23 1巻発売記念番外編 旋風と太陽3
さらに、ゴトシゴッドランドのチラシの裏には、別の告知があった。
『今年はハールバリー小国において、聖心披露会を開催いたします!』
『聖心披露会』……。
これは、聖女たちが日頃に積み重ねた信心の成果をお披露目する、いわば発表会のようなもの。
近隣諸国が持ち回りで開催を担当し、今年はハールバリーにお鉢が回ってきたというわけである。
この披露会には毎年、ホーリードール家も特別ゲストとして招かれているのだが、先代から辞退を続けていた。
理由としては、『聖女の力というのは披露するためにあるのではなく、民衆を助けるためにあるから』という考えから。
今の家長であるリインカーネーションも、もちろん興味ゼロだったので、チラシはそのままスルーされるかに思われたのだが……。
そのチラシにデカデカと書かれた『優勝賞品』を目にした途端、
「はっ!? ぷ……プリムラちゃん!」
思わず正面の妹の肩を掴んでいた。
そのときプリムラは、パインパックを抱っこして、窓の外にいる人たちに手を振り返しているところだった。
びっくりして「きゃっ」と小さな悲鳴をあげるプリムラ。
「お、お姉ちゃん、どうされたんですか……?」
「これを見て! このチラシの、優勝賞品……!」
しかし目の前にそれを突きつけられても、プリムラはキョトンとしたまま。
「……これが、どうかしたんですか?」
「コレって、アレだと思わない!?」
『コレ』と『アレ』。
なんだかよくわからないが、しかしプリムラにはすぐに伝わった。
まるで、長年連れ添った夫婦の会話のように。
「あっ……!? そ、そうですね! コレは、アレですね!」
「あらあら、まあまあ……! プリムラちゃんもそう思うってことは、間違いないってことね! さっそく、参加申し込みをしましょう!」
「えっ、お姉ちゃん、発表会に参加するつもりなんですか!?」
「うん! ふたり一組って書いてあるから、プリムラちゃんも一緒に、ねっ!」
「ええっ、わたしもですか!?」
「もちろん! だってこれは、いまのママたちにいちばん必要なものでしょう!?」
「そ、それはそうかもしれませんけど……。わ、わかりました、わたしもご一緒させていただきます!」
なんと、プリムラとマザー……!
それまで一切興味を示さなかった『聖心披露会』に、エントリー!
しかもその理由が、『賞品が欲しいから』という、彼女たちの本来の生き様からは、かけ離れたもの……!
いったいなにが彼女たちを、突き動かしているというのか……!?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
豪華な調度品で囲まれた寝室。
天蓋つきのベッド、そのサイドにはひとりの美女が足を組んで座っている。
彼女は血のようなルージュに彩られた唇と、三日月のように歪めた。
「……およくぞ、おおいでおくださいました、お勇者さま。おこちらが、お最後のお部屋でございます」
美女の口調は奇妙だったが、もう勇者は慣れているのか気にも止めていない。
「お前が、今回のゲームの仕掛け人か」と問う。
勇者と呼ばれた彼の鎧はエナメルホワイトを基調とし、いたるところに虹色の羽根飾りがついたもので、いかにもこの世界の勇者が好んで着るタイプのデザインであった。
そして彼の言う『ゲーム』はよほど過酷だったのであろう、鎧にはところどころ返り血が付いている。
その血を舐め取るように、美女はぺろりと舌を動かした。
「そのお問いのお答えにおつきましては、おイエスであり、おノーでございます。わたくしはおあくまで、おゴトシゴッド様のお駒のおひとつにお過ぎませんので。おしかしわたくしは、おゴトシゴッド様のお現し身でもございます」
「そうか、ならお前に勝てば、ゴトシゴッド様に会えるのだな?」
「お左様でございます」
「ならば次こそが、本当に本当の最後のゲームというわけだな」
「お左様でございます。そのお相手はお僭越ながら、このわたくしがおつとめさせておいただきます」
「……聖女であるお前が? まあいいだろう、相手がゴトシゴッド様の夫人であれ、容赦はせんぞ」
「どうか、おお手柔らかに。それでは、おゲームのお説明をさせていただきます。最後のおゲームは、『旋風と太陽』でございます……!」
そのルールは単純明快であった。
聖女が、親である『旋風と太陽』側となり、勇者が、『旅人』側となる。
親はどんな手段を用いてもよいので、子を全裸にすれば勝ちというもの。
言葉で脅しても、力ずくで脱がしてしまってもかまわない。
そして子は抵抗ができるが、故意に親を傷つける行為をしてはならない。
子の勝利条件としては、制限時間まで逃げ切ること。
時間をはかる砂時計が落ちきったあとに、靴下一枚でも身に付けていたら勝ちとなる。
今回の『ゲーム』はおかしなものが多かったが、決勝といえる最後は群を抜いて奇抜であった。
しかし普通に考えて、子が圧倒的に有利なルールであるといえるだろう。
子が本当に、無力な子供であれば力ずくで脱がしてしまえばよいが、子となったのは血気盛んな戦勇者である。
そして親はその真逆で、戦いにおいてはもっとも脆弱とされる聖女。
力と力では、まったく勝負にならないことは目に見えていた。
勇者は、いったい聖女は何を考えているのかと、眉をひそめていたが……。
「……おそれでは、おゲームをおスタートさせていただきます」
聖女がベッドに横たわり、大胆な切れ込みが入ったデザインの大聖女のドレスから、チラリと肉感的な太ももを露わにした時点で、勇者は合点がいった。
「なるほど、そうこうことか……。」
彼は下卑た笑いを浮かべながら、ズボンのベルトを緩める。
「色仕掛けで鎧を脱がそうとしてるんだろうが、そうはいかねなぁ。なんたってこの鎧は、脱がなくてもブチ込めるようになってるんだ。村を襲ってる真っ最中とかは、早いもの勝ちだ。いちいち脱いでたんじゃ、間に合わねぇからな……!
言うとおり、彼が戦闘態勢に入るのは一瞬であった。
「残念だったなぁ、アテが外れて……! でも勇者を誘惑した以上、今更ナシでしたは通用しねぇことは、大聖女のアンタならわかってるだろう……? 実をいうと、あんたをひと目見たときから、馴らしてみたいと思ってたんだよなぁ……! 時間はたっぷりあるから、じっくりと乗りこなしてやるぜぇ……!」





