45 1巻発売記念番外編 旋風と太陽25
『駄犬⇒金狼』の第1巻が発売中ですが、現状かなり厳しく、この調子であれば続刊は無理そうな状況です!
そこでお願いなのですが、発売中の第1巻をお手に取って頂けると嬉しいです!
私のやる気を、充填するためにも……! ぜひお願いいたします!
会場の天井に吊された、垂れ幕のような巨大なロール紙。
そこには、これからホーリードール家が挑戦する、パネルの配置が描かれていた。
彼女たちより前に挑戦した9組のパターンだと、以下のような配置であった。
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□が安全マスで、■が地雷マス。
マス目をフルに使い、入り組ませた構造。
『見えない死の迷路』といっていい、複雑さであった。
しかし、ホーリードール家が挑戦することとなった、迷路の構造は……。
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一直線っ……!?
ただまっすぐ進むだけで、ゴールにたどり着ける……!?
これだけ見ると、今までのは何だったのかと思えるほど、簡単そうに見えるが……。
しかしこのゲームにおいては、真逆。
この一直線の配置こそが、もっとも難しいとされているのだ……!
なぜならば、このゲームは『挑戦するパートナーに正解を教えてもらいながら進む』のが攻略法だからだ。
想像してみてほしい。
これまで他の挑戦者はさんざん入り組んだ迷路のような構成に挑戦してきたというのに……。
いざ自分の番になったらパートナーが、
「ずっとまっすぐだよ!」
などと、言い出したら……。
たとえ、パートナーが尊敬する大先生であったとしても、
「そんなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」
と声を大にしてツッコミたくなるのが人間というものだろう。
そしてその時点で、パートナーとの関係は破綻。
『一直線なんてあるわけがない』という思い込みに支配され、罠だらけの地帯に、自ら突っ込んでしまい……。
あっさり、ズタボロにっ……!
そしてこれは当然ではあるのだが、今までの挑戦者に割り当てられていたパネル配置は、ふたりでそれぞれ異なるものだった。
配置を左右反転した程度だと、ゲーム中に法則性を見抜かれてしまうからである。
しかし今回は、左右反転どころか、両者とも同じ一直線という配置。
これがまた、挑戦の難易度をさらにアップさせていた。
今までの挑戦を観てきた観客たちも、骨身にしみるような声を漏らす。
「い、一直線だなんて、ムチャだろ……!」
「こ、こんなの、できっこないわ……!」
「最初の1歩や2歩は、言われたとおりに真っ直ぐ進むかもしれないけど……」
「ずっと真っ直ぐが続いたら、絶対不自然だって思うに決まってるだろうが!」
「それを信じるとしたら、よっぽどのバカだよ!」
「それか、殺されてもいいほど相手を信用しているか……。いや、そんなヤツがいるわけねぇ!」
この残酷なるパネル配置に、観客たちは最初は痛ましそうにしていた。
しかしその悲痛なる顔に、じょじょに愉悦のようなものが混ざりはじめる。
「ああっ、ホーリードール家にも、ついに土がついてしまうのですね……!」
「いいえ、土どころじゃありませんわ! 良くて自分の血が、最悪だと自分の肉片がついてしまうかも……!」
「女神の生まれ変わりといわれたホーリードール家も、やっぱり人の子……それはしょうがないのかもしれませんね……!」
「プリムラやマザーが……! あの、シミやくすみひとつない、新雪のような白い肌が……!」
「凶刃に貫かれ、獄炎に焼かれるだなんて……!」
「あの女神のような美しい顔が、ついに苦悶に歪むんだ……! そしたら、どんな声で鳴くんだろう……!?」
「そ、想像しただけで……。やっ……やべえぇぇぇぇぇーーーーーーっ……!!」
客席にいるのは勇者と聖女ではなかった。
美しきものが穢され、傷つけられるという、背徳感を待ち望む……。
サディスティックな欲望を剥き出しにした、男と女……!
男たちは今にも暴発してしまいそうなほどに股間を押え、女たちは今にも溢れんばかりに身を捩らせている。
VIPルームのインキチも、官能にむせいでいた。
「おこのおパネルお配置は、おこのおゲームにおおけるお最高お難易度なのでございます……! お現在まで、おこのおゲームをおクリアされたお方は、おごくおわずかにおおられますが、おこのお配置をおクリアされたお方は、お誰お一人としておおりません……!」
足元で跪く美青年の舐めあげを受けながら、彼女は妖艶に微笑む。
「わたくしにおここまでお手をお回しおあそばせるとは、おあっぱれでございます……! お間違いなく、おこのわたくしにお挑まれたおなかで、お最もお強いおプレイヤーでございます……! おしかし、おいくらあがきになられても、おしょせんは、お『駒』……! わたくしのお手のおひらのお上で、おころおころとお転がされるお宿命なのでございます……!」
『それじゃあ、時間いっぱいじゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!! この「聖心披露会」における最終ゲーム、今まで誰ひとりとしてクリアできなかったじゃん! 最終挑戦者であるホーリードール家こそ、やってくれるのか……!? それとも、今までの挑戦者と同じで、病院に担ぎ込まれるのかっ……!?』
司会者はバッと手を挙げる。
その音が響き渡るほどに、場内は静まり返っていた。
そして、ついに……!
『ホーリードール家の「隣人への愛」……! スタートじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!』
緊張感クライマックスで始まった最終ゲーム。
だれもが挑戦者である聖女姉妹の一挙手一投足を見逃すまいと、瞬きどころか呼吸すらも忘れて見入っていた。
となれば、当の聖女姉妹は、相当なプレッシャーを感じているはずである。
きっと、どうやってパートナーを陥れようかと、悶々としているに違いないはずなのだが……。
彼女たちは実に朗らかに、
「あっ、お姉ちゃん! とっても簡単ですよ! そのまままっすぐゴールに進んでください!」
「あらあら、まあまあ! こっちも同じよ! プリムラちゃんのほうも、そのまままっすぐ進んで!」
お互い、素直に白状っ……!
しかし常識的に考えれば、一直線の配置など、伝えたところで信じてもらえるわけがない。
しかし、しかしっ……!
「そうなのですか? わたしたち、とっても運がいいですね!」
「まあまあ、本当ね! 今日は日差しが気持ちよかったし、お昼のお弁当もとってもおいしかったし、ママの子供たちもいっぱいできたし、とってもいい日ねぇ!」
この悪魔の配置を『運がいい』と喜ぶ彼女たち。
そしてさらに、にわかには信じられない行動に出る。
「よぉし、それじゃあプリムラちゃん、せっかくだから、いつものやつをやりましょうか!」
「えっ、こんな所でですか……? ……わかりました、いいですよ。でも、気をつけてくださいね?」
なんと、なんとっ……!
「「……よぉ~い、どーんっ!!」」
ふたりは実に楽しげに声を揃え、かけっこのようにパネルの上を走り出したのだ……!





