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31 オラオラ勇者、またまたクエスト失敗…! 1

ついにやってまいりました、勇者ざまぁ…!

今回も複数回に渡ってお送りします!

「この、キティーガイサー記念公園は、現在は熾天(してん)級勇者であるキティーガイサー様を称えるために作られました」



 白い鳩の群れのような一団が、静かな海原のように刈り揃えられた芝生の上を、たおやかに進んでいた。

 独特な花の香りを含んだ薫風が純白のベールを揺らすと、まだこの世の穢れを知らぬような乙女たちの、清らかな笑みが覗く。


 公園のところどころには花壇やオブジェがあり、訪れる人の目を楽しませている。

 しかしそこに植えられた花はどれも毒々しい色をしており、彫像はどれもアナキズムあふれる過激なものであった。


 しかもいたる所に野良猫がおり、そこらじゅうで交尾を繰り広げている。

 モチーフとなった勇者の、人と成りが全面に押し出された無軌道なる公園。


 年端もいかぬ少女たち、しかも聖女にとってはかなり刺激の強いブツばかり。

 だが、まだピュアな彼女たちには本来の意味などわかるはずもなく、どれも前衛芸術のような感覚として受け取っているようだった。


 引率の先生ですら、澄んだ瞳をキラキラと輝かせて見入っている。



「まぁ、このキノコの彫像、かわいいですね。あっ、見てください、頬ずりするとご利益があると書いてありますよ」



「それよりも先生! あの遠くの丘にあるのが『双頭』ですか!?」



「はい、そうですね。『双頭』はキティーガイサー様がお作りになった、世界でも有数の『人工地下迷宮(ダンジョン)』です。ちょっと距離はありますけど、せっかくですからあの上まで行ってみましょうか」



「ええっ!? 近づいても大丈夫なんですか!?」



「もちろん。人里の近くにある地下迷宮は、衛兵や魔法結界によってしっかり管理するという決まりがありますから、モンスターが外に出てくるということはありません」



「そうなんだぁーっ! 『双頭』が近くで見れるだなんて! わぁーいっ! 早く行きましょう!」



 白いローブをはばたくようになびかせながら、聖女たち一行はきゃあきゃあと賑やかに移動をはじめる。


 彼女らが目指す丘の上には、すでに先客として4つの人影があった。



「……ああん? こりゃなんだ? 両性具有の猫がサカってんのか?」



 頂上のほとんどを専有し、我が物顔で鎮座している巨大な彫像。

 それを見上げていたガラの悪そうな若者が吐き捨てた。


 『双頭』の外観は、ふたつの首を持った化け猫がモチーフとなっている。

 蛇のように伸びたふたつの首が、交配の真っ最中のように絡み合って横たわり、ちょうど顔のところが地下迷宮(ダンジョン)の入り口となっているのだ。


 この公園のパンフレットをチェックしていた坊主頭の若者が、顔をあげて仲間たちに言う。



「1時間に1回、顔のところがアクビをするみたいに大口を開けるそうっす。それで、受付でもらった(たま)をはめ込むと、地下迷宮(ダンジョン)内に入れるようになるんっすけど……オス側の入り口と、メス側の入り口に分かれて入らないとダメみたいっす。ふたつのルートに分かれて、お互い協力しあって進む仕掛けになってるみたいっすね」



「ああん? なんでそんなことしなくちゃいけねぇんだよ。ったくメンドくせぇなぁ……」



「じゃあ私、勇者様といっしょにはーいる!」



 仲間のひとりである魔女装束の少女が、チンピラ青年の腕に抱きつこうとしたが、さも嫌そうに払い除けられていた。



「ああん? ウゼぇんだよテメェ。テメーは尖兵(ポイントマン)のウルといっしょにメス側のほうに行け。俺とリンシラはオス側を行く」



 魔女は勢い余って張り倒されていたが、ぜんぜん懲りる様子はない。

 「ウルとなんてイヤですぅ、勇者様と一緒に入りたぁい!」と猫なで声とともに脚にすがりついていた。


 しかし、


 ドスッ! 「ヴッ!?」


 鋭い蹴りを腹に食らい、坊主頭の青年を巻き込んでゴロゴロと転がっていった。



「もうすぐ昼の12時だ。テメーらはメス側の入り口で待機してな。……おら、早くしろっ!」



 リーダーである勇者に怒鳴りつけられ、尖兵(ポイントマン)と魔女は這うようにして、離れた場所にある巨大な猫の顔面へと走っていく。


 その場に残った勇者と聖女の目の前には、同じく大岩のような猫面があった。


 自分が小人になったと錯覚しそうなほどのスケール。

 しかし勇者は怯まず一歩を踏み出した。



 ……ガシャンッ!



 全身鎧を身に着けているかのような、重苦しい足音。

 わずかによろめいてしまい、とっさに聖女に支えられていた。



「クリムゾンティーガー様、大丈夫ですか? まだ扱いに慣れていないのでしょう? あまり無理をなさらず……」



 彼女は視線を落としながら気遣う。


 かつては白銀の脛当てとブーツに彩られた、熟女たちからはセクシーだと評された勇者の下肢は、今は見る影もない。


 鏡のような防具の隙間には、ほどよく筋肉のついた、しなかやかな太ももではなく……機械時計のような、無機質な歯車が内臓のように蠢いていた。


 これは、この世界における義肢……『アークギア』と呼ばれるもの。


 見た目だけ修復する義手や義足などとは異なり、慣れれば人体と同程度の機能を得ることができる。

 機械工学と魔法科学の合わさった最先端技術が用いられおり、上流階級の人間にのみ許されている高級福祉用具なのだ。


 ……火吹き山でのクエスト失敗で、勇者クリムゾンティーガーは下肢を失うほどの大怪我を負った。


 しかし彼はあきらめなかった。

 不運続きで自分の実力が発揮できなかっただけだと信じて疑わず、残りの全財産をはたいてアークギアを手に入れたのだ。


 本来であるならば、この義足は慣れるのに1ヶ月、使いこなすには数ヶ月かかるのだが、彼は周囲の反対を押し切って1週間で退院した。


 才気あふれる自分が、勇者の最低ランクである小天(しょうてん)級に留まっていることが我慢できなかったのだ。


 時刻はもうすぐ昼の12時になる。

 そうすれば、この悪趣味な地下迷宮(ダンジョン)の入り口が開く。


 あとは、一歩を踏み出すだけ。

 そうすれば、輝かしいレッドカーペットに戻れるのはすぐだ。


 今回挑むクエストの難易度は、先のミノタウロス討伐よりも高いが問題ないだろう。

 なぜならば、今度こそ間違いなく、あの野良犬の呪縛から解き放たれたのだから。



 ……ゴーン、ゴーン、ゴーン。



 正午を知らせる鐘が、広々とした公園内に鳴り渡る。



 ……ゴアァァァァァァァァァ……!



 それと同時に、目の前の化け猫が、ついにその口腔を開いた。


 支えてくれていた聖女を押しのけ、勇者は希望への第一歩を踏み出す。


 もはや、彼に恐れるものなどなにもない。

 すでによからぬ考えが、脳内で描けているほどに。



 そうだ、この穴っぽこ(リンシラ)もいい加減、飽きてきたな……。

 このクエストが終わったら、新品に取り替えるとすっか。


 これで、あの忌々しい野良犬の匂いがついたヤツらとは、これで全員オサラバできる。

 戦勇者(せんゆうしゃ)クリムゾンティーガーは、そこから生まれ変わるんだ。


 新たなる仲間である尖兵(ポイントマン)と魔女は、俺に良いところを見せようと、すでにメス猫の中に乗り込んでいった。

 ヤツらが中でどうなろうと知ったことじゃねぇが、美味しいところをやるわけにはいかねぇな。


 さぁて……!

 真打ちであるこの俺も、そろそろ出陣といくか……!



 ……ガシャンッ!



 ウゼェと思っていたこの足音すら、今は頼もしく、そして心地よく感じるぜ……!



 それは、万感の思いであった。

 クリムゾンティーガーは思わず浸りそうになってしまったが、なにかが芝生の中から飛び出してきたので、ふと我に返る。


 獲物に襲いかかる蛇のようなものが、股の下をくぐり抜けていくのを……ほんの数瞬だけ、眼下で捉えたような気がした。



 ……シュバァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!



 彼の思考は、迅雷のような衝撃音によって強制中断させられた。

 直後、燃えているマグネシウムを頭の中に放りこまれたような、激しいスパークが脳内を迸る。



「あぁんぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?!?!?!?!?」



 ……丘の上にいた先客は、実は彼ら4人だけではなかった。

 猫の首の先……公園の遊具のような胴体から覗く、みっつの人影。



「うわっ、モロに決まったね、『魔界のち○こマシーン』。ああ、イタイイタイ」



「プル、そんなはしたない言葉を使ってはいけませんよ。あの(トラップ)には『アダムの改心』という名前があるのですから」



「でもさー、プルは女の子だからわかんないけど、アレってかなり痛いんでしょ?」



「そのようですね。『堪王』と呼ばれ、生涯いちども膝をつかなかった地獄の悪魔が、のたうち回ったそうですから」



「なんだ、『堪王』って膝ついたことあるんだ」



「いえ、膝だけは地面に付けずに転げ回ったそうですから、セーフだと本人は言い張っています」



「ふーん」



「……では、ふたりとも、そろそろ行きましょうか」



「えっ、最後まで見ていかないのですか?」



「はい。もう、彼は終わりですから。それにみなさんが待っています。帰りましょう、ルク、プル」



「はい我が君(マイロード)!」

「うん我が君(マイロード)!」



 オッサンとふたりの少女は、なおも続く叫喚に背を向ける。

 親子のように手を取りあって丘を降り、公園をあとにした。

これでまだ終わりではありません! というか、ここからが本番です!

この先にさらなる衝撃が待ち受けておりますので、ぜひ次回もご期待ください!


あと今回は蛇姫様に、なろう人生初のレビューを頂き、嬉しさのあまり2話更新です!

蛇姫様、ありがとうございます!


このように応援してくださると、倍プッシュもありえますので何卒よろしくお願いいたします!


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[良い点] イエス!! ヒットだぜ!! これで世のレディたちの大敵が駆除されたぜ!! [気になる点] キティーガイサーとやらも気になるところ・・・。 キチガイさ・・・(笑) [一言] ・・・ゴールデン…
[気になる点] 迷宮と公園が近くにあるというのに違和感。人工で作られて管理された迷宮にわざわざ入る目的もよくわからず、ストーリー展開に理解が追いつきませんでした。「尖兵ポイントマンのウル」について何の…
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