階客席にいる勇者全員に伝わることになるのだ。
これはようは間接キスでしかないのだが、それでもホーリードール家は勇者に触りもしていないことで有名。
たとえ間接でもキスを受け取ることができたら、それは……。
勇者として一生モノの幸福が得られるといっても、過言ではないっ……!!
これはまさに『女神のキス』。
勇者のみならず、男ならすべてを投げ打ってでも手に入れたいものであろう。
ちなみにではあるが、この女神たちがタコのように吸い付きたくてたまらないオッサンがこの世にいるという。
現に女神の片割れは、幾度となく吸い付きに挑戦しているが、一度も成功したためしがないらしい。
そんな与太話はさておき、客席の勇者たちは色めきたっていた。
「マジかよっ!? まさかホーリードール家の聖女から、キスしてもらえるだなんて……!」
「ホーリードール家の姉妹からキスされるなんて、大出世間違いなしじゃねぇか!」
「き……! 来てよかったぁ!」
「おい、どけよメスブタっ! せっかくの神聖なるキスが穢れるだろっ!」
膝に聖女を乗せていた勇者は、それまでずっとイチャイチャしていたのだが……。
ホーリードール家のキスがあるとわかったとたん、一斉に聖女たちを突き離していた。
「ふ、ふたりはど、どこにキスするつもりなんだろう!?」
「膝まずいて手にキスするか、土下座して靴にキスするのが普通だよなぁ」
「そんなんじゃつまんねぇだろ! せめて頬とかじゃねぇと!」
「なんだったら、口でもいいぜーっ!」
「それもいいけど、股間なんてどうだっ!?」
「あっ、それ最高! あの姉妹が跪いて、同時に股間にキスなんてした日には……!」
「か……考えただけでもやべぇぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!!」
そして2階客席から巻き起こる、卑猥なるコール。
せっかくの清らかムードは台無しであったが、当の聖女たちはノータイムで。
「ママはいいわ」「わたしも、辞退させていただきます」
まさかの、というか、やっぱり、というか……。
服従拒否っ……!!
しかもマザーにいたっては、
「ゴルちゃんの像だったら喜んでするけど。ううん、というか毎日してるけど」
余計な一言まで……!
そしてプリムラもつい「はい、わたしもです」と賛同してしまったが、自分がとんでもないことを口走ったことに気付き、かあっと赤くなって俯いていた。
いずれにしても「ええ~っ!!」とブーイングが起こる。
『ま、まさか拒否するとは……。ま、まあいいじゃんっ! 次はいよいよお待ちかね、優勝賞品の贈呈じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ!!』
気を取り直すように叫ぶ司会者。
しかし、こっそりやってきたスタッフから、そっち耳打ちされて、
『えっ……? あ、あの……。こ、ここで重大発表があるじゃんっ! 先の「隣人への愛」で、重大なる違反行為が認められたため、ホーリードール家の優勝はナシになってしまったじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんっ!!』
またしても「ええ~っ!?!?」とブーイングが起こる。
今度は1階客席の聖女たちも加わっていたので、さっきよりも不満度合は高かった。
優勝台のマザーは「まあまあ」と、プリムラは「そんな」と口を押えている。
『重大なる違反行為というのは、リインカーネーション様がゴールする寸前に、プリムラ様が手助けをしてしまったことじゃんっ! 「隣人への愛」において、ゴール前のパートナーの身体に触ることは、禁止となっているじゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんっ!!』
これは、インキチの決定……すなわちインチキであるのは言うまでもないだろう。
そしてこれこそが、ゴトシゴッドのやり方であった。
見栄えのいい派手な賞品で射幸心を煽り、カモを集めて大いに散財させ、いざ獲得となったら……。
あれやこれやとケチをつけて、賞品を渡さない……!
当然である。
そもそもインキチがゴトシゴッドから与えられている優勝賞品は、飾るためのもので、あげるためではないからだ。
ようは祭などの出店にある、1回100円のクジと同じようなことである。
景品の棚には、最新ゲーム機や高額なオモチャがずらりと並んでいるが……。
それは箱だけで、中身はカラッポ……!
いちおう現物はあるにはあるのだが、それはカモに見せるためで、決して渡すためではないのだ……!





