16 プリムラの選択
話はロンドクロウへと戻る。
『スラムドッグマート』と『ゴージャスマート』の両陣営は、同国の商戦において、同じプロモーションを企てるに至った。
それは、
『聖獣討伐のクエストを達成し、マスコミを通じて、自社の装備の優秀さをアピールする』……!
これは、奇しくも……というか、ステンテッドがスラムドッグマートの剣術教室に参加しなければ……。
というか、余計なことをべらべらと喋らなければ、起こらなかった事態である。
ようは、ただの『情報漏洩』……!
しかしその、バタフライ・エフェクトに気付く者は誰もいなかった。
両陣営は、お互いが聖獣討伐を目論んでいることを知らないまま、事は進んでいく。
そして、偶然はさらに重なる。
ロンドクロウ小国において、『聖獣』と冠されるモンスターの目撃例が、ふたつ同時に寄せられたのだ。
まず1匹目は、とある秘境の山で見かけられたという『モフモーフ』。
そして2匹目は、とある神秘なる森で見かけられたという『ユニコーン』。
これは両陣営にとっても、まさに『渡りに船』であった。
それぞれが同じモンスターをターゲットにしていたら、バーゲン会場さながらの奪い合いは必至であったが、そうはなからなかった。
ゴージャスマート側は『モフモーフ』を選択。
理由としては明白で、過去にボンクラーノが討伐したという実績があるから。
スラムドッグマート側は『ユニコーン』を選択。
しかしこちらは、ちょっと事情が特殊であった。
ではここで、その事情が語られることとなった、作戦会議の様子を見てみよう。
スラムドッグマートの会議室内には、まさにゴールデンメンバーと呼ぶにふさわしい女性陣たちが勢揃い。
『男の考える女子校』のような、理想的な花の香りで部屋をいっぱいにしていた。
「……以上が、ロンドクロウ小国での新プロモーション案となります。それで、肝心のクエストの対象についてなのですが、最近、新聞で目撃情報があがっております『ユニコーン』さんが良いと思いました」
プリムラの説明に、真っ先に膝を打ったのは、本部長のクーララカ。
彼女は今回の一件における、討伐パーティの戦士役として招集されていた。
「なるほど! さすがプリムラ様! ユニコーンであれば、相手としてはじゅうぶんですな!」
さらに、ビッグバン・ラヴのふたりが続く。
彼女たちは言うまでもなく、パーティの魔導女枠である。
「へえぇ、ユニコーン!? 聖獣と戦うなんて、マジ最高じゃなくなくない!?」
「ふーん、強敵じゃん」
そして、ここからは予定外のメンバー。
噂を聞きつけて飛び入り参加した者たちである。
まずは、わんわん騎士団。
「いいじゃない! このあとに控えた剣術大会の腕だめしとしても、ちょうどいいわ!」
「ユニコーンといえば、なんでも貫く角があるのん。団子みたいに、みんなまとめて突き殺されるのん」
「ひえぇぇぇ……! お団子になるのは嫌ですぅ……! お団子は串が口の中で刺さるので、食べるのも苦手ですけど……」
「わうっ! それなら、串から外してたべるとよいのです!」
「団子も焼き鳥も、串に刺して供されるものを外すのは有罪とされているのん」
そして、アシスタントのラン。
「ユニコーンとやりあうなんて、ガキんちょにしては思い切ったじゃねぇか! でも、生命が惜しくねぇのかよ!?」
プリムラは参加者の反応をひととおり確認したあと、ふるふると首を左右に振った。
「いえ、違うんですみなさん。ユニコーンさんとは戦いません。ユニコーンさんとお会いして、角を分けていただこうかと思っているんです」
そう。スラムドッグマート側の発起人であるプリムラは、『聖獣討伐』を意気込んではみたものの……。
店のプロモーションのために殺生をすることは、良いことではないと思い直していた。
そこで、視点を『討伐』ではなく『剥奪』に変更。
ユニコーンが生やしている角といえば、最上級のレアアイテムである。
角であれば、ユニコーンを殺さずに獲ることができるので……。
それを持ち帰ることができれば、伝説達成となると考えたのだ。
ちなみにモンスターから素材を剥奪する場合、いちばん手っ取り早いのは殺してしまうことである。
だがプリムラはそれをせず、生かしたまま角だけを獲ろうとしていた。
まぁ、それも不可能なことではない。
網などで捕縛するか、催眠や麻痺の魔法などを使って動けなくしてから、角を折ってしまえばよいのだから。
しかしプリムラはそれすらもせず、ユニコーンと話し合いをして、角を分けてもらうなどと言い出したのだ。
これは『剥奪』ですらない。
ただの『お裾分け』っ……!
その考えを聞かされた参加者の反応としては、誰もが微妙であったのは言うまでもないだろう。
しかし、約二名ほど、ぱちぱちと手を叩いて大賛成する者たちが。
「プリムラちゃんの作戦、ママ、すっごくいいと思うわぁ! ママ、いちどユニコーンちゃんとお話してみたいと思ってたの!」
「ぱいたんもー!」
結局、鶴の一声どころか、姉妹鶴の二声で、この作戦が採用されることとなった。
そして、これは完全に偶然だったのだが……。
『スラムドッグマート』と『ゴージャスマート』は、同時に、聖獣討伐をマスコミに発表。
同じ日の新聞に、紙面を分かつようにして、掲載されたのだ……!
『フォンティーヌ様、現在この国を騒がせている聖獣「モフモーフ」の討伐を宣言!』
『「わたくしにかかれば伝説の聖獣など、子猫の前の毛糸玉ですわ!」と、討伐に意気込み!』
『「プリムラさん! 巣の中で、わたくしの羽ばたく所を見ているといいですわ!」と、プリムラ様を名指しで批判!』
『そしてプリムラ様も大胆発表! なんと「ユニコーンの角」の剥奪を発表!』
『「ユニコーンの角くらい、アイスクリームのコーンくらい、簡単に手に入れてやらぁ!」とこちらも自信満々!』
『「おいフォンティーヌ野郎! 角を手に入れたら、まっさきにテメーのケツにプレゼントしてやっから、ケツを洗って待っていやがれ!」と、フォンティーヌ様を濃厚挑発!』
……ちなみにではあるが、今回の新聞発表、ゴージャスマート側の発表はフォンティーヌが意図したものであった。
しかしプリムラはこの時、『とある問題』を抱えていたので、その問題が解決するまで新聞発表は控えるつもりであった。
だが、関係者のひとりが、『お漏らし』してしまった……!
誰がお漏らししたのかは、もはや言うまでもないだろうが……。
これでプリムラは、後には引けなくなってしまった。





