31 1巻発売記念番外編 旋風と太陽11
『次のゲームはなんとっ……「勇者への愛」じゃぁーーーーーーんっ!!』
もはや司会者ですら『ゲーム』呼ばわりするようになってしまった、『聖心披露会』。
次なる種目では勇者を相手に、聖女の愛を示せという。
茶番度合をさらに加速させそうな対象ではあるが……。
ともかく、第2ゲームのルールはこうだった。
前回のゲームは1人ずつの挑戦だったが、今回は2人ひと組のチーム制。
まず、『試練を受ける聖女』と『スイッチを押す聖女』の役割、どちらを受け持つかを決める。
ふたりの身分が同じ場合は話し合いで分担を決めてよいが、身分の異なる場合は高いほうが『試練を受ける聖女』にならなくてはいけない。
たとえば大聖女と門下生の聖女のペアであれば、大聖女が『試練を受ける聖女』となり、門下生が『スイッチを押す聖女』となる。
ステージには中央にガラス張りの部屋がふたつあり、『試練を受ける聖女』はその部屋の片方に入る。
『スイッチを押す聖女』は、部屋の外にあるスイッチ台に立つ。
準備が完了したら、ドラムロールとともに抽選開始。
まず、『スイッチを押す聖女』がステージ上に並べられた大判のカードのうち、1枚を選択。
カードには、『勇者の人数』と、いくつかの『試練』が書かれている。
説明のためここでは、
勇者の人数が、『2人』。
試練1:デコピン
試練2:顔面パイ
試練3:火炎地獄
試練4:腹にパンチ
試練5:股間にキック
とカードに書かれていたとしよう。
『勇者の人数』にある数だけ、観客席への抽選を行ない、試練に参加する勇者を選出する。
例の場合は2回の抽選を行ない、2人の勇者をランダムに選ぶ。
選ばれた勇者は客席からピッチに降り、『試練を受ける聖女』とは別の、もうひとつのガラスの部屋に入る。
これで準備は完了。
引いたカードに書かれている『試練1』から順番に実行されていくわけだが、『スイッチを押す聖女』は手元のスイッチで、ガラス部屋の中にいる勇者と聖女、どちらに試練を実行させるかを選ぶことができる。
例の場合だと、『デコピン』を勇者もしくは聖女のどちらに受けさせるかを選ぶというわけだ。
なお例の場合だと、ガラス部屋の中に勇者はふたりいるが、試練を受けさせられた場合は、両者ともデコピンされることになる。
そして聖女が試練を受けさせられた場合は、勇者の人数分の威力のデコピンをされることになる。
ようは、勇者の2倍の威力のデコピンとなるわけだ。
ガラス部屋の中には『試練執行人』と呼ばれる屈強な男たちがいて、彼らが試練を遂行する。
ちなみにではあるが、部屋には鍵がかかっており、挑戦が終わるまでは外に出ることはできない。
聖女が試練を受けた場合、ひとつの試練につき10ポイントが与えられる。
ということは、すべての試練を聖女が受けきった場合は、チームは最大で50ポイントを得ることができる。
となるとすべての試練を聖女に受けさせればよいのだが、ここにひとつのミソがある。
試練を受けた聖女が、意識不明となった場合は失格となってしまうのだ。
そのため、スイッチを操作する聖女は、ガラス部屋の中にいる聖女の様子を見て、危なそうであれば勇者に試練をなすりつけることができる。
カードに書いてある試練はランダムとなっており、キツさも様々。
例にするならば、『試練3:火炎地獄』などはかなりヤバそうなので、聖女に受けさせずに勇者に受けさせるというのもアリかもしれない。
なお勇者が意識不明となった場合はペナルティなどはなく、新たに別の勇者が選出される。
……これが、『愛』……?
それに勇者様を危険に晒すとは、なんと罰当たりなゲームだ……!
と思われるかもしれないが、これはあくまで過激さを演出するためのポーズに過ぎない。
なぜならば聖女たちは誰も、勇者に試練を課すことなどできないからだ。
その理由としてはふたつ。
ひとつは、いくらゲームとはいえ、こんな公の場で勇者を傷つけてしまっては、聖女の評判に傷が付いてしまうから。
そしてもうひとつの理由は、すべての参加チームの挑戦が終わったあと、勇者からの『評価タイム』があるから。
これは、観客席にいる勇者たちが、聖女たちが示してきた愛を見て、いずれかひとつのチームに投票するというもの。
勇者の投票は1票につき10ポイントという高得点となっている。
もし、ひとつでも勇者に試練を与えた日には、1票も入れてもらえないという悲惨な結果になりうるからだ。
ゲーム中の試練で得たポイントと、投票で得たポイント、それらを合わせて高得点だった上位10チームが、次の最終ゲームへと進出できる。
となれば、このゲームに勝つたにはどうすればいいか、おのずとハッキリしてくるだろう。
試練はすべて仲間の聖女に受けさせるのは当然として、あとはいかに勇者の投票を1票でも多く得るかという点に尽きる。
そのため、このゲームは前ゲーム以上に、くっさい茶番と地獄絵図が繰り広げられていた。
かる~く、ダイジェストでご紹介しよう。
とあるチームが引き当てたカードは、以下のような内容だった。
勇者の人数『4人』
試練1:デコピン
試練2:特大ビンタ
試練3:激辛トウガラシ一気食い
試練4:髪を掴んで引きずり回される
試練5:矢で膝か肘を射貫かれる
『まずは最初の試練、デコピンじゃぁーーーーんっ!!』
「ああっ、デコピンだなんて、そんな……! 私の尊敬する大聖女様の、美しいお顔を傷つけるだなんて……! 私にはできませんっ!」
「いいえ、やるのです! 私たち聖女はなんのために存在していると思っているのですか! 勇者様をお守りするためにいるのです! よいですか、今回の試練ではすべて、私のスイッチを押すのです!」
「はいっ、先生!(ポチッ)」
……バチィンッ!!
「ぐはぁっ!? ゆ、勇者様のためなら……! このくらい、なんともありません!」
4倍の威力のデコピンを受けた大聖女の額からは、ひとすじの血が流れていた。
『それでは次の試練、特大ビンタじゃーーーーんっ!!』
「ああっ、ビンタだなんて、そんな……! 私の尊敬する(以下略)」
「いいえ、やるのです!(以下略)」
「はいっ、先生!(ポチッ)」
……バチコォォォォォォォーーーーーーーーーーーーンッ!!
「ぎゃはあぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!? ゆ、勇者様、ご、ご覧になられておりますか……! 私はどれほど痛めつけられようとも、勇者さまをお守りいたします……! これが、これこそが、私が勇者様に捧げる、本当の愛というものなのです……!」
4倍の威力のビンタを受けた大聖女の口からは歯が弾け飛び、頬はボコンと腫れ上がっていた。
『3つ目の試練は、次の試練、激辛トウガラシ一気食いじゃーーーーんっ!!』
「ええっ、トウガラシ!? たしか先生は、辛いものが大の苦手でしたよね!? でもさっき、すべての試練を受けるとおっしゃってましたから、これも……! 勇者様のためなら、苦手なものもためらわず受け入れるだなんて、さすがは先生ですっ!」
「ちょ、ちょっと待って! 勇者様はお辛いものが得意かもしれないから、聞いてみて……!」
「わかりました! 先生のお気持ち、きっと勇者様にも伝わります!(ポチッ)」
「って、押すなぁぁぁぁぁーーーーーっ!? ぎゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
口に4人分の激辛トウガラシを無理やり詰め込まれ、生きたまま炎に焼かれるようにのたうち回る大聖女。
「つ、次は……髪っ!? そ、それは嫌っ! せっかく前のゲームで切られずにすんだのに……!」
「ああっ、先生……! なんと自己犠牲に満ちあふれた御方なのでしょう! 聖女の命ともいえる髪をも犠牲にして、勇者様をお助けになるだなんて……!(ポチッ)」
「やっ……やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
……ブチブチブチブチブチィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!





