23 大プリン村6
オッサンと聖少女の『恋人繋ぎ』は、貝殻ビキニ以上の衝撃をビーチに与えていた。
しかし誰かがそれをイジるより早く、マザーが動く。
どこからともなく取り出した白いリボンで、繋いでいたその手をキュッと結びつけ、プレゼントのような蝶結びにした。
「これで、ゴルちゃんのお手々は今日一日プリムラちゃんのものになったわ。何があってもほどいちゃダメよ」
「えっ?」と驚くプリムラをよそに、マザーはゴルドウルフの空いているほうの手を取る。
今度はマザー自身が恋人繋ぎをし、ゴルドウルフに上目を向けながら言った。
「ゴルちゃんは今日一日、お手々を使っちゃいけません。右のお手々はずっとプリムラちゃんで、左のお手々はみんなでかわりばんこに繋ぐの」
ゴルドウルフはマザーを見下ろしていた。
それはマザーの大事なところが先っちょ以外は全部見えているような、恐ろしいアングルだったのだが……。
そんなことはおくびにもださずに頷き返す。
「わかりました」
今日のパーティの主賓の許可を得たところで、マザーはみんなに向き直る。
若くして大家族のママになってしまったかのような彼女は、目の前のごちそうが待ちきれずにいる娘たちに向かって言った。
「じゃあみんな、今日はめいっぱいゴルちゃんと遊びましょうねぇ! みんなでゴルちゃんにいっぱい甘えて、みんなでゴルちゃんをいっぱい甘やかしちゃいましょ~!」
「はぁーーーーーーーーーいっ!!」
はちきればかりの笑顔と肢体、青空のように抜ける素直な返事。
そして、楽園が始まる。
ゴルドウルフは右手はずっとプリムラの手を握りしめ、左手は10分おきに違う女の子に入れ替わるという状態で過ごした。
まずは、『ビーチバレー大会』。
3対3で、しかも両チームとも手を繋いだままという変則ルール。
普通のボールでは手繋ぎ状態では追いつけないので、シャボン玉のようにふわふわ飛ぶボールが用いられた。
それでも二人三脚をしているようなものなので、意思疎通ができていないとすぐに転んでしまう。
あっちでスッテン、こっちでコロリン、微笑ましいやら可笑しいやらで、観客席からは笑いが絶えなかった。
そしてオッサンは1ポイントごとに、ツイスターゲームで失敗したカップルのような、濃厚なくんずほぐれつを経験した。
身体を動かしたあとは、『バーベキュー大会』
普段『スラムドッグランド』のフードコートでも出している、近海で獲れた海鮮をぜいたくに炭火の網焼きに。
野外での料理となればゴルドウルフの出番なのだが、今日は両手が塞がっているので、すべて女の子たちがやってくれた。
それどころか食べるのも、両手の花がしてくれる……!
「ゴルドウルフさん、こっちのイカ、もう焼けてるし! はい、あーんして! ……どう? おいしい?」
「はい、とってもおいしいですよ」
「マジで!? あーし、こうやって料理するの初めてなんだけど、いいお嫁さんになれなくなくなくないっ!?」
「バーちゃん、調子に乗りすぎ。料理じゃなくって、ただ焼いてるだけなのに」
「ブリっち、あーしとゴルドウルフさんがラブラブだから、妬いてるし! バーベキューだけに! あっはっはっはっはっ!」
「ふーん、鬼スベりじゃん」
「まぁたそんなこと言ってぇ! 次はブリっちの番だよ! ゴルドウルフさんといっぱいアツアツしなって!」
「そんな、別に……。でも、せっかくだから……。ゴルドウルフさん、なに食べたい?」
「じゃあ、次はホタテをお願いします」
「はい、ホタテ。熱いから、フーフーするね」
「ブリっちってば猫舌だから、いつもあーしがこうやってフーフーしてあげてるんだよね! ゴルドウルフさん、ブリっちにフーフーしてもらえるなんて、マジ超激レアだし!」
お腹がいっぱいになったあとは、デザートがわりの『スイカ割り大会』
これも手を繋いでの変則方式。
ゴルドウルフと手を繋いでいる、プリムラと女の子がそれぞれ空いたほうの手で棒を持ち、円陣を作って行なうというもの。
もちろん三人とも目隠しをしているので、難易度は通常のルールの数倍であった。
最初はビーチバレー大会の再来のように転倒を繰り返していたのだが、シャルルンロットの番に攻略法が編み出された。
「そうだ! 離れると動きがバラバラになっちゃうから、いつもパインパックがしてるみたいに、ゴルドウルフの身体にしがみつけばいいのよ! そうすれば、移動はゴルドウルフに任せられるわ! ほらプリムラ、さっさとやんなさい!」
「ええっ!? そんなことをしたら、おじさまが重くて大変だと思うのですが……?」
「ゴルドウルフならこれくらい平気よ! ねっ!?」
「ええ、私なら大丈夫ですよ」
「そ、そうなのですか? でっ……ででで、では、失礼させていただきます。あっ、あのあのあの、不束者ですが、どうか……」
「なに堅っ苦しい挨拶してんの! さっさと抱きつきなさい!」
「きゃあっ!? す、すみません、おじさま! 重くはありませんか?」
「そんなに気にせずに。私なら何ともありませんから。それよりも、しっかりつかまっていてください」
「はははっ、はひっ!」
プリムラはもうスイカ割りどころではなくなってしまったが、この攻略法により、スイカは見事に仕留められた。
デザートを食べたあとは、海で泳ぐ。
手繋ぎはすでに一周して、マザーの番に戻っていた。
「うふふ、ゴルちゃん、プリムラちゃん、いっぱい泳ぎましょうね」
「あの、おじさま、お姉ちゃん。実は私、泳ぐのは初めてでして、うまくできるかどうか……」
「それなら心配いらないわ。ママは泳げないのだけれど、なぜか水には浮くの。ママを浮き輪だと思って、いっしょにプカプカしましょう」
「じゃあ、水に慣れるために、まずは浅瀬で泳ぎましょうか。ついでに紹介しておきたい者もいますし」
「「紹介しておきたい、者……?」」
ハモる姉妹をよそに、オッサンは口笛を吹いた。
いつもは指笛なのだが、両手が塞がっているので口笛で。
その様子を後ろで眺めていた、天使と悪魔がつぶやいた。
「ああ、我が君……。ついにお呼びになるのですね」
「こんな所にあの子が来ちゃったら、大変なことになっちゃうけど……大丈夫かなぁ?」





