27 神威弔う2
悪魔は『女神の右肩』と呼ばれる水晶玉を、掌中におさめる。
そして、魔狼のような指先を爪立てた。
……キキッ!
ガラスが擦れるような耳障りな音が掻き鳴らされた直後、
……ぶわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
周囲を取り囲んでいた湖の水面が逆巻く。
湧水のごとく一斉に吹き出し、逆に流れる滝のように、全方位に水の壁をつくりだした。
少女たちは「わぁ」と口を丸くする。
「すごーい!」「とっても美しいですね」
水面には、合わせ鏡の部屋のように幾重にも重なる風景が映し出されていた。
それがまるでテレビのスイッチをオンにしたかのように、パッと切り替わる。
するとパノラマビューで、夜の景色が広がった。
月の光を受けて輝く、静かなる海だった。
「海だーっ! これ、どこの海?」
「おそらく、このグレイスカイ島のまわりの海ですね」
悪魔は「そうです」と答えながら、指の腹で水晶を撫でる。
すると水面に映っていた映像が回転、海の上に浮かぶいくつもの船と、その背後に大陸が見える景色になった。
白き少女はすぐに察する。
「あの陸はエヴァンタイユ諸国ですね。手前の沖に停泊しているのは、この島に来たがっている、勇者と新聞社たちの船ですね」
「そうです」
悪魔のひとさし指が、水晶玉を突く。
……キインッ!
ワイングラスを打ち鳴らしたような、澄んだ音が響く。
すると、目の前の映像がズームするかのように拡大。
とある一隻の船をアップで捉える。
その船の甲板では、ひとりの男が、ふたりの少女に狼藉を働いている真っ最中だった。
「いやぁぁぁぁぁぁっ! 助けてお姉ちゃんっ!」
「お、おやめください勇者様! 妹になにをなさるおつもりですか!?」
「うるせぇ、こちとらずっと海の上でイライラしてんだ! ウサ晴らしには聖女の貞操をブチ破るのが一番なんだよ!」
「そ、そんな……! 妹はまだ7つなのですよ!?」
「そういや、お前も俺に初めてヤラれたのも同じくらいだったよなぁ!? こんな風にわんわん喚いて、死んだ両親の身体にしがみついて離れなくて、泣きながら俺にヤラれてたんだよなぁ! ありゃ、サイコーだったぜぇ!」
「あ、あの時は、勇者様が野盗から助けてくださったので……! わ……私でしたら、どんなことをしてくださってもかまいません! ですから妹にだけは、どうか……!」
「お前じゃもう、面白くもなんともねぇんだよ! ……そうだ、面白くする方法がひとつあったぜぇ!」
「な、なんでしょう!? 妹をお許しくださるのであれば、私はなんでもいたします!」
「あの時の野盗はなぁ、実は俺が雇ったヤツらなんだよ! 後になってバラされても困るから、飽きてた聖女といっしょに、野盗どもも始末してやったんだ! でもそのおかげで、両親を殺した張本人とも知らず、こうやって股を開く聖女が2匹も手に入ったんだからなぁ!」
「ゆ、勇者様が、私たちの両親を殺した野盗を……!?」
「そうそう! それだぜぇ! 俺が初めてヤッたときの顔! 姉妹まとめて絶望のなかで、ブチ犯してやるよぉ! つい秘密をバラしちまったから、最後は鮫のエサにでもしてやるかなぁ!」
「は、離して! 離してっ! この外道っ! 絶対に許さない! 絶対に許さないんだからっ!」
「てめぇっ、勇者である俺の顔を殴りやがったな!? もう殺してやるっ! お前の親以上に、クソみたいに殺してやぁら!」
「いやああああああっ!? お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!」
……それは、天変地異のように、突如として起こった。
いいや、天変地異であれば予兆のようなものがあるが、それは何の前触れもなく、いきなり。
さながら、神が下した裁きのように……!
……どっ……ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーんっ!!
機雷が炸裂したかのような爆音。
巨大な水しぶきに突き上げられ、船が天高く打ち上げられる。
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?!?」
空中分解するように、粉々になっていく船体。
その中で、ズボンとパンツをちょうど脱ぎ捨てたばかりの勇者が、宙をキリキリと舞う。
「ぱっ……パパに買ってもらったばかりの高速船がっ!? なんでっ、何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?!?」
暴行されていた姉妹は、お互いを助け合うように手を伸ばし、お互いをかばい合うようにきつく抱きあった。
そして、神に祈っていた。
「か、神様……! 私はどうなってもかまいません! どうか妹だけは、お助けください……!」
「か、神様っ! お姉ちゃんを、お姉ちゃんを助けてくださいっ!」
そのふたつの祈りが通じたのか、
……ふわっ。
一筋の噴水があらわれ、ふたりの身体を受け止める。
海神の手のようなそれは、姉妹をふんわりと包み込んでいた。
姉妹は何が起こったのか、すぐには理解できず……。
キツネにつままれている最中のような表情で、それを見上げていた。
「こ……これは、いったい……!?」
「きっと神様だ! 神様が私たちの祈りを聞き届けてくれて、悪い勇者をやっつけてくれたんだよ! そして私たちを助けてくれたんだ!」
「ほ……本当にこれが、神の御技……!?」
雲の上を漂っているかのような、この世界の人間の大半が体感したことのない経験をしているというのに、まだ信じられない様子の姉。
おそるおそる眼下を見下ろすと、悲鳴が乱舞していた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?!?」
撃墜された飛行機からの緊急脱出に失敗し、ズボンとパンツをコクピットに引っかけてしまったパイロットのように……。
下半身丸出しのまま、きりもみしながら堕ちていく勇者。
もちろんその様子を周囲にいたマスコミが逃すはずもなく、即堕天モノの痴態を真写に収めていた。
……特ダネ、ゲットだぜ!
しかしそんなモノは、真写に写っていた股間のモノと同じくらい、粗末なモノでしかなかった。
なぜならば、さらなる超特ダネが、今まさに目の前で、勃発したからだ……!
丸出し勇者が海に着水する寸前、
……ざばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーんっ!!
またしても水しぶきが噴き上げる。
水龍のようにうねり、勇者の身体を拘束。
再び天高く打ち上げられ、今度こそ疑いようのない、神の奇跡がおこる。
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?!?」
股間を覆い隠すこともできない、哀れな罪人が……!
十字型に噴き上げた水しぶきの中央に、大の字になって磔になったのだ……!





