46 小学生対抗剣術大会
『ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 エヴァンタイユ諸国代表選抜』。
それは通例であれば、セブンルクス王国で開催される予定となっていた。
しかし現状、セブンルクスと『ドッグレッグ諸国』は国交断絶状態。
両国間の行き来は非常に厳しいものとなっている。
それでも、剣術大会に参加するのが勇者学校のみであれば、参加選手のみをセブンルクスに招いて開催できるのだが、今回は例年とは違っていた。
そう、これまでずっと勇者学校のみしか勝ち上がってこなかった大会に、異物が紛れ込んでいたのだ。
その名も、『スラムドッグマート with ナイツ・オブ・ザ・ラウンドセブン』……!
下級職小学校が出しゃばってくること自体がもうツーストライク級だというのに、チーム名に『スラムドッグマート』など冠されていては、もうスリーアウトレベルのありえなさである。
そんな危険分子をセブンルクス王国に招くわけにもいかないので、今回は例外的にロンドクロウ小国で開催されることとなった。
ちなみにではあるが、勇者組織はセブンルクス王国と同じ立場で、『ドッグレッグ諸国』を認めていない。
そのため大会名も『エヴァンタイユ諸国選抜』という5ヶ国を含んだ名称を用いている。
その、様々な思惑にまみれた決戦の地は、ロンドクロウ小国最大といわれる、とある剣術会館。
同国では先に、『ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 ロンドクロウ小国代表選抜』が行なわれていた。
その時でもかなりの大盛況だったのだが、今回はそのさらに上の上位大会が開催されることとなったので、国民の熱狂度合はかなりのものであった。
新聞はいつものクエスト情報を隅にやり、連日、出場校の戦力分析などを行なう。
民衆のあいだでは密かにブックマークなども行なわれていたので、この時の新聞は戦士以外も買い求め、いつも以上の売れ行きを見せた。
新聞各紙が優勝候補だと予想したのは、やはりあのチーム。
『ゴージャスマート with ボンクラーノ・ゴージャスティス』
元はセブンルクス王国代表の小学校なのだが、ボンクラーノたちが乗っ取り、チーム名を小学校名から改称。
ボンクラーノの強権で選手の入れ替えも行い、以下のような布陣となっていた。
先鋒: ファイヤーヘッドJr.・ゴージャスティス
次鋒:サンダーヘッドJr.・ゴージャスティス
中堅:ストームヘッドJr.・ゴージャスティス
副将:アースクェイクヘッドJr.・ゴージャスティス
大将: バーンアップル・パッションフラワー
指揮官:ボンクラーノ・ゴージャスティス
防護班、救護班:フォンティーヌ・パッションフラワー(兼任)
『指揮官』というのは今回追加された『大人枠』のことである。
各選手への作戦伝授や指示出しのほかに、試合ごとに好きな順番で出場できるという、将棋における持ち駒のような役割を果たす。
『防護班』というのはマナシールドを張る役割で、救護班というのはケガをしたときに治療する役割のこと。
そして対するスラムドッグマートの布陣は、以下のとおり。
先鋒: ココント・トコント
次鋒:ポインポイン・セチア
中堅:ヌル・ボンコス
副将:ガッキー・ジェラルド
大将: シャルルンロット・ナイツ・オブ・ザ・ラウンドセブン
指揮官:クーララカ・パッションフラワー
防護班:グラスパリーン・ショートサイト、ミッドナイトシュガー・ゴージャスティス
救護班:プリムラ・ホーリードール、リインカーネーション・ホーリードール
補欠:ゴルドくん
補欠選手であるゴルドウルフについては、同店のイメージキャラクターに扮した応援団長を務めていたので、その名前で登録されていた。
そして今大会の司会進行役を務めたのは、なんと……!
『かああっ!
それではただ今より、「ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 エヴァンタイユ諸国代表選抜」を開催する!
ごあああっ!
通常であるならば、偉大なるボンクラーノ様がこの大会のコミッショナーを務めるのだが、今回は選手として参加されておる!
そのため、偉大なるボンクラーノ様の右腕であり、名誉座天級である、このワシ……ステンテッドが代役を仰せつかった!
これもワシの有能さが認められたということじゃな! がっはっはっはっはっ!
くああああーーーっ!
最近どうも、痰が絡んでいかんわい!
先ほども言ったが、今回は偉大なるボンクラーノ様も選手として参加なされておるから、皆、気合いを入れて戦うように!
それに、化けの皮が剥がれた『厄災四天王』とかいうニセ勇者のガキどももいるようじゃな!
せっかく偉大なるボンクラーノ様に拾っていただいたんじゃから、死ぬ気で戦うようにな!
そして、言うまでもないかもしれぬが……。
偉大なるボンクラーノ様に打ち込んだものは、このワシが打ち首にしてやるから、覚悟しておけ!
がっはっはっはっはっはっはっ! かぁぁぁぁぁぁーーーっ! ぺっ!!』
開会の挨拶とは思えない、不快な騒音をまき散らすステンテッド。
観客と参加選手たちの不快指数はのっけからマックスだったが、これはシュル・ボンコスの計らいであった。
――しゅるしゅる、ふしゅるる。
今回のフォンティーヌさんのプランは盤石なものですが、油断はなりません。
ふたつほど、懸案があります。
そのひとつは、あのニセ勇者……!
しかし、ああやってお山の大将にしておけば、大人しくしていることでしょう。
そしてもうひとつの懸案を、これからしゅるが片付ければ……。
もはやスラムドッグマートは、万にひとつも勝つ可能性が無くなるのです……!
しゅるしゅる、ふしゅるるる……!
……今回の剣術大会は、各国から選抜された5校、そして前回優勝のシード校によって争われる。
まずは5校による総当たり戦を行ない、その中で1位だった学校が、最後にシード校と戦う。
そのため、決勝に進むためには4試合をこなさくてはならないのだが、シード校は1試合でいいという、恐るべき優遇っぷり。
そしてシード校は言うまでもなく、ボンクラーノのチームである。
ようはボンクラーノチームは他のチームを研究し放題なのに対して、ボンクラーノチームは手の内を見せる必要がない。
フォンティーヌがわざわざスラムドッグマートまで行って練習試合をしたのは、このあたりにも理由があった。
いずれにせよ、もはや両者待ったなしの状態。
ロンドクロウ小国における、スラムドッグマートとゴージャスマートの最終決戦ともいえる戦いの幕が、いま切って落とされたのだ……!





