03 新たなる勇者と
ゴルドウルフはハールバリー小国を勇者の手から奪い去るため、ジェノサイド一家を始末した。
そのあとのオッサンの行動をまとめると、こんな感じである。
『合同クエスト』において裏で糸を引いていた、勇者とセブンルクスの者たちの裏で、さらに糸を引く。
大国の王子を醜態にさらし、小国の姫君たちをアシストし、『反勇者派』を躍進させた。
その後、グレイスカイ島に向かい、リヴォルヴと対峙。
『ゴーコン』を引き起こさせて、各国の『勇者派』の王族たちを巻き込み、まとめて始末。
新たに国王に就いた姫君たちが『ドッグレッグ同盟』を宣言したことで、一気に四国進出の足掛かりを得た。
もはや言うまでもないかもしれないが、これらはすべて偶然の出来事ではない。
そう、あのオッサンにとっては、すべて予定調和……。
すべてが『作戦通り』だったのだ……!
しかしひとつだけ、誤算があった。
それは、セブンルクス王国の国王、『ビッツラビッツ』の存在である。
セブンルクス王国も、他の小国と同じように、次期国王となる人物がグレイスカイ島に送り込まれるはずであった。
オッサンはその人物も始末して、セブンルクス王国をも陥落させるつもりでいた。
しかし、『危機回避』……!
ビッツラビッツは直前で、グレイスカイ島に派遣するはずだった次期国王を、『役立たず』に変更……!
本来は、『エヴァンタイユ諸国』という、全身を失ってしまうほどの大怪我を……。
ダンプトラックが突っ込んでくるような、致命的な一撃を……。
ギリギリで回避し、半身を失うだけで済ませていたのだ……!
それは、一見してたいしたことのないように見えるが、実は驚異的なことなのである。
なぜならばゴルドウルフの策略は、『影縫』と呼ばれるほどに、逃れることが不可能。
狙われた勇者たちは、闇の針と糸で、気がついたら……。
いいや、その針と糸にも気付くことができずに、縫い上げられているのだ。
地獄の閻魔大王が着る、装束の柄として……!
しかしビッツラビッツは、初めてその糸から逃れてみせた。
それまで支配していた小国を失ったことは痛手ではあったが、奇跡的に一命だけは取り留めていたのだ。
……これはオッサンにとって、初めての『糸のほつれ』だった。
しかしゴルドウルフはそんなことはおくびにも出さずに、次の計画に着手する。
それは言うまでもなく、『ドッグレッグ諸国への、スラムドッグマート進出』である。
進出においての障害は可能なかぎり取り払われた状態ではあったが、出店してうまくいくかは別の話。
バジリスなどは『ドッグレッグ同盟』において、『スラムドッグマート』の優遇と、『ゴージャスマート』の強制退去などを宣言しようとしていたが、それはゴルドウルフが止めていた。
結局、実際に宣言されたのは、『勇者への優遇を取りやめる』という程度であった。
なぜならば、世界はまだまだ勇者色に染まっている。
その程度に留めておかなければ、他国から不当なる排除だと批判されかねなかったからだ。
勇者への優遇を取りやめただけで、すでに『ドッグレッグ同盟』からは国交断絶を宣言した国も多くあるほどである。
それこそ勇者の排除まで始めてしまったら、世界大戦にまで発展しかねない。
ゴルドウルフは新女王たちに向かって、こう告げていた。
一個人のチェーン店である『スラムドッグマート』を国が支援したとあっては、『勇者への優遇』の相手が変わっただけになってしまいます。
だからといって、『ゴージャスマート』に圧力をかけるのも、やめてください。
それらは国民にとって、『不平等』に映るからです。
上に立つ者のみなさんには、『すべてに対して平等』という姿勢を貫いてほしいのです。
生まれや地位によって、優遇されたり不当な扱いを受けることのないようにしてほしいのです。
すべての人間が等しく教育を受けられ、等しくチャンスを与えられ、挑戦できるような国を目指してほしいのです。
私が望むのは、『ゴージャスマートとの対等な扱い』です。
なぜならば、店の隆盛や衰退を決めるのは国家ではなく、あくまでお客様でなくてはならないと思っているからです。
私がみなさんに、『勇者の信』ではなく、『国民の信』を得るような国にしていただきたいと、望んでいるように……。
私は『国の信』ではなく、『お客様の信』を得て、店を営んでいきたいのです。
オッサンの決意に、女王たちは惚れ直したが……。
その心の内にある、真意を知る者はいなかった。
――それに……。
勇者たちを除去するのは……。
この私の『役目』ですから。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ゴルドウルフは『ドッグレッグ諸国』への進出にあたり、まずは各国での雇用を行なった。
『ゴージャスマート』店員時代に培った人脈を活かし、同店から有能な人材を引き抜いたのだ。
オッサンの度重なる『勇者サゲ』作戦がここにも効いていたのか、『ゴージャスマート』から大量の離脱者が発生。
質のいい店員を、一気に確保することができた。
店舗についても問題なく借りる事ができ、地域限定ではあるものの、すぐにでも出店できる状態が整ってしまう。
これはオッサンとしても正直なところ、拍子抜けであった。
『ゴージャスマート』から何らかの妨害があるかと思っていたのだが、何にもなかったからだ。
ドッグレッグ諸国に『スラムドッグマート』が侵攻してくるのは、どんなアホ勇者でもわかることなのに……。
なにも対策を打たなかった、トップの調勇者というのは……。
よほどの自身家か、よほどの博愛主義者か……?
それとも、よほどのボンクラか……!?
「わああああっ!? なんでだボン!? なんでなんだボン!? どうして店員の数がこんなに減ってるボン!? お前たちの説明じゃ、意味不明ボン! そういえば、シュル・ボンコスの姿を長いこと見てないボン! あいつはどこに行ったボン!? いますぐここに連れてくるボン! ボン! ボン! ボーーーンッ!!」
『セブンルクス王国』の首都にある、『ゴージャスマート エヴァンタイユ諸国本部』。
ちなみではあるが、セブンルクスはドッグレッグ諸国を認めていないので、同国内ではエヴァンタイユ諸国という区分けがいまだに根付いている。
そんなことはさておき……。
『エヴァンタイユ諸国本部』にある『大国本部長室』は、荒れに荒れていた。
ヘルメットを被ったような坊ちゃん刈りにぶよぶよの顔、派手なチェック柄のスーツの青年が、カーペットの上を転げ回り、あたりの調度品を手当たり次第に破壊、部下たちに投げつけていた。
集められた部下たちは、彼よりもずっと歳上の重役ばかりであり、相手は孫ほども歳下なのだが……。
バーコードのような頭に花瓶や置時計を食らっても、止めもキレもせずに、揉み手をするばかり。
「ぼ……ボンクラーノ様っ! 今回の店員激減の失態は、すべてシュル・ボンコスにあります! 彼が不在で招いた結果でありますから、今すぐ彼をお払い箱に……!」
そして失態を、不在の人物になすりつけるのに執心していた。
しかしそこで、開けっぱなしの部屋の扉から、蛇のように顔を出したのは、
「……しゅるしゅる、ふしゅる。しゅるなら、これに」
つるんとした頭と、こけた頬に糸目という、なんだかアンバランスな顔。
カエルと蛇と菩薩を足したような、平穏と不穏を掛け合わせたような、不気味な笑顔を張り付かせた中年男であった。
部下からボンクラーノと呼ばれていたダメ坊ちゃんは、ガバッと起き上がる。
「ああっ!? 今までどこに行ってたボン!? お前のせいで、大変なことになってるボン!」
「しゅるしゅる、申し訳ありません。しゅるはちょっとトラブルを鎮めに、セブンルクス国内を渡り歩いておりました。ふしゅるるる」
慇懃に頭を下げるシュル・ボンコス。
しかしその心の内は、燃え上がっていた。
――ふしゅるるるるるるっ! この、クソガキがっ!
あなたのくだらないスキャンダルをもみ消すために、しゅるを新聞社行脚に出したのを、もうお忘れですかっ!?
あなたがブタフトッタ様のご子息でなければ、いますぐ窓から放り出していますよっ!
ふしゅるるるるるるるるるーーーーーーーーーーーっ!!





