45 秘策
少女たちはオッサンが選手として出てくれれば百人力だと思っていた。
しかし交換条件として出されたものは、あまりといえばあまりと言えるものである。
補欠要員としての登録など、出場しない可能性のほうが大きい。
しかも同じ武器で戦うとなると、これは要するに、今までと何らかわらないということだ。
それに真っ先に異議を唱えたのは、やはりチームリーダーであるシャルルンロットであった。
「ちょっとそれ、どういうことよ!? 補欠なんてなんの意味もないじゃない! それに、どの勇者学校もきっと、強力なマジック・ウエポンを持ち出してくるわ! それなのに……!」
そこで彼女は言いよどむ。
ゴルドウルフが作ってくれた武器を、けなす気になれなかったのだ。
「あ、アンタが作ってくれた武器は、ショボいけど、悪くはないし……。勇者なんかの武器に負けるだなんて、思ってないけど……。もしも、すっごい武器が出てきたりしたら……」
「らしくないのん」と、ぼそりとしたツッコミが入る。
「いつもは、ゴルドウルフの剣があれば、聖剣だってへし折れるって息巻いてたのん」
「う……うるさいわねっ! アタシはチームのためを思って……!」
「バーンナップに一撃でやられて、臆病になっているのん」
「そ……そんなんじゃないわよっ!? アタシがあんなリンゴほっぺ女に、ビビるわけが……!」
「ふたりとも落ち着いてください。そこにこそ、勝機があるんです」
ゴルドウルフの仲裁に、「えっ?」「のん?」と振り向くふたりの少女。
「ルール改正が伝達された時点で、他の代表校はこぞって強力なマジック・ウエポンを導入してくるでしょう。しかし、大会の開催まであと数日しかありません。そんな時に新しい武器を導入したら、どうなると思いますか?」
「不慣れな武器で、戦うことに……」とつぶやくシャルルンロット。
「ゴルドウルフが授業で、やってはいけないことだと言っていたことのん」とミッドナイトシュガー。
「そうです。やむを得ない場合を除いて、武器というのは使い慣れたものがいちばんなんです。それも強力なマジック・ウエポンとなると、剣に振り回されるようなことにもなりかねません」
子供たちはそれで納得しかけたが、後ろにいたクーララカが口を挟んできた。
「他の選手相手にはそれでもいいだろう。だが、バーンナップとやらはどうするのだ? 聖女従騎というのは、チャルカンブレードと剣心一体となっているのだぞ。この私がいい例ではないか」
「確かにそうですね。でも、相手を聖女従騎のみに絞れば、大会までに対策を身に付けるのは難しくありません」
「……なんだと!? 貴様、世界最強の騎士である、聖女従騎を愚弄する気かっ!?」
「そういうわけではありません。人間は強力な武器を目にしたとき、『勝てない』と思い込んでしまいます。そしてその心理的な効果こそが、強力な武器を持つ者の最大の狙いでもあるのです。強力な武器を持っているという噂が広まれば、相手の戦意を喪失させることができますからね」
「それはそうだろう! プジェトでは聖女従騎がいる4キロ四方は、悪がいなくなるというからな!」
「そしてそれは逆に言うと、チャルカンブレードを持つ者に、大いなる慢心を与えることになっているのです。そこに、付け入る隙があります」
「なっ……なんだとぉ!? さっきから、言わせておけばぁ! そこまで言うなら、貴様はチャルカンブレードを破ることができると言うのだな!? なら、この私と勝負しろっ! そこまで大口を叩いておいて、できぬとは言わせぬぞっ!」
「はい。実を言いますと、クーララカさんに練習台になってもらって、チャルカンブレード対策をみなさんにお教えしようと思っていました。ただし」
ゴルドウルフが急に真剣な表情になったので、場の空気が張り詰める。
いまにも殴りかかっていきそうだったクーララカですら、気勢を削がれてしまうほどに。
「……これから私が教えるチャルカンブレード対策というのは、剣士としてのプライドをすべて捨て去らなくてはなりません。それは、野良犬剣法の真髄といっていいでしょう。草を食み、泥をすする覚悟がなければ、決して身に付かないものです」
そして狼のような瞳で、シャルルンロットを見据えると、
「その覚悟が、あなたにはありますか?」
シャルルンロットは助けを求めるつもりで、ゴルドウルフのいる執務室に押しかけた。
だが返ってきたのは、突き放すような対応であった。
しかも突き放された先は、千尋の谷……!
しかし彼女はすでに、幼いライオン……。
いいや、幼いながらもいっちょまえに牙を剥く、魔狼の仔であった……!
シャルルンロットは顔を紅潮させ、鼻を膨らませる勢いで気を吐いた。
「あ……アタシを誰だと思ってるの!? 世界7番目とされる騎士の名門、ナイツ・オブ・ザ・ラウンドセブン……! いいえ、世界最高の騎士団、『わんわん騎士団』の団長よっ! 聖女従騎なんて、メじゃないんだからっ!!」
「なっ……!? 貴様まで、聖女従騎を愚弄するかあっ!? それに世界最高の騎士団は、我が『わんわんクルセイダーズ』で……!」
「それは『わんわん騎士団』の下部組織のん」
「わうっ! わうもそう思っていたです!」
「ああっ、なんだかカブが食べたくなってきましたぁ~!」
「あらあら、まあまあ、それじゃあ今夜は、カブをいっぱい入れたシチューにしましょうねぇ」
「シチューは後よっ! それよりも道場に行きましょう! ゴルドウルフに『チャルカンブレード破り』を教えてもらわなくっちゃ! クーララカ、アンタも来なさい!」
「望むところだっ! 我がチャルカンブレード、破れるものやら破ってみろっ!」
オッサンを引きつれ、わいわいと大移動を開始する少女軍団。
その後、半壊した道場の中で披露された『チャルカンブレード破り』は、とんでもないものであったのだが……。
とにもかくにも月日はあっという間に過ぎ、『ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 エヴァンタイユ諸国代表選抜』当日となった。





