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11 奇跡!

 大聖女の独壇場に終止符を打ったのは、回復したシャルルンロットだった。



「お弁当なら、アンタが朝に持たせてくれたやつをさっき食べたばかりよ。ボケ老人じゃあるまいし、そんなに何度も食べないわよ」



 『マザー』と呼ばれる偉大なる人物を止められる者はいなかったのだが、怖いもの知らずのお嬢様によって手を引かれ、渋々と退場させられる。


 本来であるならば、彼女は2階のVIP席に座るべき人物である。

 会場スタッフが血相かかえてやってきて、丁重に案内しようとしていたのだが、



「まあまあ、ありがとう。でもママはゴルちゃんチームだから、ここでいいわ」



 と『スラマチーム』の控え選手が座る簡素な椅子に腰をおろしていた。


 さて……ひと波乱あったものの、チームは相手の反則負けにより、準決勝である五回戦進出を果たす。


 しかし……リインカーネーションの登場によって、一時は和んだ場の空気であったが、再び戦慄することとなる。


 なぜならば……再びあの愚劣なる行為が、炸裂したからだ……!


 さすがに誰も予想しなかったであろう。

 まさか別の勇者学校までもが、凶刃を振りかざそうなどとは……!


 しかも……先の奇襲を、大聖女の祈りによって乗り越えられてしまったミッドナイトシャッフラーは、次なる実行犯たちに言い含めていたのだ。


 今度は殺すつもりでやれ、と……!


 死者の復活は、たとえ大聖女であってもひとりでは出来ない。

 それこそ大聖女クラスの人間が、数千人規模で祈りを捧げてやっと、ひとりの人生を救えるかどうかなのだ。


 5人の子供を救うなど、たとえ名家の大聖女であっても不可能……!


 ノン! インポッシブル! ノーフューチャー!


 そんな無情なる一撃が、ちびっこ騎士たちに背後から襲いかかる……!



 ……バキィィィィィィィーーーーーーーーーーンッ!!



 インパクトの瞬間、時が静止した。

 観客たちは誰もが瞬きを忘れ、息をするのも忘れていただろう。


 なかでも驚天動地を露わにしていたのは、仕掛けた勇者たちと……。

 天界から抱き合うようにして成功を喜びあっていた、ふたりの黒幕勇者たち……!


 痛恨なる一撃を受け、吹っ飛ぶ鎖帷子。

 こんな時でも彼らの胸に描かれた犬のマスコットは、変わらぬ笑顔をたたえていた。


 宝石箱をぶちまけたような、キラキラとした光をまといながら……!



 ……ドサアッ!!



 コートに大の字になって、突っ伏すシャルルンロットたち。

 まるで同士討ちを果たしたかのように、コミッショナー室でも同じことが起きていた。



「なんだよっ!? なんだよなんだよなんだよっ!? なんだよぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!? なんでなんでなんで、なんで試合前なのにマナシールドがあんだよぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!?!?」



「ノン! ノン! ノンノンノンノンっ! ノーンッ! きっとグラスパリーンが、奇襲を予測して張ったんだノンッ! 愚鈍で愚直だったから、目をかけてやっていたというのにっ! いつの間に、そんな悪知恵が働くようになったんだノンッ!? 実に嘆かわしいノンッ! ノン! ノンッ!! ノォーンッ!!!」



 羽根をもがれたセミのように、床を転げ回るチャラ男とナスビ。



「すごいわ、グラスパリーンちゃん! 咄嗟にマナシールドを張って、みんなを守ってあげるだなんて……! ママ感激! ぎゅーってしちゃう!」



「え……? そんな、私……? えっ? えっえっ? えええっ? ……むぎゅーっ!?」



 女教師のポカン顔は、すぐにエアバックの中に消えた。


 二度の反則攻撃に、場内はブーイングの嵐。

 マナシールドのおかげで何事もなかったシャルルンロットは、跳ね起きて相手選手に掴みかかっていく。


 それを止めようと、または加勢しようと、コートは他校の選手やスタッフで溢れかえる。

 結局、大会進行が一時ストップしてしまうほどの騒動へと発展してしまった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 勇者小学校、二校続けての反則は大いなる波紋を呼んだ。

 それは普段から勇者たちに虐げられ、鬱憤のたまっていた1階の観客たちを暴徒に変えた。


 が、名実ともに彼らの頭上にある、圧倒的な権力によってすぐに鎮圧されてしまう。

 観戦に来ていた2階の勇者たちから、恫喝と実力行使がなされたのだ。


 そして何事もなかったように再開される、疑惑の剣術試合。


 残すところ、あと1試合……! いよいよ決勝……!



『スラムドッグマート with ナイツ・オブ・ザ・ラウンドセブン』チーム オーダー表


 先鋒: ココント・トコント

 次鋒:ポインポイン・セチア

 中堅:ヌル・ボンコス

 副将:ガッキー・ジェラルド

 大将: シャルルンロット・ナイツ・オブ・ザ・ラウンドセブン



 相手の勇者チームは全員高校生。

 今まで戦ってきたチームにも高校生は混ざってはいたのだが、それでもひとりまで。


 最後はなりふり構わなくなったのか、オーダー全員ゴリラのような大男で構成されていた。

 しかも2メートル近い長大な剣を持ち出してくるという、徹底した悪役(ヒール)ぶり。


 柄の長さからいって完全に槍なのだが、コミッショナー判断でオンルールと認められる。

 ロングナイフと槍、高校生と小学生という、剣道三倍段どころではない差を課せられての決勝となってしまった。



 第1戦、ココントvs勇者チーム先鋒。


 試合開始直後からココントのマナシールドが、切れかけの電球のように明滅。

 とうとう『消滅』してしまい、勇者の一撃を腹に受け、吹っ飛ばされて敗北。


 今までは増幅士(ブースター)役がいたので問題とならなかったのだが、ここに来てグラスパリーンのメンタルの弱さが露呈する。

 彼女はプレッシャーのあまり集中力が持続せず、ひとりでは継続してマナシールドが張れなかったのだ……!



 第2戦、ポインポインvs勇者チーム先鋒も、同様の結果に終わる。

 吹っ飛ばされたポインポインに巻き込まれ、倒れるグラスパリーン。



「紙くずみてぇに飛んだな! ゴミ箱みたいな先生に受け止めてもらって、よかったじゃねぇか! ハハハハハハハ!」



 相手チームの選手たちが罵ると、2階の観客席から嘲笑が降り注いだ。



 第3戦、ヌル・ボンコスvs勇者チーム先鋒。

 リインカーネーションに支えられながら、なんとか意識を集中するグラスパリーン。


 彼女は鬼気迫る表情で、自分に言い聞かせていた。



 せっかくここまで来たのに……! 私のせいで負けるわけにはいかない……!

 私が……私がみんなを守らなきゃ……!


 ゴルドウルフ先生が、事情があって少しの間チームから離れると言ったとき、私は泣きそうになった。

 でも困らせちゃいけないと、涙をこらえていたら……ゴルドウルフ先生は言ってくれたんだ。


 私が子供たちを思う気持ちは、本物だって……。

 今までゴルドウルフ先生が見てきた、どんな導勇者(どうゆうしゃ)よりも……純粋で強い気持ちだって……!



「……私はその気持を信じています。もちろん、子供たちも信じているでしょう。だからあなたの周りにはいつも、花と笑顔があふれているのです。グラスパリーン先生、あとはあなた自身が信じてあげるだけですよ」



 信じます……! ゴルドウルフ先生っ……!


 だって……あなたがいなくなってから、やっと気づいたんです……!

 あなたがいままで教えてくれたことは、ぜんぶ本当……ぜんぶ本物だったんだって……!


 なにをやってもダメだった私が、人並みに夢を持って、ここまでがんばれたのも……あなたがいてくれたからだって……!


 この強い気持ちは、あなたから貰ったもの……!

 だから嘘偽りなんて、あるわけがないんです……!


 ありがとう……!

 ありがとう、ゴルドウルフ先生っ……!!


 私の恩師は、形式上はミッドナイトシャッフラー大先生ですけど……真の恩師は、あなたです……!



 ……ふわぁ。



 ヌル少年の身体に、ほのかな光が現れる。

 それは寝室の常夜灯のように微かで、儚かったが……。



 ……パァァァァァァ……!



 だんだん強くなっていき、やがては部屋のカーテンを全開にしたかのような……。

 朝日が降り注いだほどの、まばゆい光輝となっていったのだ……!

ここから一気に話が進みます。

そして次々回はいよいよ、勇者ざまぁです! ここまで溜めたものが一気に爆発しますので、ご期待ください!

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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃあ2回も同じ手は通じひんで勇者コンビ・・・(呆れ) そんなことより・・・しっかりするんだ先生!! オッサンがブーストしなくても、アンタなら出来る!!
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