12 ローンウルフ 3-4(ざまぁ回)
謎の男と別れたミスタースカイは、資金繰りを開始する。
数日後に開催される『戦勇者聖戦』の決勝に向け、金を集められるだけ集めた。
まずは身の回りのものすべてを売り払って金に変え、屋敷を抵当に入れて銀行から借金をする。
それで10億¥ほどになったが、まだまだ足りない。
そこで、出資者を募ることにする。
彼は片っ端から勇者に声をかけ、まさに「倍にして返すから」と持ちかけたのだ。
通常であれば、こんな寝言に耳を貸す者はいない。
しかしミスタースカイといえば、今やギャンブルの神様とも呼ばれるほどの人物になっていた。
そのため、話を持ちかけられた勇者たちは、こんなうまい話はないと、財布の紐を……。
いや、金庫の口を緩めて、巨額の『投資』をしてくれた。
それどころかミスタースカイは、街角に立って庶民にも呼びかけはじめる。
「皆の者! 私といっしょに飛びたくはないか!? ギャンブルという名の、大空へ……! 誰でも最初の飛行は怖いものだ! だが、案ずることはない! 私に身体を預ければ、落ちることなく高みへと案内しよう!」
そのカリスマ性に満ちた演説に、誰もが天にも昇る気持ちになり、なけなしの金を差し出す。
ギャンブルの神様と呼ばれた勇者の言葉を、疑う者はいなかった。
そして集まった額は、なんと……。
100億エンダーっ……!
ミスタースカイはその金を、全額……。
ライドボーイ・グングニルに、ぶっ込むっ……!
これは『戦勇者聖戦』始まって以来の、最高額ベットとなった。
しかし通常、これだけの額で1点買いをすると、オッズは極限まで下がるものだが……。
ライバルのギャンブル勇者が対戦相手を買い支えていたので、そうはならなかった。
結果としてオッズは、きっかり2倍……!
勝てば、200億エンダーっ……!
それだけの金があれば、グングニルに100億払っても、まだまだ余る。
出資者に返す分もあるので、収支としてはほぼゼロだが、そんなことは些細なこと。
なぜならば、これから提供される予想で、いくらでも儲けることができるようになるからだ。
もう、危険を冒してイカサマカードをする必要などなくなる。
そして予想ギャンブルを的中させまくれば、ギャンブル勇者としての名もうなぎ登りとなるであろう。
そうなれば、座天級という名の、大空どころか……。
本当に神の住まう領域まで、一気にカッ飛べる……!
ミスタースカイは、かつてないほどの浮遊感を味わっていた。
「もうすぐ……もうすぐだ……! もうすぐ私は、大空の支配者となるっ……!」
そしていよいよ迎えた、決勝の結果は……?
なんと……! と言うか、やっぱり……! と言うか、
大 ・ 惨 ・ 敗 っ …… !!
決勝のカードは、勇者ライドボーイ・グングニルと、神尖組の勇者オルトロス。
試合開始直後、オルトロスのジャブのような軽めの一撃を、急所でもない場所に受けただけなのに……。
惨めな姿で地に倒れ伏す、グングニルの姿がそこにはあった。
ある意味、勇者にはお似合いの、しょっぱい結末。
さんざん煽るだけ煽っておいて、しょぼい結末。
竜頭ヘタレという言葉がぴったりの、茶番であった……!
しかし、当人はいたって真剣であった。
グングニルは麻痺したように動かない身体で這いずっていって、対戦相手の勇者にすがる。
そして今にも死にそうな顔で、こんなことを叫んだのだ。
……や……やっと、見つけたグニル……!
お前の所に、あのオッサンがいるグニル……!
でなければ、この俺を倒すことなんて、できないグニル!
我らがライドボーイを一撃で戦闘不能にさせる、アークギアの弱点を、突くことなんて……!
……それは偶然だった? 嘘をつくグニル!
お前のセコンドに、あのオッサンがいることは、もうわかっているグニル!
俺はオッサンを探すために、この『戦勇者聖戦』に出場したんだグニル!
『戦勇者聖戦』は他国も注目しているイベントだから、優勝者は他国でも新聞で取り上げられグニル!
そこで俺は、オッサンに呼びかけるつもりだったんだグニル!
……帰ってきてくれ、と……!
だからオッサンを、返すグニルっ!
やっと……やっとわかったんだグニルっ!
この俺には……いや、ライドボーイには、オッサンが必要なんだって!
いまライドボーイ一族は、大変な危機に瀕してグニル!
それを救えるのは、あのオッサンしかいないグニル!
だから、だから……頼むグニル!
オッサンを……オッサンを返してくれグニルぅぅぅぅぅぅぅっ!!
オッサン……! オッサンオッサンオッサンオッサン……! オッサァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
グングニルは、まるで親鳥を求める雛鳥のように、オッサンを呼び求めて泣き崩れる。
それは相手の勇者にとっても、詰めかけた観客にとっても意味不明なことであった。
静まり返ったコロシアム内に、ふと、一条の光がさす。
突如としてグングニルの身体が、赤熱するように輝きはじめたのだ。
それは、グングニルに差し伸べられた、天からの救いではなく……。
地獄からの、破滅の炎……!
うっ……!? うわああああああああっ!?!?
たっ……助け……! 助けるグニルっ!!
助けてオッサン! オッサン! オッサンっ!!
どうして……どうして助けに来てくれないグニルっ!?
オッサンがいなくなってからの俺は、転落と絶望の連続だったグニル!
オッサンを捨てたことは、もうじゅうぶんに反省してるグニル!
だから、助けて! 助けて……! 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!
オッサァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
……ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
グングニルは、再びのオッサンコールとともに……。
そして、対戦相手のオルトロスをも巻き込んで……。
跡形もなく、爆散した。





