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40 1巻発売記念番外編 旋風と太陽20

 2階の勇者たちの客席では、1階の客席の聖女たちが合流して和やかな昼食タイムが繰り広げられていた。

 その様子を、VIPルームから眺めていたインキチ。


 そして、ひとりつぶやく。



「わたくしのゲームに参加しておくださった方は……すべて、わたくしの『駒』になる……。それは、参加者様はもちろんのこと、観客(オーディエンス)でおすら例外ではないのです……」



 彼女は客席にいる、とある勇者と聖女のカップルを目にしていた。

 勇者は聖女の手作り弁当を嬉しそうに頬張っていたが、突然喉を押えて苦しみはじめる。


 なにか喉につかえたようで、まわりの勇者たちが協力して吐き出させていた。

 「ごはあっ!?」と口から飛び出したのはなんと、


 ……ゴルフボールっ……!?


 聖女は「まちがっちゃったぁ!」みたいなテヘペロ笑顔を勇者たちに向ける。

 しかし勇者は許さず、聖女に馬乗りになってタコ殴りにしていた。



「このわたくしにかかれば、観覧の勇者様も、もれなくわたくしの駒になり……。憩いのひとときの昼食ですらも、ゴルフゲームのホールカップとなるというのに……!」



 すべてが思いのままになるはずであった。

 この世界の支配者である勇者ですら手のひらの彼女に、神以外は操れぬものなどないと思っていた。


 しかし、しかしっ……!



あの(●●)聖女様たちだけは、なぜにっ、なぜにっ……!? このわたくしの思いお通りにならないのでございますかっ……!?」



 ふたつのゲームを通して、ホーリードール家の聖女たちは心身共に極限状態に置かれるはずであった。

 庶民からは金と天秤にかけられて捨てられ、勇者からは愛を天秤にかけられて捨てられ……。


 彼女たちがありあまるほどもっていたそのふたつの人間(モノ)を、どちらもギャンブルのチップのように手放していたはずなのに……!


 なのに、なのにっ……!


 彼女たちは失うどころか、さらなる金を、新たなるモノを手に入れている……!


 これはいわば、『子のひとり勝ち』っ……!


 ありえない、それは。

 ギャンブルというのは絶対に、最後は胴元が勝つようにできているのだ。


 彼女はいままで多くのゲームを企画し、多くの勇者や聖女たちを型に嵌めてきた。

 損をしたことは一度もなく、彼の主人であるゴトシゴッドもそれが当たり前だと思っている。


 しかも今回は、多くの獲物を釣るためにかつてないほどの莫大な投資をしている。

 それなのに損害を出すようなことになってしまったら……。


 捨 て ら れ て し ま う っ …… !


 それだけは何としても避けねばならない。


 インキチはわずかな焦りを感じていた。

 なにせ食前酒(アペリティフ)付きだし(アミュズ・ブーシェ)に続いて、前菜(オードブル)までもを食い損ねてしまったのだ。


 料理がテーブルに運ばれてきて、今度こそ食べられると思ってフォークを突きたてようとしたら、



「あっ、こちらはあちらのお客様のものでした」



 運んできたウェイターから、サッと皿を下げられてしまい、



 ……カスゥッ!!



 とフォークはテーブルクロスに突き刺さったも同然。


 そして、『あちらのお客様』は言うまでもなく……。


 あの(●●)、いけすかない聖女姉妹っ……!



 ――キッ……キェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 そう思うだけで、インキチは怪鳥のように叫び出したい気分であった。


 しかしゴトシゴッドからの教えを守り、静かにそこに佇むのみ。


 彼女は必死に自分に言い聞かせていた。



 ――安心を、安心をっ……!

 まだ、まだ大丈夫でございます……!


 次の、次のゲームこそが、メインディッシュ……!


 ぐうぜん胸に贅肉があるというラッキーのみで、多くのお勇者様の視線を独り占めなさってきた、おあの(●●)ニセ聖女様方を……!


 次こそは、食らわせていただきますっ……!!


 次のおゲームは、どちらかお一方は、料理される……!

 どんなにがんばりあそばせても、必ず1匹は、食われるっ……!


 2匹はすでに、まな板の上の、鯉……!

 どちらが先に包丁を入れられるかで、醜く争いあうのみ……!!


 そう……!

 極上の絶望に、あのみっともない身体を、びちびちとのたうたせるのみなのでございますっ……!!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 昼食休憩を終えた20組の聖女たちは、ステージ前に戻っていた。



『えーっと、ちょっと前後してしまったけど、第2ゲームの結果発表じゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!! じゃんじゃじゃぁーーーーーーーーんっ!!』



 司会者は精一杯盛り上げようとしていたが、場内は実に静かであった。


 無理もない。

 誰もがお腹いっぱいになって眠くなっているのと、結果があまりにもアレだったから。


 運び込まれたランキングボードは、またしてもシンプルの極地であった。



 1位:ホーリードール家チーム(1000ポイント)


 2位~19位:1位以外の全チーム(50ポイント)



『またしても区間優勝は、ホーリードール家になってしまったじゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっ!! しかも2位以下に20倍の差をつけてのぶっちぎりじゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ!!』



 大いなる拍手と歓声が、ホーリードール家の聖女たちを包む。

 観客席の聖女たちは、昼食前とはうってかわって、感涙に頬を濡らしはじめる始末。


 彼女たちはもしかしたら、結果発表においてどんでん返しがあると思い、涙を取っておいた。

 しかし第2ゲームでもホーリードール家の1位が確定した途端、大袈裟に大感激。



「あ、ああ……! リインカーネーション様は、なんと慈愛に満ちたお方なのでしょうか……!」



「私はわかっていましたわ、プリムラ様が、なぜ勇者様のボタンを押し続けていたのかを!」



「そう! あのお方たちはゴッドスマイル様に仕える聖女様たち……! ゴッドスマイル様以外には、見向きもしないということなのです!」



「まあっ!? なんという尊いお考えなのでしょう……! あのお方たちこそ、聖女のなかの聖女ですわ!」



「ええ! これこそが、本当の聖女の愛……! それが100名もの勇者様にも伝わったのでしょうね!」



「やっぱり、私の言ったとおりになったでしょう!? 第1ゲームに続いて第2ゲームもホーリードール家がトップになると!」



「この会が終わったら、まっさきにホーリードール家に入門しようと思います!」



「ええ、私もですわっ!」



 もはやスコアボードだけでなく客席にも、


 ホーリードール家 > それ以外の聖女一門


 の図式ができあがりつつあった。


 そして、ここで新たなる問題が発覚する。


 最終ゲームに進めるのは、第2ゲームにおいてポイント上位の10組である。

 1位のホーリードール家は決定として、2位以下はぜんぶ団子状態。


 どうやって、2位以下を決めたかというと……。



『じゃ……ジャンケン大会じゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんっ!!』



 なんと……!

 歴史ある聖女の発表会、『聖心披露会』の結果を、ジャンケンで……!?


 これではまるで、公民館で行なわれるレクリエーションである。


 これには参加者の聖女たちから大いなるブーイングがあがった。

 なにせ、第1ゲームを勝ち抜くために庶民に大枚をくれてやり、第2ゲームでは三途の川が見えるほどに身体を張ったのだ。


 それをここにきて、ジャンケンだなんて……!


 あまりとえいば、あまりである。

 しかし、客席の勇者や聖女たちはもう2位以下には興味がないようで、「それでいいじゃん」という雰囲気が大勢を占めていた。


 結局……。

 運だけで9組が選出されることとなった。

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[一言] >「あの聖女様たちはなぜに!? このわたくしの思い道理にならないのでございますか!?」 ・・・それはな・・・あの聖女様たちは、唯一アンタの思い道理にできない 『女神の生まれ変わり』 だから…
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