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29 1巻発売記念番外編 旋風と太陽9

 聖少女プリムラの偉業に、客席はスタンディングオベーション。



「すげえっ! すげえよっ、プリムラ!」



「なんにもしてねぇのに、庶民を懐柔しちまったぞ!」



「ホーリードール家の聖女力(せいじょりょく)はハンパねぇって聞いてたけど、まさかここまでとは!」



「やっぱり、ゴッドスマイル様が召し抱えようとされる聖女一家だけのことはあるなぁ!」



「いままでの聖女がゴミクズに見えるぜ!」



 2階客席の勇者たちは熱狂し、1階客席の聖女たちはウットリしている。



「さすがは、プリムラ様っ……!」



「ホーリードール家の聖女力は、近隣諸国でも一番かもしれません!」



「私がいま仕えている大聖女様なんて、丸坊主になってしまったというのに……!」



「これからの時代は、ホーリードール家かもしれません!」



 客席がひとつになって、プリムラに羨望の眼差しを送っていた。


 しかし当のプリムラは、自分が歴史に残るほどの偉業を成し遂げたことに気付いていない。

 彼女はそんなことよりも、母子と再会できたことと、なによりもふたりが健やかであったことを喜んでいた。


 その様子を、今回の聖心披露会のコミッショナーであるインキチは、2階客席にあるVIPルームから眺めていた。


 『駒』たちがゲームに翻弄される様を、ワインを飲みながら眺めるのが、彼女の愉しみのひとつであったのだが……。

 高級な美酒に水滴が落ちるような、わずかな無粋を感じていた。



「……おまさか、おこのわたくしがお胴元をおつとめるおゲームで、お不正をなさるとは……」



 インキチは自分の仕込んだインチキは棚に上げ、不快そうに眉根を寄せる。



「おあのお聖女は、お事前におあのお母子をお買収おなさっていたのでしょう。おそれもお1千万(エンダー)を、お超えるお金をお差しお上げて……。おでなければおあのお母子が、お報酬をおすべてお投げお打ってまで、おボタンをお押すお理由など、おどこにもございません」



 そして彼女も勇者と同じく、本当の愛というものを知らない人間だった。

 だからこそ、プリムラの偉業も真っ先にインチキだと決めつけていた。



「おたとえおどんなお不正をおなさろうとも、おゲームがお始まったお以上、おすべてのお参加者はわたくしのお手のおひらでお転がされるお存在でしかおないのでございます。おいまからおそのおことをお思いお知らせておさしあげれば、お少しはお大人しくおなることでございましょう」



 彼女は、そばに控えていたタキシード姿の美青年を、視線だけで呼ぶ。

 顔を寄せてきたその端正なる横顔に、舐めるような囁きを与える。


 美青年がVIPルームを出て、外にいたスタッフになにか伝え、それが伝言ゲームのように、ステージ上の司会者の耳に入った。

 途端、無粋の極みのような声が割り込んでくる。



『ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ! 先ほどのプリムラ様の挑戦は、無効とさせていただくじゃぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!』



 この発表には誰もが「ええっ!?」となった。



『無効の理由としては、庶民がマスクを取って、素性を明かしてしまったことじゃんっ! さらにはプリムラ様の下僕(しもべ)であることも白状したじゃん! ということはプリムラ様と庶民の間で、談合があったに違いないじゃぁーーーーーーーーーんっ!!』



 インキチはプリムラの偉業に対して強権発動。

 なんと、一方的にインチキと決めつけ、ゲーム無効を言い渡したのだ。


 もしプリムラがしたことが本当にインチキだったのであれば、大会の規定としては即失格となり、会場から強制退場させられる。

 しかし、プリムラは失格処分にはならなかった。


 なぜならば、ホーリードール家の痴態を真写(しんしゃ)に収めないうちに大会から追い出してしまうというのは、網にかかった魚を、わざわざ放流するようなものだからだ。


 よってプリムラに下された処分は『再度の挑戦』。

 プリムラは再び、断髪の危機に晒されることになったのだ……!


 初回は運良く、かつて助けた母子を引き当てたからうまくいったようなもの。

 しかし、再抽選された庶民とあっては、そうもいかない。


 さすがのプリムラも、今度こそ本当に、愛を試される時が来たのだ……!


 ……いや、訂正しよう。

 プリムラの愛を試されるというよりも、正しくは……。


 むしろ再挑戦によって、プリムラの愛は、より高らかに鳴り響くことになったのだ……!


 ゲームは再開され、プリムラは別の庶民と対峙することになった。

 次に選ばれたのは老婆だったのだ、彼女もまた、



 ……ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!



 スタートコールよりも早く、ボタン連打っ……!



『む……無効! 無効じゃあんっ! だ、だって、スタートっていう前にボタンを押したんだから、フライングじゃあんっ!!』



 司会者によりすぐにノーゲームが叫ばれ、再再度の抽選がなされる。

 次に選ばれたのは、酔っ払いの中年であった。


 彼はスタートコール中にボタンを押すことはなかった。

 今度こそ本当に大丈夫だと、司会者が安堵したのも束の間。



 ……ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!



 スタート直後に、猛烈なるボタン連打っ……!



『む……無効! 無効じゃあんっ! だ、だって、か、顔が赤いじゃあんっ! これはドーピング、ドーピングじゃあんっ!!』



 このあたりで、司会者は悲鳴混じりとなった。


 しかしいくら彼が無効を叫んでやり直しさせても、結果は同じであった。


 なんと、聖少女プリムラは……。

 今回連れてこられた庶民全員と、何らかの形で関わっていて……。


 自身の愛の素晴らしさを、もはやすっかり刷り込み終えた後だったのだ……!


 庶民たちはみな、高額の報酬を失うのもかまわず、聖少女のためにボタンを連打した。


 その間、当の彼女はなにもしていない。

 ただキョトンと、椅子に座っていただけである。


 なのに毎度、最速で最高得点をマークするという、おそるべき愛の無双っぷりであった。

 蓋を開けてみれば、連れてこられた庶民全員がプリムラを支持するという、前人未踏のパーフェクトゲームを達成。


 インキチがホーリードール家に仕掛けた、デス・ゲーム……。

 その第1波はプリムラ旋風によって、完全撃破されてしまったのだ……!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見たかあああああああああ!!! これが本当の愛の力じゃあああああああああ!!! (二回目) [気になる点] >そして彼女も勇者と同じく、本当の愛を知らない人間であった・・・ ・・・これ…
[一言] へへ、インチキだと決め付ける時点で終わったもんだぜ。 ああ、アンタのことを何て言うか分かるんかい?「性根の曲がった卑怯者」だよ。
[良い点] なんかもう どっかで見たパターンになってますねえ!(ニヤリ) もはやこれは幸運ではなく 全て普段からの行いっだったからなのですね!(ニヤリ) やはり普段からの行いは超大切ですね!(ニヤリ)…
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