表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

652/806

61 愛のおわり1

 それは、セブンルクス王国にある、とある勇者小学校。

 高名な勇者を父に持つ子供しか入学できないという、名門校である。


 御殿のように贅を尽くした校内には、いかにもいいとこのボンボンといった子供たち。

 みな競い合うように良い身なりで、自分よりもずっと歳上の大人に首輪をかけ、まるで犬のように引き回している。



「どうだ、新しい従者(ペット)だぜ。金持ちの家のひとり娘だから、綺麗な肌してるだろう? 俺のパパがコイツの家に借金を背負わせて、そのカタに取ってきてもらったんだ」



「そんなの大したことねぇよ、俺のペットなんて、部族の族長の娘だぜ。どうしても欲しかったから、パパに頼んで村ひとつ滅ぼしてもらったんだ」



 そんな末恐ろしい自慢合戦こそが子供たちの日常であり、全てであった。


 ただの自慢のために、彼らはひとりの少女の人生を狂わせ、また多くの人間の命を犠牲にする。

 なぜそんなことをしているかというと、彼らは将来『勇者』となって、この世界を支配する運命にあるから。


 これはいうなれば、民衆を我がモノ同然に扱う予行練習。

 また、まわりにいるのはクラスメイトではなく、将来的には出世レースを争うライバルとなるので、いまのうちにマウントを取っておく意味もあった。


 彼らはそんな遺伝子を持って生まれ、親からもそう育てられていた。

 他人の一生など、ここにいる子供らにとってはゴミ同然でしかないのだ。


 しかし神をも恐れぬ彼らにも、尊び、敬うものがあった。


 まず、すべての勇者の絶対無二なる存在である、ゴッドスマイル。

 勇者にとっては神以上の存在であり、ゴッドスマイルを否定することは自分自身を、ならびにこの世界の存在を否定するも同義とされている。


 つぎに、その神の膝下にいる神話級の勇者たち。

 これは信仰というよりも憧れで、『自分もいつかああなりたい』と思っている。


 そして最後に、自分の父親。

 神話級の勇者ほどではないが、この勇者小学校は名門だけあって、子供たちは伝説級の勇者たちを父親に持つ。


 『パパみたいな勇者になりたい……!』は、子供たちの合い言葉でもあった。


 これらの『勇者の卵』たちの憧れの存在は、勇者の歴史においては絶対不変。

 長きにおいて、変わることなどなかったのだが……。


 しかし、そのトップスリーの一角に翳りを与える、とある大事件が起こった。

 それは、ロンドクロウ小国で開催された『ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 エヴァンタイユ諸国代表選抜』の、数日後にはじまる。


 勇者小学校の、とある教室の一角。

 いわゆる番長席と呼ばれる、いちばん後ろの席には、多くの子供たちがたむろっていた。


 その話題の中心にあったのは、気性も腕っ節も強そうな4人の少年。



「いやぁ、他の勇者学校のヤツらなんて、メじゃなかったな! 俺のファイヤーブレードで一発だったぜ!」



「ファイヤーヘッドは1匹殺すのに一撃もかかってたけど、俺のサンダーブレードでは一撃でチームまるごと黒焦げになってたぜ!」



「サンダーヘッドの戦うところはよく見てなかったけど、いちどにたったの1チームかよ! 俺なんて全チームまとめて吹っ飛ばしたんだ!」



「ストームヘッドですらその程度かよ! 俺なんて敵全員どころか、会場の壁まで吹っ飛ばしたんだぜ! いやぁ、軽くやったつもりだったのになぁ!」



 彼らが脚を乗せている机の上には、このセブンルクス王国で発行された新聞が。

 緑色の『検閲済』のスタンプの向こうには、



『セブンルクス王国代表、アウェーの地でも圧勝で優勝! ボンクラーノ様の剣技が冴えわたる!』



 胸のすくようなアオリ文。

 そして厄災四天王ジュニアたちとボンクラーノが、ゴルドくんの着ぐるみを足蹴にしている真写(しんしゃ)の一面があった。


 セブンルクス王国には厳しい報道規制が敷かれていて、新聞や書物は王国の検閲を受けたもの以外は発行できない。

 その基準は単純かつ明確で、『勇者ならびに王国の名誉を毀損しない』という点。


 その規制は、時には真実をも書き換える。



「特にこのスラムドッグマートとかいう、下級学校のヤツらはケッサクだったよなぁ!」



「そうそう、俺たちにやられてピーピー泣きわめくどころか、お漏らししてやんの!」



「そういやチームにいたメガネの女が可愛かったから、こんどペットにしてやるつもりだ!」



「なに、お前まだそんな段階なの? 俺なんて帰り際に泣きすがられて、ついペットにするって約束しちまったよ!」



 当事者である厄災四天王ジュニアたちは、これ幸いとばかりにマウント取りの道具に使っていた。

 彼らは外面は得意満面であったが、実は内心は焦っていた。


 なぜならば、金持ちを破産させ、村ひとつ滅ぼす彼らであっても、どうにもならない事実の発表が控えていたから。


 それは、親の不始末。


 今回の剣術大会の失態で、厄災四天王のさらなるランクダウンは目に見えていた。

 その大本営発表が、間近になされるというのだ。


 さすがに勇者組織からの発表は、いかに勇者の国のセブンルクス王国とはいえ、歪めて伝えられることはない。


 そして親が落ちぶれたとわかれば、ジュニアたちは小学校におけるスクールカーストにおいてのランクダウンは避けられない。

 今ですら大天(だいてん)級でギリギリだというのに、それ以下となると、もはや勇者ではないからだ。


 それまでジュニアたちは、伝説級の勇者を親に持ち、自身たちも剣術でブイブイいわせ、ピラミッドの頂点に君臨していた。

 その地位が足元から崩れ去り、あっという間に地べたを這いずることになるのは明白であろう。


 この勇者小学校では、カースト下位の勇者は酷いイジメにあう。

 ジュニアたちにとって、それだけは何としても避けねばならぬ事であった。


 そこで彼らは、自分たちの地位を守るため、示し合わせてある行動に出る。

 それは……。


 パサッ……!


 とファイヤーヘッドが、新聞の上に一枚の真写を置いた。

 まわりにいたクラスメイトたちが、なになにと覗き込む。


 そこにはジュニアたちの父親の、目も背けたくなるような醜態があった。


 彼らが取った、『自分の地位を守るため』の最終手段は、なんと……!


 本来は、憧れランキング第3位にして……。

 人間として尊敬すべき父親を、ディスることであった……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ロクな教育を受けてない・・・!(驚愕) ・・・引き回されてる女性たちは、ちゃんと救われるんですよね? [一言] 落書き勇者のざまぁの続きではなかったんですね・・・ ぽっと出の以下略四天…
[一言] 愛ねェ……血の繋がった家族を切り捨てる奴が語るなんて片腹痛い。 例え血が繋がらない親子であっても、互いに想う者たちがいる。 そう、クーララカとセンティラスのようになッ!!
[良い点] 自業自得第〇段(笑) 息子にデスられる勇者パパーズ(笑) でも屑勇者チャイルズ達よ。 これは「お前の父ちゃん〇〇じゃねーか!」て自分達もデスられるパターンではなかろうか? クスクス( *…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ