41 100勇
今回の一件で、ロンドクロウ小国におけるスラムドッグマートのシェアは、50パーセントにまで急増。
それほどまでに、あの『勇者サゲ祭り』はロンドクロウの顧客たちに、トラウマレベルのインパクトを植え付けていた。
そして、それに関わった者たちは、どうなったかというと……。
まず、今回の祭りを企てた野盗たち。
彼らは森をナワバリにしているとされ、祭りのあとに衛兵による大規模な捜索が行なわれたが、すでにもぬけのカラだった。
よく似た体格の者たちが、グレイスカイ島の『スラムドッグランド』でキャストとして神輿を担いでいる姿を見た、という目撃情報があったが、立件にまでは至らなかった。
さてつぎは、被害者たち……。
その筆頭は、モフモーフ討伐に参加した50人もの戦勇者たち。
彼らはゴージャスマートとは直接関係はないのだが、戦勇者はクエストに失敗すると減点対象となる。
マイナスポイントととなったのは、以下の失態であった。
一、50人がかりで挑んでおきながら失敗した
二、帰還途中に身ぐるみ剥がされてしまった
三、上記2点をスクープされてしまった
一はともかくとして、二と三は前代未聞。
特に三は、ロンドクロウにおける勇者の地位を著しく毀損したとみなされ、重い処分が下される。
それは、『四階級特退』……!
普段であれば、かなり大きな失態でも、2ランクダウンまでなのだが……。
勇者上層部は、ここ最近の『ドッグレッグ諸国』の情勢を鑑み、厳罰を敢行するに至った。
よって『厄災四天王』をはじめとする、総勢50名もの勇者が……。
ダイナマイトを仕掛けられたハゲ山のように、一気崩落……!
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
ディン・ディン・ディンギル
ブタフトッタ
ノーワンリヴズ・フォーエバー
マリーブラッドHQ
●熾天級(副社長)
キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
ボンクラーノ
ライドボーイ・ロンギヌス
ライドボーイ・アメノサカホコ
ライドボーイ・トリシューラ
ライドボーイ・トリアイナ
●座天級(大国副部長)
ゴルドウルフ
●主天級(小国部長)
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
ステンテッド
●権天級(支部長)
ジャンジャンバリバリ
●大天級(店長)
↓降格:ファイヤーヘッド、サンダーヘッド、ストームヘッド、アースクェイクヘッド(以下略)
●小天級(役職なし)
○堕天
コスモス、ザンガン
デスディーラー・リヴォルヴ、サイ・クロップス、ゴルゴン、スキュラ、オルトロス
ジェノサイドダディ、ジェノサイドファング、ジェノサイドナックル
ミッドナイトシャッフラー、ダイヤモンドリッチネル、クリムゾンティーガー
ライドボーイ・ランス、ジャベリン、スピア、オクスタン、ゼピュロス、ギザルム、ハルバード、パルチザン
名もなき戦勇者 3817名
名もなき創勇者 340名
名もなき調勇者 530名
名もなき導勇者 310名
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そして肝心の、彼らのトップに立っていた、二大勇者はというと……。
まずステンテッドは調勇者ということで、クエスト失敗の失態は問われなかった。
ゴージャスマートのシェアが激減した失態についても、とある要因により問われずにすんだ。
その、とある要因というのは……。
そう、ボンクラーノ……!
厳密には彼の父である、ブタフトッタと言ったほうがいいだろうか。
ボンクラーノは、クエスト失敗の即日にブタフトッタの許へ行き、スクープのもみ消しを泣きついた。
ブタフトッタは可愛い我が息子のために、そして息子を『エヴァンタイユ諸国』の本部長として据えている任命責任を回避するために、ある特権を行使した。
それは、
『100勇』……!
正式な名称は、
『100日後に堕天する勇者』……!
これは100日のあいだ、指定された勇者の失態を、すべて先送りにするというものである。
ひとたび発動されれば、国家権力やマスメディア、聖女協会や街のごろつきまでもがその強制力を受けることとなる。
どんな犯罪だったとしても100日は罪に問われないし、100日は新聞で取り上げられることもない。
もちろん、無視してその勇者を逮捕したり、スクープを報じることもできるのだが……。
この制度はゴッドスマイルが制定したものなので、破ることは神に背いたものとみなされる。
『ドッグレッグ諸国』が反勇者を標榜しても大きな問題にはならなかったのは、ゴッドスマイル自身がそのことに興味を示さなかったため。
しかしこの制度を破るようなことがあれば、ゴッドスマイルの怒りを買うことは間違いないだろう。
そのためロンドクロウのマスコミも、ボンクラーノの醜態だけは記事にできなかった。
掲載された真写は不自然にカットされ、ボンクラーノの姿だけはどこにもない。
文面にも、ボンクラーノの『ボ』の字も載っていなかった。
まさに『神のお触れ』ともいえる効果の『100勇』であったが、弱点もある。
まず、100日の執行猶予が与えられるだけで、罪やスクープがもみ消されるわけではないこと。
そして100日後には、『四階級特退』どころではなく、一気に『堕天』扱いとなる。
となればこの『延命措置』には、いったい何の意味があるかというと……。
延命中の勇者が100日のうちに、失態を吹き飛ばすだけの活躍をすることができれば……。
生還っ……!
保留とされていた罪やスクープを、すべて帳消しにすることができるのだ……!
これは本来、『本当は優秀』な勇者が、何らかの手違いで大失態を犯した時のための救済措置に過ぎない。
『本当に優秀』な勇者であれば、100日もあれば名誉挽回できるからだ。
ブタフトッタはこの禁断ともいえるカードを、バカ息子のために切った。
もちろん、勇者組織のナンバー2の息子といえど、100日のリミットを使い切ってしまえば堕天となる。
そしてバカ父親は、バカをかばってバカな推薦をした、バカバカしい後始末をさせられることとなる。
ちなみにではあるが、スクープや犯罪を先送りにできるのは、『100勇の発令時以前のもののみ』という制限がある。
100勇の期間中に発生したスクープや犯罪は、先送りの対象とはならない。
まさしく、『執行猶予』と同じというわけだ。
なぜブタフトッタがこのような、千尋の谷から我が子を突き落とすような決断を下したかというと……。
今のドッグレッグ諸国は勇者の求心力が低下し、力が及びにくくなっていたから。
ブタフトッタの力を持ってすれば、大半のマスコミであれば黙らせることができただろう。
しかし完全封殺するためには、いまのドッグレッグ諸国は難物すぎた。
ようは、息子の全裸落書きを隠すために、ゴッドスマイルの威光を振りかざしたといえる。
そして当のボンクラーノも、『100勇』を受け入れていた。
ヘタレ坊ちゃんにしては珍しい英断であったが、あの生き恥のような姿が国じゅうに知れ渡ることだけは、何としても避けたかったのだ。
そのため、ボンクラーノはいまのところ、お咎めナシ……!
すべては、なかったことに……!
「ぶっはっはっはっはっ! この新聞を見るボン! ボンを裏切って先に逃げた勇者どもが、酷い目にあってるボンっ! ボンはこんなみっともない姿を晒さずにすんで、本当によかったボンっ! やっぱり正義は勝つんだボン! パパの力があれば、怖いものなんてなにもないボンっ! ぶっはっはっはっはっ!」
ボンクラーノ堕天まで、あと99日





