13 決着、そして仲間割れ
剣術大会の体育館に、併設されている停馬場。
整列する馬と馬の間に、ひときわ大柄な馬がトップスピードで滑り込んできた。
……ズザザザザザザザッ!
ドリフトによる縦列駐馬をキメる。
馬の世話係は、サンドスプラッシュをあびて尻もちをついてしまった。
目の前にひらりと飛び降りてきたオッサンに、二度びっくり。
抗議の声をあげようとしたが、胸ポケットに1日分の稼ぎほどのコインをシュートされて、三度びっくり。
すっかり機嫌をなおして、「旦那、お気をつけてー!」とニコニコ笑顔で走り去るオッサンを見送っている。
ゴルドウルフはプリムラをお姫様抱っこしたまま、会場へと急いだ。
体育館からは男女の勇ましいかけ声と、床板を踏み込み鳴らす音が聞こえてくる。
音の発生源はふたつしかなく、応援や歓声はない。
息を飲むほどの緊張のオーラが伝わってきて、狼は察した。
間違いなく決勝、それも最後の試合が行われていると。
獲物を追うように廊下を駆け抜け、決戦の只中に飛び込んだ彼は、ついに目撃する。
いくつもの破壊、そしていくつもの破滅を。
中央のコートでは、弁慶のような大振りの一撃を、叩きつけた直後の総大将。
それを牛若丸のように、華麗なる跳躍でかわすお嬢様の姿が。
ツインテールを翼のようになびかせ、急降下……!
「これがぁ、クラスメイトみんなの分っ……!」
気合を込めた、超・大上段からの振り下ろし。
白銀の剣閃が、華厳の滝のように降り注ぐ。
……バキィィィィィィーーーーーーーーーーーンッ!!
全身に霜割れが走り、吹雪のように散りゆくマナシールドの破片。
「ぐわぁっ!?」
額を割られたようにのけぞる、ニセ小学生……!
しかし、お嬢様のターンは終わらない。
ツインテールは金色の真一文字を描く。
「これが、グラスパリーンの分っ……!」
そして踊るように放たれる、ローリングソバット……!
……ドスッ!!
胸当ての下で見せつけるように露出していた、割れた腹筋に突き刺さる……!
「ぐふうっ!?」
胃液を吐き飛ばしながら膝を折る、インチキ小学生……!
荒れ狂うお嬢様は、もはや誰も止められない。
ツインテールは波濤のように渦巻く。
「これがぁ、ゴルドウルフの分っ……!!」
視線の高さまでおりてきた、坊主頭めがけ……スレッジハンマーのような柄殴り……!
……ガスッ!!
今度は本当に額がパックリと割れ、血が汗とともに迸る……!
「ぎゃあっ!?」
強制土下座をさせられるように足元に倒れ伏す、モグリの小学生……!
一方的どころではない、もはやフルボッコ。
「そしてこれがぁ、アタシの分よぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」
もみじのような手に握られたロングナイフが、バトンさながらにクルンと回転。
逆手に構えられた。
……その瞬間、誰もが目にしていたであろう。
Vの字型に逆立った、彼女のツインテールを……!
天を衝くような、黄金の二筋の軌跡を……!
その奇跡の輝きはまさに、揺るぎなき勝利宣言……!
もはや疑いようのない、絶対的勝利……!
物言いなど差し挟むことすらできない、決定的敗北……!
「せいやぁぁぁぁーーーーーっ!! ナイツ!!! オブ!!! ザ!!! スラムドッグぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ドガシュゥゥゥゥゥゥゥッ……!!!!!
「ぐっ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
トドメの突きおろしで後頭部を穿たれ、替え玉小学生はついに断末魔のおたけびをあげたのだ……!
もちろん剣先にはカバーがあるので大事には至っていないのだが、リアクションだけなら巨星墜つ……!
敵ながら天晴……!
見事な散りざまであった……!
しかし、その余韻はすぐに台無しにされてしまう。
「このロリコン腐れナスビが! テメーの教え子がドジるから、なにもかも台無しになっちゃったじゃねーの!!」
「誰がロリコンだノン! 誰が腐れナスビだノン! ノン! ノン! ノン! ならばこっちも言わせてもらうノン! この軽薄チャラ男! 元はといえば、大会前にガキどもを始末できなかったキミの責任だノン!!」
黒板を引っ掻きあうような、不快極まりない金切り声。
会場じゅうの注目を強引にさらっていったのは、小部屋の中で揉み合うふたつの人影だった。
そこは、この大会では『神の住まい』ともいえるコミッショナールームなのだが、今はカミキリ虫が入った飼育ケースにしか見えなかった。
罵り合いはだんだん激しくなっていき、ついにはオカマの喧嘩のような掴み合いとなる。
ふとしたはずみでガラスに叩きつけられたのをきっかけに、お互いの顔をぶつけ合うハンマースルー合戦へと発展した。
ドガッ! ドガッ! ドガッ! ビシッ! ビシィィィッ……!!
ダイヤモンドリッチネルとミッドナイトシャッフラーは、やりあうように交互に頭を掴みあい、ガラス窓めがけて顔面を叩きつけあっている。
心の醜悪さが染み出していくかのように、容貌がどんどん奇形になっていく勇者たち。
観客、ドン引き……!
「死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! キメェんだよこのロリコン! テメーみたいなのがなんで導勇者でいられるんだよっ!?」
「殺すノン! 殺すノン! 殺すノンッ! その言葉、そのまま返すノンッ! 格下のクセして逆らうなど! 万死に値するノンッ!!」
その顔は凶器攻撃を受けたプロレスラーのように、じょじょに赤く染まっていく。
ガラスに飛び散り、滴りおちる体液は、もはや飼育ケースなどという風情ではない。
ふたりの精神異常者を閉じ込めた、隔離病棟のような怖さがあった。
巨大な蜘蛛の巣のようにひび割れていく窓。
奇行を止めようと、大会スタッフが部屋に飛び込んでいったが……時、すでに遅し……!
……バリィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーンッ!!!
仲間割れ、決着……!
先の子供たちの剣術試合に泥を塗るような、世にも見苦しい場外乱闘に終止符が打たれる。
哀れ、敗北を喫した人影は、窓をブチ破って外に飛び出してしまった……!
果たしてそれは、チャラ男なのか……? はたまたナスビなのか……!?
沙流様と、東方好き様よりレビューを頂きました! ありがとうございます!
2件もレビューを頂き、やる気が一気に出ました!
勢いに任せ、久々の2話更新をさせていただきます!
今日中にもう1話掲載させていただきますので、ご期待ください!