02 所変われば
ロンドクロウ小国は、新女王ゴールドベアが統治する、山あいの国である。
ドッグレッグ諸国で最も平野部の少ない土地とされ、王城は山岳を利用した自然の要塞となっている。
現在は住居といえば、どこの国でも木造かレンガなど建物が主流であるが、ロンドクロウではいまだに洞窟に住む者たちがいるくらいである。
そのくらい山と洞窟が多く、主力産業は鉱物とモンスター。
前者は鉱山が多いためであるが、そこにモンスターなどが棲み着きやすいため、自然と多種なモンスターが生息する地でもあった。
たまに珍しいモンスターの目撃例もあったりするので、他国からも多くの冒険者が訪れる。
といってもやはり、この地に腰を据える冒険者は、鉄と血を好む『戦士』たちなのだ。
その理由としては、やはり鉱山に由来する。
元は坑夫だった男たちが、働いている鉱山に出現するモンスターを倒しているうちに、冒険者となってしまうのである。
そんなわけで、プリムラは同国への『スラムドッグマート』の出店にあたり、商品陳列などを全面的に見直していた。
通常の店では、近接武器といえば、片手武器がよく売れる。
しかしこの国の戦士たちは、元はといえばツルハシを持っていた男たちなので、両手武器の品揃えを良くした。
さらに、戦士は前衛でよく動いて汗をかくだろいうとことで、『ふきふき』を導入。
これは、冒険を終えて来店した客の顔を、おしぼりで拭いてあげる事である。
ハールバリー小国では好評を博していたサービスであるが、ちなみにガンクプフル小国では不評であった。
ガンクプフルの魔導女たちは、そもそも汗をかくことを嫌った。
なぜならば、メイクが落ちてしまうからだ。
ならば、『ふきふき』が不評なのも、納得がいく話であろう。
話を元に戻そう。
結果としてこの『ふきふき』サービスは、ロンドクロウにおいては好評であった。
しかし、その良さが伝わることはなかった。
他の国の冒険者は、一日の冒険が終わると、戦利品を売るために『冒険者の店』に立ち寄る。
その時に、『ふきふき』サービスは、真価を発揮するのだが……。
この国の冒険者は違っていた。
彼らは冒険後は、真っ先に酒場に行ってしまうのだ……!
戦利品を売るよりも、まずは酒っ……!
酒以外のことは、ぜんぶ明日っ……!
プリムラの最初の施策は、こうしてスカってしまった。
彼女が次に行なったのは、『割引チケット』の配布。
先にガンクプフル小国でも成果をあげた、『3回来てもらって常連になってもらう』作戦である。
しかしこれも、失敗……!
なぜならば今回の顧客である戦士たちと、前回の顧客である魔導女たちは、同じ人間でありながら……。
いや、同じ冒険者でありながら、まったく違う人種だからだ……!
戦士も魔導女も、割引チケットを渡した場合、喜々として受け取ってくれるまでは、同じであった。
しかしここから、大きく違う……!
魔導女は、懐にある財布に、大事にチケットをしまってくれるのに対し……。
戦士は、ズボンの後ろポケットに、くしゃくしゃになのも構わず、ねじ込むっ……!
もう、おわかりであろう。
財布というのは一日に何度か開ける機会があるので、割引チケットの存在を思い出す機会があるが……。
後ろポケットにしまわれたチケットは、紙クズ同然に、忘れ去られるっ……!
そして、そろそろ見えてきたであろう。
『ふきふき』も『割引チケット』も、プリムラは過去の成功事例を元に導入したに過ぎない。
ハールバリーとガンクプフルで成功したから、この国でも受け入れられるだろうと思っていたのだ。
しかし、どちらも失敗した。
その原因は異なるものであったが、理由としてはひとつである。
そう……!
プリムラが、顧客の行動パターンを、よく考慮しなかったため……!
いや、たしかに彼女なりに『戦士』というものを研究をしたうえで採用した施策であった。
根本は間違っていない。間違ってはいなかった。
しかし、浅いっ……!
もっと彼らの目線に立って、もっとつきつめて、施策をカスタマイズする必要があったのだ……!
これは例えるなら、釣り人が、湖にいる魚の種類を把握していて……。
その魚が大好物なエサまで用意して、釣り糸を垂らしたのに……。
狙った魚がいる水深さまで、エサが届いていないのと、同じこと……!
もっと、もっと深く……!
もっと深く糸を垂らせば、入れ食いであったはずなのに……!
釣り人は、あきらめてしまった……!
この仕掛けでは釣れないと、早々と竿をあげてしまった……!
彼女はそのあと、客が来ない問題を、イメージキャラクターの不在に転嫁してしまった。
ガンクプフル小国では、魔導女たちに人気がある『ビッグバン・ラヴ』がいたから、開店当初から多くの客を呼ぶことができた。
しかしこのロンドクロウ小国においては、いまだイメージキャラクターが決まっていない。
なぜならば、アテが無かったからだ。
もっといえば、有名な戦士というのが、世界的に見てもほとんどいないのだ。
『冒険者』のカテゴリで名を挙げる人物といえば、まず真っ先に戦勇者が上げられる。
やはり『勇者ブランド』は世界で強く、冒険で活躍すると、まっさきにマスコミが取り上げるからだ。
勇者には必ずと言っていいほど、聖女と魔導女が付き従うので、その二職もおのずと名を挙げる機会に恵まれる。
戦士や尖兵が同行する場合もあるのだが、彼らはたいてい男なので、いい所はぜんぶ勇者に持って行かれる。
そのため新聞に載るのは、いつも勇者を中心として、両脇に聖女と魔導女のパターンが多い。
そのほうが、記事としての見栄えがいいからだ。
かつてのオッサンがそうであったように、尖兵がいくら活躍をしたところで、日の目を見ることは絶対にない。
まるで二段ロケットの下の部分のごとく、役目が終わったら切り離されて、それで終わり……。
偉業を讃えられ、博物館に飾られて大事にされるのは、上の『勇者ロケット』のみなのだ……!





