15 ローンウルフ 1-2(ざまぁ回)
試合開始の合図とともに、勇者ザンガンは大剣技を発動した。
「ヘッ! 俺の斬岩剣から逃れられるヤツはいねぇぜ! 俺の剣は、岩をも砕く……! 天よ! 地よ! そしてゴッドスマイル様よ! 俺に正義の力をお与えください! うおおおお……! 力がみなぎってくるぜぇ……! 覚悟しやがれっ! 汝を岩とするならば、我それを両断し、砂塵に帰せんっ! 焼けた肌には白い砂がよく似合うっ! どうせ腐った外道ども、最後に役に……」
……ガツンッ!!
しかしふと、顔面になにかがぶつかり、のけぞった。
「がはあっ!? 何だよ、チクショウっ!?」
赤くなった鼻を押えるザンガン。
気を取り直して再び構えを取ると、
「ヘッ! 俺の斬岩剣から逃れられるヤツはいねぇぜ! 俺の剣は、岩をも砕く……! 天よ! 地よ!」
……ビシュンッ!! ……ガツンッ!!
「ぐっはあっ!?」
再び見えない衝撃によって大剣技は遮られ、後ずさってしまう。
ひとり芝居のようなザンガンに、観客もMCも不思議そうであった。
『ザンガン様、いったいどうされたというのでしょうか? なぜかどんどん、鼻が真っ赤になっています!』
……ビシュンッ!! ……ガツンッ!!
「ぎゃはあっ!?」
『ああっ、とうとう倒れてしまいました! いったい何が起こっているのか……!?』
ザンガンは地に伏したまま鼻を押えていた。
その頭に、コツンと何かが当たる。
ザンガンの目の前に転がったのは、この闘技場であればどこにでも落ちている、小さな小石であった。
「ま……まさかっ!?」
ハッ!? と顔をあげた先にあったのは……。
直立不動のまま、腰のあたりで両手を構える、ひとりの偽野良犬マスクの姿であった……!
「まさかアイツが、し、指弾をっ……!?」
返事のかわりに飛んできた石をまともに鼻先に受け、鮮血が吹き出す。
『ああーーっと!? ザンガン様、鼻血をお出しになられました! 初めての剣闘で、興奮されてしまったのでしょうか!?』
『指弾』というのは、石つぶてや小さな鉄球などを指で弾いて、飛び道具とする技術である。
しかし偽野良犬マスクのそれは、人間の指から放たれたとは思えないほどの速度と精度を誇っていた。
なにせ指弾とわかった後でも、飛んでくる石が見えないのだ。
遠く離れた観客席からでは小石など見えるはずもないので、ザンガンがひとりでやられているように見えていた。
次に指弾の存在に気付いたのは、逃げ惑っていた奴隷たちである。
彼らはおそるおそるオッサンの隣にやってきて、口々にささやきかけた。
「お、おいおい、マジかよっ!? ここからザンガンの野郎までは、100メートルは離れてるっていうのに……!」
「こんなすげぇ指弾、初めて見た……! それに、あんなに情けなく這いつくばっている勇者なんてのも、初めて見たぜ……!」
オッサンは前を向いたまま、彼らに応えた。
「勇者の大剣技はすべて、大魔法と同じで長い発動準備を必要とします。その途中を邪魔してやれば、怖いことなどありません」
「ドラゴンですら一撃でぶった斬る、勇者の大剣技を、怖くないだなんて……!」
「あんた、いったい何者なんだ……!?」
「ただの、野良犬ですよ」
そのただの野良犬は、勇者が起きるのも許さなかった。
ザンガンが立ち上がろうとするたびに、人間の急所と呼べる場所に石を正確に当て、再びダウンさせる。
ちゃんとした鎧があれば防げていたものを、筋肉を誇示することを優先していたのが完全に仇となっていた。
ザンガンは悶絶しながら叫んだ、
「ごっ、護衛! 護衛をここに! 俺を守れっ!!」
彼の宣言とともに、勇者の入場口から大盾を構えた兵士たちがゾロゾロと出てくる。
そしてザンガンを守るように、背を向けて取り囲んだ。
『お、おおっとぉ! ザンガン様、護衛宣言です! こ、この闘技場始まって以来のことですが、勇者は野良犬軍と同数の護衛を呼び出せるルールがあるのです!』
予想外の出来事にMCはしどろもどろ。
観客たちからはブーイングが起こる。
「なんだよそれっ!? そんなルール聞いたことねぇぞっ!?」
「勇者様が、ひとりで10匹の野良犬を倒すのが、この闘技場じゃなかったのかよっ!?」
「武器も防具も、護衛のほうがずっといいの持ってるじゃねぇか!」
ぶーぶーとしたヤジに包まれながらも、ザンガンは立ち上がる。
「うるさいっ! 俺は今日は体調が良くないんだ! しかしもう大丈夫! この壁があれば、いくら指弾でも邪魔はできまい! 今度はこっちの番だっ! ヘッ! 俺の斬岩剣から逃れられるヤツはいねぇぜ! 俺の剣は、岩をも砕く……!」
しかし形勢逆転かと思われたのも、一瞬であった。
……ビシュンッ!!
……カーン! カカーンッ! カカカーーーーンッ!
ゴルドウルフの指から放たれた石は、鎧の兵士たちの中を行ったり来たりしているような、甲高い音を立てたあと、
……ガツンッ!!
さらに強烈な一撃となって、ザンガンの鼻っ柱をへし折っていた。
「ぐぎゃあっ!? はっ!? はにゃがっ!? はにゃがぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?!?」
なんとオッサンの指弾は、跳弾においても、正確無比……!
そこから先は、完全にワンサイドゲームであった。
ザンガンは護衛に襲いかからせようとしたが、護衛がいなくなると自分の防御が手薄になるからと、護衛に自分を完全防御するように命令。
しかしいくら護衛たちが盾を構え、ザンガンのまわりで小さくなっても、指弾はザンガンの身体を容赦なく打ち据え続けていた。
奴隷たちはオッサンの凄さに心酔し、自ら石の運び役を買って出る。
傍らで積み上がっていく石、オッサンが弾数無限の砲台と化したあと、ようやく観客たちも気付いた。
「あ……アイツだっ! あそこにいる野良犬マスクが、ザンガン様に石をぶつけてるんだっ!」
「ウソだろっ!? 投石だけで勇者をあそこまで追いつめるだなんて……!」
「ザンガン様を見てみろよっ! あんなに堂々としていたのに、今は護衛の中で、丸くなって縮こまって……なんて情けないお姿なんだ!」
「あんなの勇者様じゃねぇ! まるでいじめられてる亀みてぇじゃねぇか!」
「ふざけんなっ! テメーなんざ勇者様の面汚しだっ!」
「そんなんじゃ、『落ち勇者』と変わらねぇじゃねぇか! 死んじまえ!」
『あ……ああっ!? 観客のみなさん! 勇者様にものを投げるのはおやめください! この闘技場でものを投げて良いのは、野良犬側だけです!』
ヤジと、増大した投石を受け、とうとう護衛たちはザンガンを見捨てて引っ込んでしまった。
まさにいじめられっ子のように、ひとり取り残されてしまった勇者は……。
ついに、決壊した。
「うっ……! うわあああああっ! うわあああああああーーーーーーーーーっ!! 助けて! 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー---------っ!!」
とうとう泣き叫びながら、助けを求めはじめる。
しかし彼が呼んでいたのは、勇者の父でも、勇者の兄弟でもなかった。
それは、なんと……!
「た……助けて! 助けて! 助けてぇぇ!! オッサンーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
この「ローンウルフ1」は次回で終わりです。





