11 ローンウルフ 3-3
見事、的中っ……!
しかもそれが不人気選手だったので、5倍というオッズで、5億¥を手に……!
たったの1試合で、かつてのカードゲームの大勝負を上回る額を稼いでしまった……!
デビュー戦で大穴を当てたとあって、記者たちはその後もミスタースカイの動向を取り上げた。
『ミスタースカイ様、次の第7回戦目も的中! 今度は2倍のオッズで、5億¥をさらに倍に!』
『ミスタースカイ様、第8回戦目もまた的中! 1点買いにもかかわらず、神がかり的な予想の的確さ!』
『ミスタースカイ様、第9回戦目もまたまた的中! これで4連続! カードゲームの神様は、未来を見通す神様でもあった!』
『来週、いよいよ決勝戦! 出るか、ミスタースカイの「大空への誘い」が!』
ミスタースカイは送られてくる手紙のとおりに、1点買いを続けていた。
1億だった元手は、すでに10億にまで増えていた。
彼にとって、これほどまでに楽で、これほどまでに増えたギャンブルというのは初めてのこと。
なにせカードの場合は、相手をその気にさせないといけない。
負けが続くと、今日は運が無いと早めに切り上げられてしまうので、相手をある程度勝たせないといけないのだ。
そして相手が、今日はツイていると思ったところで、大勝負を持ちかけ、イカサマを使って勝利する。
それでもギリギリで相手が降りてしまっては意味がないし、いくら相手が金持ちだったとしても、個人では賭け金に限界がある。
しかし今回は、公営ギャンブル同然……!
いくら賭けても受けてもらえるし、いくら勝っても取りっぱぐれがない……!
しかも、考える必要すらない……!
手紙に指示されるどおりに賭けるだけで、百発百中っ……!
ミスタースカイは手紙の主のことを、完全に信じ切っていた。
そして来週は、いよいよ決勝。
ここで彼は、全財産を投じた大勝負に出るつもりでいた。
そうすれば、座天級への出世は確実となる。
もはや外れることなど、万にひとつも頭になかった。
しかし、待ちにまった手紙には、思いもよらぬ一言が書かれていた。
決勝戦の予想は、会ってお伝えします。
50億¥の勇者票と引き換えに。
そして決勝終了後に、もう100億¥の勇者票を頂きます。
『勇者票』というのは勇者のみが発行できる有価証券で、銀行に持っていけば換金が可能。
ようは勇者の信用を担保にした、小切手のようなものである。
「ごっ、50億……!? わたしの全財産ではないか……! そ、それに、終わったあとに100億だと……!?」
ミスタースカイはこの申し出を断っても良かったのだが、それは得策ではないと判断する。
なぜならば、まず手付けとして50億を払っても、確実に当たる予想が得られるのであれば……。
それ以上の借金をして賭ければ、簡単に取り戻すことができるからだ。
そして、決勝終了後に払う100億をも上回る配当金さえ得られれば、それが自分の利益になる。
きっと黒幕の勇者は、こう考えているのだろう。
そのくらいの資金を集められる者でないと、今後、手を組むには値しないと。
そう、これはミスタースカイに課せられた、八百長仲間に加わるための、試練……!
それはかなりの難題ではあったが、見返りも規格外。
まずは、『戦勇者聖戦の決勝を的中させた』という事実が得られること。
最終的な収支はともかくとして、それが得られれば、座天級への出世は確実となるであろう。
それに、何よりも……。
『戦勇者聖戦』の結果を思いのままにできるほどの、高位の勇者との繋がりが得られれば……!
予想ギャンブルにおいては、一生安泰っ……!
逆にここで賭けるのをやめてしまったら、その大御所の逆鱗に触れてしまうかもしれない。
もはやミスタースカイにとって、選択の余地などなかったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
待ち合わせ場所に指定されたのは、真昼の街角。
人が大勢行き交うなかで、ミスタースカイはベンチに座っていた。
ふと、背後から声がする。
「後ろを見ないでください。私はいま、あなたの後ろに座っています」
「君が、私に手紙をよこしていた従者かね?」
「はい。私は、今回の決勝に出場する、ライドボーイ一族に仕える者です」
『戦勇者聖戦』の決勝に出場するライドボーイといえば、ひとりしかいない。
……ライドボーイ・グングニル……!
勇者としての階級は、今でこそ主天級であるが、かつては智天級であった。
冒険の失敗続きで降格させられてしまったらしい。
しかしライドボーイ一族の勇者であれば、そして一族を代表するほどの勇者が黒幕だったのであれば、今回の出来レースも納得がいく。
元智天級の勇者であれば、『戦勇者聖戦』の結果を操ることくらい、できてもおかしくはないからだ。
ミスタースカイは背中ごしに、「なぜ私に、大会の結果を教えていたのかね?」と問う。
「それは、資金調達のためです。私どもが賭けることも、もちろんできたのですが、それでは八百長を疑われてしまいます。しかしギャンブラー勇者であれば、高額のベットをしても誰も怪しみません」
「それは理解できるが、他のギャンブラー勇者ではダメだったのかね? 私が予想系のギャンブルをやらないのを、知らないわけではなかっただろう?」
「いえ、むしろ、あなたでなくてはならなかったのです。あなたが初めて予想系のギャンブルをされたとなれば、新聞にも大きく取り上げられるでしょうから」
「なるほど。私が手紙の通りに賭けたのか、容易に動向が探れるから、というわけか」
「はい。そして私が仕えている者の名前を知ってしまった以上、あなたは50億¥を支払わなくてはなりません。優勝者を告げてしまったのも同然ですからね」
「もちろんだ。これほどの関係から、降りるするつもりはない。さぁ、受け取れ」
ミスタースカイは用意しておいた50億¥の勇者票を、後ろ手で謎の男に渡す。
謎の男は受け取るなり立ち上がり、ズボンのポケットにしまいながら、そそくさと立ち上がる。
「残りの100億は、決勝終了後の払い戻しのあとに、取りに伺います」
フードを深く被ったその背中が、雑踏に紛れていくのを、ミスタースカイは見送っていた。
彼は、もちろん気付いていない。
その謎の男のポケットには、すでにもう一枚……。
50億¥の勇者票が、入っていたことに……!





