↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

599/806

08 聖少女フローチャート(ざまぁ回)

「ぐえええええっ!? ぐっ、ぐるじいっ!? だずげでぐれっ! だずげでぐれぇぇぇぇぇっ!」



 喉を突かれて呼吸ができなくなり、真っ赤な顔でのたうちまわるステンテッド。

 毒を盛られたようなリアクションであったが、そんな状態に追い込んだツインテールの少女は、憐憫のかけらもない表情であった。


 まるで雑魚モンスターを見下ろすような、あっさりとした様子で、観戦していた子供たちに言う。



「モンスターの中には、皮下脂肪をためているヤツがいるの。たとえばオークとかが、こんなふうにね」



 少女は、まるで汚らわしいモノを触るみたいに、木刀でステンテッドの腹をぶよぶよと突く。



「この腹は、棍棒とかで殴っても打撃を吸収するし、剣を突き刺しても、内臓まで届かないことがあるわ。そんな時は、喉を狙ってやればいいの。喉は脂肪がつくにしても限界があるし、一撃で大きなダメージを与えられるわ、こんなふうにね」



 少女は、さらに汚らわしいモノを触るみたいに、木刀でステンテッドの顔をぐにぐにと突く。

 ブルドッグのように垂れた頬をいじくり回され変顔になると、子供たちの間からどっと笑いが起こった。


 ステンテッドは、鼻を豚鼻のように持ち上げられがらも叫んだ。



「ふっ、ふじゃけるなっ! わっ、ワシは手加減してやったんじゃぞ! それなのに、調子に乗りおって!」



「ふうん、そうなの? じゃあ、そろそろ本気を出してもいいんじゃない? こんな顔にされてまで、遠慮することないでしょう」



「当然じゃっ!」



 ステンテッドは地面の砂を掴んで、少女の顔に向かって投げつけようとする。

 しかし稲妻のような木刀が一閃し、その不届きな手を打ち据えた。



 ……ガツンッ!



 ありったけの砂を、自分の顔めがけてぶちまけてしまうステンテッド。



「うぎゃああああっ!? 目がっ!? 目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?!?」



 今度は顔を抑えて七転八倒。

 二度も不意打ちを仕掛けておきながら、両方とも返り討ちにあったうえに、この情けないリアクション……。


 子供たちはもう、腹を抱えて笑っていた。


 ステンテッドは半泣きで叫ぶ。



「わ、笑うなっ! 笑うなぁぁぁぁーーーっ! ワシをいったい誰だと思っとるんじゃ! ワシは、勇……!」



 しかし残りの言葉を、なんとか飲み込む。


 ここで勇者であることを明かせば、ここにいる女子供はひれ伏すだろう。


 泣いて許しを請うメスガキを、無礼討ちにすることくらいはできたかもしれないが……。

 いや、できるはずもないのだが、少なくとも彼はそう思い込んでいた。


 しかし勇者がこんな目に遭っているのがわかれば、いい恥さらしである。

 ステンテッドはとっさに誤魔化した。



「ワシは勇……! 勇敢な冒険者なんじゃぞ! これからモンスター討伐の旅に出るところだったんじゃ! 新聞にも載るほどの、聖獣をな! そんなワシを笑って、タダですむと思うなよっ!? ワシが新聞の取材を受けたら、真っ先にお前らのことを答えてやる! 聖獣を討伐するほどのワシを、こんな目に遭わせた無礼者としてな! そしたらお前たちはもう、オシマイじゃ!」



 砂が目に入ったせいで、涙が止まらない。

 声も涙声になっていて、それはそれは哀れを誘う姿であった。


 子供たちもさすがに可哀想に思ったのか、静まり返る。

 彼らの表情は、残飯を漁るホームレスを見るかのようであった。


 「自分は、あんな大人になりたくない」と……!


 その沈黙を、ステンテッドは勘違いした。



「ようやくワシの凄さに気付いたようじゃな! いまさらワシに弟子入りしようとしたところで遅いわ! この国に名だたる勇……敢な冒険者をないがしろにした罪を、後悔するがいい!」



 そしてふと、雷に打たれたように立ち尽くす、聖女の存在に気付いた。

 彼女もきっと、自分の偉大さに気付いたのであろうと思ったステンテッドは、聖女を手招きする。



「おいっ、そこの女! お前は聖女なんじゃろう? こんな所にいるから、きっと場末の聖女なんじゃろうが……。まあいいっ! ここに来て、ワシに跪け! そしてワシの怪我を治すんじゃ! よく見ると可愛い顔をしとるから、お前だけは特別に、目をかけてやっても……!」



 しかし聖女はもはや、ステンテッドの言葉など耳に入っていなかった。

 なぜならば彼女の頭の中では、コンピューターのように高速回転し、ある計算をしていたからだ。



 聖獣を討伐

 ↓

 新聞に載る

 ↓

 お店のピーアールになる……!



 できあがったフローチャートは、このロンドクロウ小国での施策で失敗続きだった少女に対して、起死回生の一手のように響いていた。


 しかしそれすらも霞むほどの天啓が、このあとに続く。



 聖獣を討伐に行く

 ↓

 仲間を集める

 ↓

 戦士さんはクーララカさん

 ↓

 魔導女さんはビッグバン・ラヴのおふたり

 ↓

 聖女はわたし

 ↓

 残るは、尖兵(ポイントマン)さん……

 ↓

 尖兵(ポイントマン)さんは、どなたにお願いすれば……?



 その答えは少女のなかで、ひとつしかなかった。


 そう……!



 お ・ じ ・ さ ・ ま ……!!



 実をいうと、昨今の彼女は……。

 答えだけが決まっていて、式の部分が空白の計算問題を解いているような……。


 答えありきの、逆算思考を続けていた。

 そのイコールの隣にあるのは、いつも同じキーワード。


 そう……!



 お ・ じ ・ さ ・ ま ・ っ……!!



 彼女は、スラムドッグマートのドッグレッグ諸国担当になってからは、おじさまの側にいる時間がめっきり減ってしまった。


 それでも、なんとか時間を捻出して、秘書としての仕事もこなしていたのだが、



「秘書の業務は結構です。それよりも、スラムドッグマートの展開に集中してください」



 と言われる始末。

 それでもあきらめきれず、なにかと理由をつけてはおじさまの所に報告に行っていたのだが、



「報告書を読んでいるので、口頭での報告は結構ですよ」



 などと、わずかな『おじさま時間(タイム)』をも断たれてしまう始末……!


 すると思考は自然と、おじさまと会うための口実を探すようになってしまった。

 いまの彼女は、その末期症状にある。


 卵を割って双子の卵が出ただけで、おじさまに会う理由としてこじつけられないかと、真剣に思案するほどであったのだ……!


 しかしここに来て彼女は、絶好の妙案を思いつく。

 いや、見ず知らずのオヤジから、その答えともいえるものを与えられていた。


 プリムラは心の中で、ステンテッドに手を合わせる。



 ――聖獣の討伐……!

 なんという、素晴らしいアイデアなのでしょう……!


 聖獣を討伐すれば、記者の方たちが、取材に来てくださる……!

 そうなれば、この国の戦士さんたちに『スラムドッグマート』を大いにアピールすることができます……!


 うまくいけば、おじさまにきっと喜んでいただけます……!


 それに、それに……!

 おじさまに尖兵(ポイントマン)を、お願いすれば……!


 いっしょに、冒険……!

 久しぶりに長い時間、おじさまのおそばに、いさせていただくことができます……!


 これは、まさに……!

 一石二おじさまの、妙案っ……!


 こんな夢のような叡智を、授けてくださるだなんて……!

 どこのどなたかは存じませんが、感謝しても、しきれませんっ……!



 その『心の恩人』は、今もなお泣きながら助けを求めているのだが……。

 もう彼女の中は、ひとりの殿方のことでいっぱいで、視界の隅にすらも入っていない。


 いつも淑やかな少女にしては珍しく、ローブの裾が翻るほどの勢いで踵を返す。

 『心の恩人』に背を向けると、完全に見捨てる者の勢いで、一目散に走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ぞうもつまるさん、詳細なご説明をどうもありがとうございます。(お辞儀)
[良い点] オッサンと一緒にいられる口実を得たプリムラ。 敵勢力に助言を与え(無意識)自ら地獄への穴を掘り進む偽勇者。 優秀なメンバーとありあわせのメンバー。 もう実質決着は見えたようなもんですが、…
[一言] 『サビ(錆びた風』 の 『ピス(尿)』・・・です。 ・・・勇敢な冒険者さんには内緒ですよ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。