45 強制捜査(ざまぁ回)
明くる日の朝、ステンテッドはいつものように、朝いちばんでガンクプフルのとある『ゴージャスマート』へと向かった。
そこを視察するのは部下たちには予告していたのだが、店に着いてから驚いた。
なんと、呼び出す前から近隣地域の幹部たちが、勢揃いしていたのだ……!
勇者たちが揃って、「おはようございます! 我らが偉大なる、ステンテッド様!」と頭を下げる姿は、ステンテッド朝の不機嫌を吹き飛ばすほどに、実にいい眺めであった。
「うむ! お前たちも誰に従うべきなのか、ようやくわかってきたようじゃのう! これも、ワシの指導の賜物じゃわい!」
花道のように居並ぶ彼らに案内されたのは、事務所内に新たに設けられた、とある一室であった。
ステンテッドが訪れた『ゴージャスマート』は5階建ての大型店。
1階から4階がまでが店舗になっており、いちばん上の5階が事務所になっている。
その事務所内でも、裏庭が見渡せるいちばん長めのいい部屋に案内された。
そこには『偉大なるステンテッド様のお部屋』と銘打たれており、中には贅を尽くした作りになっていた。
重厚な書斎机と革張りの椅子、美術品やモンスターの剥製が並べられ、うなるほど金が入っていそうな大型の金庫が置かれている。
「我らが偉大なるステンテッド様の視察のために、専用のお部屋を用意させていただきました!」
これにはステンテッドも、美食腹でさらに肥えつつある太鼓腹さながらに、目を飛び出させていた。
本来ならば、これほどまでの厚遇は、怪しむべきなのだが……。
単純な彼は、純粋に喜んでいた。
「これはいい! まるで王様になった気分じゃ! がっはっはっはっはっ!」
さっそく豪華な椅子に身体を沈め、高笑いを響かせていたのだが……。
ステンテッドはついに派閥を作れるほどに、部下である勇者たちの心を掌握したかに思われた。
しかしその王政は、三日天下どころか、三時間……。
いやいや、わずか三分ほどで終わりを告げる。
まるで彼がこの店舗に出勤するのを待っていたかのように、
「動くなっ! 我々は、ガンクプフル小国憲兵局の者だっ! いまからこの店舗に、強制捜査を行なうっ!」
踏み込んできた憲兵たちに、「わぁーっ」とひっくり返る部下たち。
「たいへんだ! 憲兵の手入れだ!」
「囲まれていて、もう逃げられないぞ!」
「せめて、ここで一番偉い、ステンテッド様だけは逃げ延びていただかないと!」
「ステンテッド様、はやく逃げください!」
部下たちから担ぎ上げられ、開け放した窓の外に、ぎゅうぎゅうと押しやられるステンテッド。
「よ、よし! ワシを守りたいというお前たちの気持ち、決してムダには……って、ここは5階ではないかっ!?」
「大丈夫です! 下は池になっていますから、飛び込めば助かります!」
「そっ、そんなムチャなっ!? おいやめろっ!? 押すなっ! うっ……うわぁぁぁっ!?」
ステンテッド、前回はお嬢様から投げ飛ばされたが、今回は部下たちの手によって、窓から押し出され……。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?!?」
情けなさ全開の絶叫とともに、落ちていく……!
裏庭の、池へと……!
どっ、ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんっ!!
高く上がる水しぶき。
前回は魔導女学校の注目の的だったが、今回はもう誰も見ていない。
突き落とした部下たちは、憲兵たちにさっそくアピールしていた。
「ここにある美術品は、ぜんぶ盗品なんだ!」
「それにモンスターの剥製は、狩猟が禁止されているモンスターばかり……!」
「金庫の中を見ろっ! 脱税した金を、ここに隠してあるんだっ!」
憲兵に抵抗するどころか、次々と悪事の証拠を差し出してくれる勇者たち。
彼らは最後に、口を揃えてこう言った。
「これらはすべて、さっき落ちていったステンテッドがやったんだ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
憲兵局の強制捜査の日付は、シュル・ボンコスが秘密裏に入手し、ガンクプフル小国内の『ゴージャスマート』全店に通達されていた。
そのため、強制捜査の当日は、すべての『ゴージャスマート』はもぬけの殻になっていた。
店も事務所も空き部屋になっており、入り口には張り紙がひとつ。
『ゴージャスマートは、ガンクプフル小国内での営業を中止することに決定いたしました』
そう……!
タッチの差での、撤退宣言……!
しかしステンテッドには、その事実は知らされていなかった。
なぜならば、本来は知らせるべき、連絡を受け取った部下が、彼にだけは内緒にしていたのだ。
部下たちは日頃のイジメの恨みを晴らすために、協力してステンテッドを罠にかけた。
本来は見つかっては困る盗品や、狩猟禁止のモンスターの剥製をわざと残し、それらを集めた部屋に案内する。
その時、憲兵による強制捜査があるのは、部下たちはみな知っていた。
知らなかったのは、ステンテッドだけ。
そして案の定、踏み込んでくる憲兵たち。
彼らに対して、部下たちは示し合わせた告げ口を行ない、罪をすべてステンテッドになすりつけたのだ。
ステンテッドは取り調べにおいてもちろん否認したが、部下たちがこぞって同じ証言をしたので、ステンテッドひとりが悪者になってしまう。
しかも彼の不運はこれだけではない。
裏庭の池に落とされたときに、藻まみれになったのだが……。
その姿が、『魔導女学園』に押し入った、変質者にソックリということで……。
ついに変質者としてのレッテルまで、貼られてしまったのだ……!
彼は結局、『パッションポーション書き換え事件』の首謀者にも仕立てあげられ……。
ガンクプフル小国での悪事は、ほとんどが彼の仕業ということにさせられてしまった……!
これらは偶然が重なっただけであるが、ボンクラーノやシュル・ボンコスにとっては、渡りに船であった。
なにせ『ゴージャスマート』に付いていた悪いイメージを、撤退というオマケまで付けて、ステンテッドひとりに背負わせる形にできたからだ。
そして今回の一連の不始末に対して、勇者上層部はどうしたかというと……。
まず、ボンクラーノに失点1を課した。
これは、撤退までやらかした調勇者の処分としては、異例の軽い処分である。
その理由としてはふたつ。
まず、ボンクラーノがブタフトッタの息子であるという、忖度から。
そしてもうひとつは、そう……!
今回の撤退の原因は、ほぼ100%、ステンテッドの仕業であると判断したため……!
これらの理由から、特に彼に対しては重い処分が下された。
それはなんと、三階級特退……!
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
ディン・ディン・ディンギル
ブタフトッタ
ノーワンリヴズ・フォーエバー
マリーブラッドHQ
●熾天級(副社長)
キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
ボンクラーノ
ライドボーイ・ロンギヌス
ライドボーイ・アメノサカホコ
ライドボーイ・トリシューラ
ライドボーイ・トリアイナ
●座天級(大国副部長)
ゴルドウルフ
●主天級(小国部長)
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
↓降格:ステンテッド
●権天級(支部長)
ジャンジャンバリバリ
●大天級(店長)
●小天級(役職なし)
○堕天
コスモス、ザンガン
デスディーラー・リヴォルヴ、サイ・クロップス、ゴルゴン、スキュラ
ジェノサイドダディ、ジェノサイドファング、ジェノサイドナックル
ミッドナイトシャッフラー、ダイヤモンドリッチネル、クリムゾンティーガー
ライドボーイ・ランス、ジャベリン、スピア、オクスタン、ゼピュロス、ギザルム、ハルバード、パルチザン
名もなき戦勇者 3817名
名もなき創勇者 340名
名もなき調勇者 530名
名もなき導勇者 309名
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ステンテッドは、即堕天ということにはならなかった。
なぜならば、偽勇者とはいえ、評価システムだけは勇者のそれと同じという取り決めになっていたからだ。
いずれにせよ、ステンテッドがもうガンクプフル小国を歩ける身でなくなったのは、間違いなかった。





