20 大プリン村3
妖精女王のようなマザーが、ほぼ素肌のような胸の前で指を絡め合わせ、花の妖精たちに向かって言った。
「はぁい、みんな、ゴルちゃんにご挨拶しましょうねぇ」
すると妖精たちは「はぁーいっ! マザーっ!」と黄色い声を揃える。
そして一斉に、ゴルドウルフに向かって、
「ゴルドウルフさんっ! 今日はお招きいただきありがとうございますっ!」
頭のつむじが見えるくらいに、深々と頭を下げた。
必然的に胸の谷間も向けられ、逆Wがビーチにあふれた。
「……おびたただしい谷間の数のん。我が騎士団にはひとつしかない谷間が、ここには無数にあるのん」
「あっはっはっはっはっ! シュガーっち、エロ親父みたいなこと言ってるし!」
「あらあら、みんな立派にご挨拶できて……ママ、とっても嬉しいわぁ。それじゃあご褒美として、ゴルちゃんにナデナデしてもらいましょうか」
「はーーーーいっ!!」
妖精たちは弾ける返事のあと、レギュラーメンバーと入れ替わるようにしてゴルドウルフに殺到。
女だらけの3年B組があったとしたなら、きっとこんな光景であったであろう。
少女たちはいまにもゴルドウルフを胴上げせんばかりに、ぴったりと身体を寄せてきた。
「ナデナデしてくださいっ、ゴルドウルフさんっ!」
「私の水着、どうですか!? ゴルドウルフさんっ!」
「ワンピースにしようかと思ったんですけど、ビキニのほうがゴルドウルフさんが喜んでくれるって聞いたので、思い切ってビキニにしちゃいました!」
「ゴルドウルフさん! 今日はゴルドウルフさんといっぱい遊びたいですっ!」
「私、ゴルドウルフさんにサンオイルを塗ってさしあげたいです!」
「あたしのおへそ、とっても綺麗だって友達が言うんですよ! ほらほら、もっと見てください!」
入れ代わり立ち代わり、思い思いに思いの丈をぶつける少女たち。
それは、貸し切った回転寿司屋で、大好きなプリンだけをレーンに並べたような光景であった。
さらに、そのプリンはどれも異様なほど柔らく、移動するたびに、あっちでふるふる、こっちでぷるぷると絶え間なく揺れているのだ……!
しかも、押しくらまんじゅう状態なので、当たってしまうのだ……!
腕や背中に、むにむにと……!
これが真の『まんじゅうこわい』……!
男ならもう昇天していてもおかしくないシチュエーションであったが、ゴルドウルフはいつもと変わらない。
頭を撫でるのは子供扱いしているようで気が引けたのだが、みな甘えるように頭を寄せてくる。
ひとりひとりに対し、丁寧に受け答えしながら頭を撫でていた。
それは、男であるならば悟りの境地に達していないとできないことである。
なぜならば、想像してみてほしい。
オッサンとは3まわりも違う、親子ほどの……。
いや、下手をすると孫であってもおかしくないほどの、少女たちの餅肌を、素肌で感じているのだ。
つるつるで、すべすべで、もちもちの……!
それに加えて、髪の匂いがヤバかった。
天使のようにキューティクルの輪っかを乗せた艶やかな髪が潮風に揺れるたび、少女独特の甘やかな香りが、ふんわりと立ち上り……。
それは思わず吸い寄せられてしまうほどの、芳香……!
しかも、しかもである。
今回はそれらを上回るものまで解き放たれていたのだ。
『柔肌の香り』という、乙女の最終兵器が……!
普段はローブに包まれているので感じることができないのだが、今は水着である。
しかしほのかな香りでもあるので、気付かれることも少ない。
感じることができるとしたら、そう、超至近距離。
恋人たちの距離といわれる、抱き合うほどの距離でなくてはならない。
しかし今、オッサンはそのリーチ圏内にいる……!
眼下の谷間からたちのぼる、少女の顔をした女のフェロモンを、むんむんと感じていたのだ……!
男ならば、鼻腔からの大量出血と、ブーメランのような前屈みは避けられないほどの、危険なフレグランス……!
しかしオッサンは、変わらない……!
こんな何をしても許されそうな、完全なるハーレム空間においても、なお……!
……この世界では、勇者しか『ハーレム』を持てないのは、すでにご承知のとおりであろう。
しかし勇者のハーレムというのは、ここまで和気あいあいとしていない。
第一夫人を筆頭とした厳密な格付けがなされ、女たちは日々上を目指して、飢えた女豹のように目をギラつかせている。
それは、勇者たちの出世争いとほぼ同じであった。
見た目は、白鳥どうしが群れ遊ぶように、優雅で美しい光景なのだが……。
水面下では、水かきでお互いを蹴り合い、スキあらば蹴落とすという修羅の空間だったのだ。
今このビーチで展開されているハーレムは、それらと一線を画すものであった。
お互いが押しのけ合うことなく、順番を守り、ときには譲り合い、ゴルドウルフに愛でてもらう。
なぜそんな健全なる空気が醸成されているかというと、ふたつの理由があった。
まずひとつ目は、ゴルドウルフの態度。
オッサンは相手が大聖女であれ、門下生の聖女であれ、接し方を変えるようなことはしない。
マザーの身体に不用意に触れては悪い噂が立ってしまうという気遣いを、門下生の聖女たちに対しても同じようにしていた。
魔導女であるならばビッグバン・ラヴだけを贔屓にせず、他の魔導女たちのことも同じように気に掛けていた。
これが勇者であれば、マザーやビッグバン・ラヴたちのみを大切にしていただろう。
無名の聖女や魔導女などは自分にとって都合のよい存在として扱い、さんざん弄んでポイ捨てしていたであろう。
ゴルドウルフはあくまでひとりのレディに接するような、紳士的な態度を貫いた。
それが少女たちにとっては新鮮で、あっという間にハートをわし掴みにされてしまった。
そしてもうひとつは、リインカーネーションの教育。
ハーレムの発起人である彼女は、みんながゴルドウルフに愛されるためには、みんなを愛すように教え諭す。
そして自分自身も、みんなでゴルドウルフを愛せるように振る舞っていた。
これが勇者ハーレムであれば、こうはいかない。
第一夫人などは自分より格下の女たちを、勇者の寵愛をより多く得るための駒として扱うのだ。
リインカーネーションは自分がハーレムの発起人だからといって、門下生たちを都合よく使ったりはしない。
むしろ引っ込み思案な子がいたら、積極的に手を引っ張ってゴルドウルフの元へと導いていた。
……。
…………引っ込み思案な子?
そういえば、オッサンのこととなるとやたらと『引っ込み思案』となる、あの聖女は、いまどこにいるのだろうか……?





