表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

639/806

48 ダイジェスト

 『ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 エヴァンタイユ諸国代表選抜』はいよいよ佳境、最終試合である決勝戦に突入。


 クーララカ率いる、『スラムドッグマート with ナイツ・オブ・ザ・ラウンドセブン』。

 そしてボンクラーノ率いる、『ゴージャスマート with ボンクラーノ・ゴージャスティス』。


 その両校が、『エヴァンタイユ諸国代表』の座を賭けて戦うこととなった。

 そしてこれは両チーム名が表しているとおり、このロンドクロウ小国における、冒険者の店の覇権争いの最終決戦でもあった。


 この剣術大会は国中が注目している。

 勝ったほうの店はこれ以上ないほどのプロモーションとなり、負けたほうは撤退レベルのマイナスイメージとなることだろう。


 両チームは静まり返った場内で揃い踏みし、睨み合いの火花を散らしていた。

 いよいよ最後の戦いの火蓋が、今まさに切られようとしていた……!


 と、その前に……。


 これまでの、わんわんたちの戦いを軽く振り返ってみよう。


 大方の予想どおり、他の勇者学校は『ゴージャスマート』の最高級のマジック・ウエポンをひっさげてきていた。


 しかしゴルドウルフの予想どおり、彼らは新しい武器には不慣れであった。

 そして大火力の武器に、まだ卵であるはずの勇者たちは、鳳凰にでもなったかのように慢心していた。


 それに対してわんわんたちは、身体の一部のように使い慣れた武器と、変わらぬの剣術。

 それらがぶつかった場合、どのような結果になるかは、火を見るより明らかであろう。


 同じ実力の者どうしが集められた剣術大会というよりも……。

 ただの、公開リンチっ……!


 身の丈に合わない武器は、むしろ勇者の卵たちをスピンエッグのごとく振り回し、まったく当たらない。


 大振りをやすやすとかわされ、へたり込んだところを打ち込まれる者

 それどころか、自分で自分のマナシールドを破壊してしまう者。


 一番ひどかったのは、そもそも剣の抜き方がわからず、抜刀できないまま負けてしまった者まで現れる。


 相手は小学生とはいえあまりにもアレな試合ばかりだったので、観客もとうとうキレてしまった。



「おいっ、なにやってんだっ!?」



「お前らのは剣術じゃねぇ! チャンバラごっこだ!」



「いや、チャンバラごっこ以下だ! うちの4歳の息子だって、お前らには勝てるぞ!」



「俺はガキの遊びを観にきたんじゃないぞっ! もっとちゃんとやれっ!」



 ほぼ全試合、勇者サイドにはゴミが飛び交い、追われるようにして控室に逃げていくというのがすっかり当たり前の光景となってしまった。


 結局わんわんたちは、特訓の成果らしいものも発揮できず……。

 むしろ前回の剣術大会よりもあっさりと、決勝へと駒を進めることができた。


 さて、茶番の振り返りはこれくらいして……。

 いよいよガチの戦いである、決勝戦……!


 と、その前に……。


 せっかくの決戦ムードを台無しにするように、例のアレが割り込んできた。



『あー、おっほん! では決勝の前に、スペシャルマッチを行なう!』



 ステンテッドにより提案されたのは、『敗者復活戦』。


 これは、ボンクラーノひとりに対し、敗退校の参加選手全員が戦うというもの。

 敗退校は4校あり、各校には『指揮官』も含めて6人の選手がいるので、ようは……。


 ボンクラーノ vs 24人 の戦い……!?


 しかもひとりずつではなく、24人いっぺんに相手をするというのだから驚きである。

 ボンクラーノにいちばん最初にひと太刀を浴びせた者の学校が、敗者復活となるルール。


 ……さて、もはや言うまでもないかもしれないが、これは完全なる『ヤラセ』。

 いかにも急遽決められたような雰囲気を出しているが、周到に計画された茶番であった。


 なぜならば、言っても相手は小学生。

 それを大人であるボンクラーノが叩きのめしたところで、たいした尊厳は得られないと考えたのだ。


 しかし小学生20人、大人4人が相手とあらば話は違ってくる。

 これをボンクラーノが一刀両断のものに切り伏せれば、拍手喝采は間違いない……!


 もちろん、勇者学校の生徒たちにはあらかじめたっぷりと因果が含められている。


 そして始まった『スペシャルマッチ』。

 試合会場の全コートをぶち抜き、ど真ん中に立ったボンクラーノ。


 取り囲んだ24人もの相手を、心まで醜いアヒルの子のように睨み回している。

 それだけで子供たちは、青ざめてあとずさった。


 そして、客席にまで届くほどの大声で叫ぶ。



「すっ……! すごい眼光だ……!」



「ひ、ひと睨みされただけで、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなるっ!?」



「それにあの構え……! スキがまったくない!」



「ええい、臆するな! 相手は調勇者(ちょうゆうしゃ)だぞ! 戦勇者(せんゆうしゃ)を目指す僕たちが、敵わないわけがないっ!」



「いっせいに、かかれーっ!」



 ボンクラーノの全方位から、「うおーっ!」と大上段に構えた子供たちが襲いかかる。

 しかしボンクラーノはちっともあわてず、



 ……カキィーーーーーンッ!!



 腰に携えた剣の鍔を、甲高く打ち鳴らした。


 すると、



「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」



 まわりにいた敵全員が、花開くようにひっくり返った。



「かっ、完全にやられたーっ!」



「たっ、太刀筋が見えなかったーっ!」



「まっ、まさか居合い斬りの達人だったなんてーっ!」



「ぼっ、ボンクラーノ様は本当に、調勇者(ちょうゆうしゃ)なのかーっ!?」



「これじゃあ敗者復活したところで、またすぐに負けてしまうじゃないかーっ!?」



 子供たちはひとしきり床を転がったあと、シュバッと起き上がって土下座する。



「まっ……まいりましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



 しん……と静まり返る場内。


 もちろんボンクラーノは居合い斬りの達人などではなく、そもそも抜刀すらしていない。

 ちょっとだけ剣を抜いてすぐ戻し、鍔が鞘に当たる音を合図にして、まわりの者たちがひっくり返っただけ。


 あたかも一瞬のうちに斬り終えたかのように見せかけたというわけなのだが……。

 まともな人間なら、こんな子供だまし以下のトリックに引っかかるわけがない。


 しかしここは戦士の国ロンドクロウ、脳筋だらけの国。

 客席にサクラを数人忍び込ませておけば、誘導などたやすいことである。



「すっ……すげえっ! すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!」



「ぼっ……ボンクラーノ様は、調勇者(ちょうゆうしゃ)でありながら、居合い斬りの達人だったんだぁーーーーーーーーーっ!!」



「知ってるか!? ボンクラーノ様は本当は、モフモーフを倒していたって! でも記録役だった尖兵(ポイントマン)と聖女がマヌケで、真写(しんしゃ)を撮っていなかったそうだ!!」



「あのすげえ剣さばきながら、モフモーフだってイチコロだろうぜ! 間違いない! ボンクラーノ様は最強の勇者様だぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」



「こりゃ、決勝戦が楽しみだ! あのスラムドッグマートとかいう、野良犬みてぇな薄汚いガキどもが、コテンパンにやられる様が見られるぜぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!」



 今大会いちばんの拍手喝采が場内を、いやウソつきクソ坊ちゃんを包み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はあ・・・。 もう色々とひどすぎてため息しかでねぇ。 とくに戦士たち、こんな三文芝居にあっさり騙されるとかお前らホントに戦闘のプロか?
[一言] ・・・つまり、ロンドクロウ小国の国民性は、子供以下のオツムということですね。(バッサリ)
[良い点] え?ええ~Σ(゜Д゜)!? 居合いちゃうやん(笑) や、やらせすごーい( ̄▽ ̄;) 勇者の屑っぷりが凄くてある意味清々しい(*´∇`*) 盛り上がり見せる剣術大会♪ さてさて次回も楽しみ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ