62 愛のおわり2
厄災四天王ジュニアたちは、机の上につぎつぎと真写を差し出す。
そこには、彼らが実の父親を足蹴にする様が、これでもかと映し出されている。
「うちのオヤジがマジ使えなくてさぁ、あっという間にやられちまってやんの!」
「んで俺に、助けてくださいぃ! って泣きついてきたんだよね!」
「どうやら俺、とっくの昔にオヤジより強くなってたみたいでさぁ!」
「オヤジがてんで使えなかった聖剣も、楽々使えるようになっててさぁ!」
次に出てきたのは、実の父親を全裸に剥いたうえに四つん這いにさせて、跨がっている彼らの姿。
「あんまりに使えねぇから、もうコイツ、ペットにすることにしたんだよね!」
「でもペットにしたって使えねぇからさぁ、こうやって足として使うこにしたわけ!」
「それがまたトロくてさぁ、すぐにバテて使い物にならねーんだよな!」
「そうそう、だから尻が腫れあがってるだろ? 俺がさんざん蹴飛ばしてやったんだ!」
実の父親を足蹴にしたうえに、畜生のごとく扱う……!?
単にそう言うだけであれば、勇者たちがもっとも得意とする戯れ言というのも考えられた。
しかし今回ばかりは、証拠の真写まであるのだ。
それだけでジュニアたちのまわりにいた取り巻きは、カルチャーショックのような衝撃を受けていた。
「ま、マジかよっ……!?」
「あの伝説の勇者、厄災四天王がパパだってだけでもすげぇのに……!」
「その伝説の勇者に、従者同然の扱いをするだなんて……!」
ジュニアたちは厄災四天王を父に持っているというだけで、スクールカーストの上位にいた。
そんな立派な父親をこんな風に扱うとは、普通の神経であれば蔑まれる最低の行為である。
しかし、ここにいる勇者の卵たちは違った。
父親を尊敬こそすれ、自分が大きくなったらいずれは乗り越える目標として考えているのだ。
その心意気だけは立派であるが、乗り越えたあとはまさに畜生のように扱ってやろうと考えていた。
なぜならば勇者たちにとって、自分以下の存在はすべてゴミでしかないから……!
そんな羨ましい行為を、小学生のうちからやってのけたのなれば、どうだろうか?
取り巻きたちの視線は、いつも以上に尊敬のまなざしに……!
「す……すごいよ! すごすぎるよ!」
「伝説の勇者をペット扱いにするだなんて、どんだけ強かったそうなるんだ!?」
「もう厄災四天王ジュニアじゃなくて、もう厄災四天王そのものだよ!」
「おい、みんな見てみろよ、うちのクラスのリーダーが、ついにやってくれたぞ!」
噂をききつけたクラスメイトたちが集まってくる。
そればかりか窓の外からは、他のクラスの生徒たちも集まってきた。
思いのほか反響が大きかったので、ジュニアたちはさらに調子に乗る。
懐からどんどん真写を取りだし、テーブルに並べていった。
それはさながら、子供たちが休み時間に遊ぶカードゲームのよう。
自慢の強いカード取り出し、インパクトで前のカードを打ち負かすように、次から次へと。
そしてついに、最強カードが切られた。
それは、汚物まみれの厄災四天王たち……!
「……えっ!? えええええええええええーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
これには学校中が沸いたかと思うほどの驚愕に包まれた。
「う、嘘だろっ!?」
「厄災四天王を、こんなにしちまうだなんて……!」
「どんなにダメなペットでも、こんな風にはならねぇぞ!」
「勇者がこんな目に遭わされたら、もう生きていけねぇよ!」
「こりゃもう、殺したも同然じゃねぇか!」
「お、親殺し……! 親殺し! 親殺しだーっ!!」
『親殺し』。
それは常識で考えるならば、最悪の誹りであろう。
しかし世間の常識は、勇者の非常識。
羨望の眼差しから拍手とともに放たれる『親殺し』コールは、最大の賛辞であった。
「親殺し! 親殺し! いつか俺らも親殺し!」
「それを小学生でやってのけるだなんて、いやぁ、さすが厄災四天王様!」
「さすがこのクラスの……いや、この小等部のリーダーだけありますね!」
「いやいや、このことが広まったら、中等部どころか高等部のヤツらもひれ伏す伏すんじゃないっすか!?」
「厄災四天王様たちの剣術大会での活躍、そして親殺しを我らも拝見したかったです!」
「どうですか、我々のために、そのときの様子を再現してくださいよ!」
「うん、ぜひ見たいなぁ! 厄災四天王様たちが、オヤジたちをクソまみれにするところを!」
ジュニアたちは囃し立てられて校庭に出る。
クラスのいじめられっ子である、ヘイトリッド少年をオヤジに見たて、剣術大会の様子を再現した。
ヘイトリッドは大天級の戦勇者を父に持つ勇者の卵。
うだつのあがらない父と、彼自身もひ弱だったので、恰好のイジメの的になっていた。
まずはスラムドッグチームの選手役をやらされ、木刀でよってたかって殴られる。
それは大会の再現というよりもただの集団リンチだったのだが、生徒たちは大盛り上がり。
最後は裸に剥かれ、アザだらけになった身体を泥まみれにさせられていた。
「ううっ……! ぐすっ! も、もう許して……! 許してよ、みんな……!」
「クソじゃかわいそうだから、かわりに泥にしてやったんだ! オヤジの真似をして、さっさと土下座しろ! でないと本当にクソまみれにするぞ!」
「うっ……! ううっ! わ、ワシが悪かったですぅ……! あ、あなた様が我が家のご主人さまですぅ……!」
「そうそう! そのあと、ブタの真似をするんだ! 手を抜くなよ! 手を抜いたらクソまみれだからな!」
「ううっ……! ぶっ……! ぶひぃっぃぃぃーーーーーーっ!!」
ヘイトリッド少年は泥だけでなく、屈辱と涙、そして嘲笑に包まれる。
ジュニアたちは全校生徒に取り囲まれ、すっかりヒーロー扱い。
これが彼らを、さらに増長させることとなった。
「いやぁ、俺らくらいになると、親をブタ扱いして普通だから」
「便器にするのは、ちょっとやりすぎちまったかと反省してるけどね」
「でもこのくらいやんないと、アイツってバカだからさぁ、身の程がわかんないんだよな」
「それに、俺ももうすぐ中学生だから、そろそろ独り立ちしないとと思ってね」
「お前らもいい加減、パパ……いや、バカから卒業したら?」
「そーそー! やっぱバカから卒業しないと、一人前の勇者とはいえないっしょ!」
『バカからの卒業』……。
これは、何気なく生まれた一言であった。
ようは、口からでまかせである。
しかしこの何気ない一言が、この勇者小学校を……。
いや、セブンルクス王国を揺るがしかねない大問題へと発展しようとは……。
この『バカの巣窟』に棲む、『バカの卵』たちは……。
まだ、夢にも思っていなかった……!
 





