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28 合同新製品発表会

 そして、『合同新製品発表会』の日がやって来た。

 場所は、ガンクプフル小国の王都にある、もっとも大きな公園。


 そこに特設ステージが設けられ、周囲を360度囲むように立ち見席が設けられた。


 さらには勇者関連のイベントでは標準装備となりつつある、伝映(でんえい)の巨大水晶板も設置される。

 水晶板にはステージの様子が映し出される予定となっており、遠くの客席からでも、プレゼンする新製品がよく見えるようになっていた。


 発表後には物販が行なわれ、その販売数に応じて勝敗が決着する。

 観客席から物販ブースへの導線も完璧なルートで設計されており、運営による不手際は極力起こらない作りになっていた。


 これも、プリムラをはじめとする『スラムドッグマート』陣営と、フォンティーヌをはじめとする『ゴージャスマート』陣営が幾度となく打ち合わせを重ねてきた賜物である。


 勇者と民間が合同でなにかのイベントを行なう場合、勇者側の意見が全面的に採用されるのが普通である。

 しかし今回はフォンティーヌが指揮を取っているだけあって、そうはならなかった。


 フォンティーヌはプリムラを幾度となく呼び寄せ、打ち合わせを重ねる。

 大胆で派手好きなお嬢様聖女と、慎重で心配りのできる聖少女、それぞれの意図がうまく噛み合った形になったのだ。


 となれば、運営によるグダグダはほぼ無いといっても良いだろう。

 あとは、MCを誰にするか、という点だったのだが……。


 勇者の関わるイベントでは、必ず導勇者(どうゆうしゃ)がMCとして選ばれる。

 しかし今回は、勇者側であるはずのフォンティーヌがその通例を一蹴した。



「このたびの『合同新製品発表会』は、魔導女たちを相手にしたイベントなんですのよ? プレゼンターもイメージキャラクターも女性なのに、MCが男性というのは良くありませんわね。よって、女性MCを採用することにいたします」



 これにはステンテッドが猛反対して、自分がMCをやるなどととんでもないことを言い出した。

 しかしそれはお流れになり、民間からある人物が選ばれる。


 勇者側、野良犬側、どちらのお眼鏡にもかなう人物、それは……?



『みなさま、大変長らくお待たせいたしました。私は本日の司会進行を務めさせていただきます、グラスストーン・ショートサイトと申します。今日、お集まりいただいた魔導女のみなさま、お忙しいなか大変ありがとうございます。今日は楽しい楽しいステージイベントをたくさんご用意しておりますので、どうかごゆっくりとお楽しみください』



 ステージのまわりを、いや、公園じゅうを埋め尽くすほどの人だかりから、まばらな拍手がおこる。


 そう、MCとして白羽の矢が立てられたのは……。

 グレイスカイ島で起こったゴーコンを取材していた、グラスパリーンの妹……。


 グラスストーン・ショートサイト……!


 彼女は勇者側から見て、野良犬側の人間ではないと思われている。

 そして逆の野良犬側から見ても、勇者側の人間ではないと思われていた。


 それだけ彼女は『無味無臭』であったのだ。

 しかし彼女は新聞記者であり、司会者ではない。


 せっかくの盛り上げトークもニュースを読み上げるような淡々とした口調だったので、ステージは冷え冷えだった。

 しかし今回はそのほうが、都合が良かったのだ。


 なぜならば、



『それではさっそく、ゴージャスマートとスラムドッグマート、両店のプレゼンターの方たちにご入場いただきましょう。まずはスラムドッグマートの方々、お願いします』



 プリムラとラン、そしてビッグバン・ラヴが舞台袖から現れたとたん、



「キャアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 大歓声が、ステージを包んだ。


 そう、プリムラという有名な聖女に、カリスマモデルの組み合わせで、盛り上げは十分……!


 これに加えてMCがジャンジャンバリバリなどという暑苦しい存在だったら、観客は胸焼けを起こしていたことだろう。

 ステージの熱を冷ますくらいのクールなMCのほうが、今回に限っては良かったのだ。


 観客たちは生のプリムラとビッグバン・ラヴを前に、大騒ぎ。



「すごい! プリムラ様っ! かわいい! 顔ちっちゃい! スタイルいいっ!」



「スタイルなら、バーニング・ラヴちゃんだよ! それに見て、あのメイク新作だよ! さっそくマネしなきゃ!」



「メイクならブリザード・ラヴちゃんでしょ! あのナチュラルメイクこそ至高でしょ!」



 一気に温まるステージ。

 しかしMCは同調することなく、ひたすらに自分の仕事をこなす。



『それでは次に、ゴージャスマートのプレゼンター、お願いします』



 しかし、誰も出てこない。



『あの、ゴージャスマートのプレゼンターの方、どうされたのですか?』



 舞台袖を見るグラスストーン。

 なにやらトラブル発生かと、静まりかえる客席。


 その瞬間を、見計らっていたかのように、



 ……ドドーーーーーーーーンッ!!



 ステージの下、奈落に控えた楽隊が、重厚な爆音を奏でる。

 それは、今やこの国でもすっかり有名になった、とある偉人の出囃子であった。



 ドンドンドコドンドンドコン! ドンドンドコドンドンドコン!



 偉人自身が、異国で聴きほれたという、ドラムをベースした力強い音色。

 昂ぶるハートビートのようなリズムは、ステージ上をビリビリと震わせ、聴くもののボルテージを否が応にも突き上げていく。


 それだけで客席は大いに湧き、偉人コールが起こる。

 彼らが叫ぶその名は、もちろん……!



「フォンティーヌ! フォンティーヌ! フォンティーヌ! フォンティーヌ! フォンティーヌ!」



 そしてその声援に応えるのは、もちろん……!!



『おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほーーーーーーーーっ!!』



 しかしまだ、姿は現れない。

 おなじみの高笑いを、ただ響かせるのみ。


 前回のゲリラプレゼンでは、彼女は馬車の屋根に乗って登場した。

 きっと今回もそうなのであろうと、観客たちは周囲を見回す。


 しかし、偉人は往くのだ。


 人々の、想像の()をっ……!



 ……ぶわあぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!



 風が舞うような音とともに、真っ赤な巨鳥がステージを横切る。

 それは空中で旋回して、旋風を巻き起こす。



『おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほーーーーーーーーっ!! ハイブリッド聖女、フォンティーヌ・パッションフラワー……!! ただいま参上なのですわっ!!』



 先日の魔導女学園での変態撃退事件以来、彼女はすっかり魔導女たちのスーパーヒロインになっていた。

 そんな人物が、スーパーヒーローのように空から現れたのだが、それはもう……!


 客席はのっけから、最高潮(クライマックス)っ……!



「きゃああああああっ!! フォンティーヌ様ぁ!!」



「まさか、空から現れるだなんて!! 想像もつかなかったわ!!」



「フォンティーヌ様は、いつだって私たちの考えの上をいくわ!! だから最高なのよ!!」



 ハイブリッド聖女にして、ゴージャスマートのプレゼンターである、フォンティーヌお嬢様……。

 彼女は登場時点ですでに、スラムドッグマートを圧倒……!


 観客の魔導女たちの心を、空から現れた怪盗のように、かっさらっていた……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] やってきました 『合同新製品発表会』!!  今回ばかりは自分も、どちらが勝つのか本当にわからないです! しかし勝敗がどちらになろうと、最高のイベントになるに違いないとは思っています!! ・…
[良い点] お嬢様は敵ですが、高飛車な点を除けばカッコいいライバルですよねO(≧∇≦)O 正々堂々勝つ!て姿勢がまた彼女の魅力をアップさせてるんでしょうね~。 そんな彼女にプリたんがどう反撃するのか!…
[良い点] 女性MC グラスストーンですか!(大喜)  今回は女性MCと聞いて もしやと思いましたら やっぱり彼女でしたか!(ニヤリ) グラスストーンなら あのパチモンMCとは違う名司会してくれそうで…
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