03 チャラ男勇者、降格…!
『ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 アントレア代表選抜』ルール規定。
小学生だけで構成された5名のチームどうしが、1対1の勝ち抜き戦で剣術試合を行う。
各試合の終了後であれば、控え選手との入れ替えをしてもよい。
使用する武器は『剣』とみなされるもののみで、斧や槍などは使用不可。
二刀流は可だが、盾は使用不可。鎧についてはレザーアーマー以上の防御力が認められ、攻撃能力を持つものでなければ、材質や形状に制限はない。
剣先には突き攻撃の威力を和らげるため、専用のカバーをしなくてはならない。
また試合中は必ず、顧問の教師による『マナシールド』で身体の保護を行う。
マナシールドは術者の魔力を消費し、対象を防護する魔法である。
全身を覆う氷のようなものがうっすらと被術者の身体に表れ、残存耐久力に応じて青、黄、赤、と変色する。
耐久力をこえる攻撃を受けた場合、マナシールドは『破壊』される。
また、術者の集中力切れ、魔力切れなどで試合中にマナシールドが消えてしまった場合は『消去』とみなされる。
『消去』の場合は再度マナシールドを張り直してもよいが、『破壊』の場合は張り直してはならない。
『破壊』または『消去』状態の相手に攻撃を加えた場合、有効打となり勝利が確定する。
有効打とみなされるのは刀身による攻撃のみ。柄や手足による殴打、体当たりなどは有効打とはならない。
峰打ちは刀身による攻撃なので、有効打とみなされる。
倒れた相手に攻撃を加えてもよいが、有効打のあとは故意の攻撃をしてはならない。
マナシールドを使う術者は、最大5人まで参加してよい。
規定人数内であれば、魔力を供給する増幅士を含めてもよい。
チームには必ず救護要員として、治癒能力のある聖女か治癒術士をひとり以上エントリーしなくてはならない。
負傷した選手を治療するかどうかは、選手を擁するチームの判断に委ねられているが、審判が重篤だと判断した負傷については、救護要員がただちに治療しなくてはならない。
その際に救護要員が不在、能力不足、治療を拒否した場合などは、大会側が用意した救護班によって治療がなされる。
救護班による治療が行われた場合、その時点でチームは失格となる。
以上が『ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 アントレア代表選抜』のルールである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
大会当日はゴルドウルフが増幅士役としてグラスパリーンに付き添い、ガチガチに緊張している彼女を落ち着かせながらの競技参加となった。
先行き不安な始まりではあったが、フタを開けてみれば、驚くべき結果が箱の底にあった。
なんと、『スラムドッグマート with ナイツ・オブ・ザ・ラウンドセブン』チーム……!
略して『スラマチーム』は、アントレアの街にある、並み居る他の小学校を次々と撃破……!
決勝で勇者小学校をも倒し、あっさりと優勝を手にしてしまったのだ……!
これにより、『スラマチーム』はアントレアの街の代表として、さらに上位の大会である『ルタンベスタ代表選抜』に駒を進めることとなった。
……だがそれは、前代未聞の異常事態でもあったのだ。
この『ゴージャスマート杯』と冠がつく大会は、剣術であれ魔術であれ、ある規定路線から一度も外れたことはなかった。
見えないけれど、レールのようなものが確実に存在していたのだ。
それは、『ゴージャスマート』の装備で身を固めた、勇者学校の生徒たちが必ず優勝を飾るということ……!
それは街の代表を決める小規模な大会であっても、たとえ小学生どうしのチャンバラ大会であっても、例外ではなかったのだ。
各大会で、必死になって立ち向かってくる上級職学校や下級職学校の生徒たちを、壮麗な装備の勇者たちが華麗に、そして完膚なきまでにたたきのめし、
「やっぱり優勝の決め手となったのは、この『ゴージャスマート』で買った最高の装備があったからです!」
と、剣にキスをしながらインタビューに答えるのが通例となっていた。
が、しかし……!
今回はなんと、勇者学校ではない……ましてや、上級職学校でもない……!
下級職学校の少年少女たちが、
「僕たち私たちの装備は、『ゴージャスマート』のものはひとつもありませーん! ぜーんぶ『スラムドッグマート』で揃えたものでーす!!」
などと優勝台の上で喧伝するという、異例の事態となってしまったのだ……!
新聞にも大々的に報じられたこの事件は、勇者一族を騒然とさせたのは言うまでもない。
そして当然のように、責任の所在が問われることとなる。
真っ先に槍玉に挙げられたのは、大会のコミッショナーであるダイヤモンドリッチネル……!
彼は大会中に、指を咥えて見ていただけだったのかと、糾弾されるに至った……!
そう……!
ここでも調勇者ダイヤモンドリッチネルは、気付きのチャンスをフイにしていたのだ……!
彼が、彼が……!
コミッショナーとして大会に顔を出していれば……!
ゴルドウルフの存在に気づき、あの手この手で優勝を妨害できていたかもしれないのに……!
ここでもよそ見……! それも三度も……!
せっかくの好球を……いや、棒球同然のものを、まざまざと……!
見逃し三振……ストライク・スリーっ……!
バッター・アウツ……!!
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●能天級(方面部長)
↑昇格:ダイヤモンドリッチネル
●権天級(支部長)
ゴルドウルフ
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そして下される、非情の……いや、自業自得の沙汰……!
目覚ましい昇進も、わずか1日……! 次の日にはドロップ・アウト……!
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●能天級(方面部長)
●権天級(支部長)
ゴルドウルフ
↓降格:ダイヤモンドリッチネル
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砂上の楼閣ならぬ、蜃気の楼閣……!
前代未聞の、『行って来い』人事発令……!
『ゴージャスマート ルタンベスタ領本部』に、二日酔いの重役出勤をしたダイヤモンドリッチネルは、掲示板の人だかりを押しのけ、叫んだ。
「ちょ、マジぃ!? なんでなんでなんで、なんで!? なんで降格ぅ!? マジっ、マジ意味わかんねっ!? なんで、なんでなんで下級職学校のヤツらに負けんだよ!? マジ俺、カンケーねえしっ!?」
そう、この時の彼は、いまだに気づいていなかったのだ。
ゴルドウルフの存在に……!
捨て犬が失敗した事実は、『ゴージャスティス一族』の上層部ではすでに把握していた。
だが、わざわざ末端にいる実行者にまで知らせるようなことはしないのだ。
なぜならば、すでに失敗した者に教えたところで何の意味もない。
その者に挽回のチャンスを与えるよりも、次の者にチャンスを移すほうがよいという考えからだ。
そしてそれとは別に、ダイヤモンドリッチネルには新たなる特命が下される。
『次のルタンベスタ領代表選抜にコミッショナーとして参加し、件の下級小学校の優勝を阻止せよ。さらには所属する子供たちを、二度と剣術ができないほどに完膚なきまでに叩きのめし、身の程を思い知らせよ』と……!
さらに……この命令は、もうひとりの勇者にも下されていた。
「ノン! ノンノン! ノォーンッ! 私が手がけてきたアントレアの街の勇者の卵たちを傷つけるだなんて、なんという侮辱だノン! しかも下級職小学校風情が……被支配階級風情が出しゃばるなど、絶対に許されることではないノン! よろしいノン! 次の大会に参加する勇者学校の総力を結集して、捻り潰してやるんだノン!」
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●能天級(方面部長)
New:ミッドナイトシャッフラー
●権天級(支部長)
ゴルドウルフ
ダイヤモンドリッチネル
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能天級導勇者、ミッドナイトシャッフラー……参戦っ……!
過去と現在……ふたつの因縁があわさり、さらなる強大な敵となった……!
かつての野良犬狩りが、今ここに共演……!
それは紛うことなき狂宴となり、必ずや凶炎と化すであろう……!
どうする、どうなる、ゴルドウルフ……!?
すいません、やる気ゲージがなくなってきたので、連日更新ちょっとお休みです。
あと、今回の勇者ざまぁは軽い感じがありますが、これは序盤のジャブということで、次回はちゃんと大きいのをやりますのでご期待ください。
正直なところ、次回のヤツは読者の方々に引かれないかドキドキしています。