18 大プリン村1
――長い廊下を抜けると大プリン村だった。
もしこの光景を、文豪が目にしていたのなら……。
きっとこう記していたに違いない。
オッサンはビーチに併設されている、屋敷の更衣室にいた。
扉に『女子更衣室』というルームプレートが下げられている室内には、彼ひとり。
この屋敷には女子更衣室しかないので、やむなくここで着替えるしかなかったのだ。
部屋にムンムンと残る、乙女たちの熱気と残り香を感じながら、ロッカーから服を取り出す。
中にあったのは、『スラムドッグマート』で販売している、ゴルドくん柄のシャツとショートパンツ。
オッサンは仕事でも休日でも、いつもタキシードを身につけている。
冒険のときには動きやすい尖兵スーツを着用するのだが、こんなラフな格好をしたのは久しぶりであった。
着替え終え、更衣室をあとにする。
長い廊下を進んで玄関から出ると、そこはホーリードール家のプライベートビーチ。
かつて勇者との激戦を繰り広げた場所なのだが、そのあとも引き続きホーリードール家のために確保されていたのだ。
オッサンの姿を認めるなり、さっそくふたりの少女が砂浜を散らしながら駆け寄ってくる。
「じゃーん! どぉ、ゴルドウルフさん、あーしらの水着は!? 今日は特別だよ! あーしらは仕事でも水着になったことないし!」
「ふーん、超レアじゃん」
オッサンは「ふたりとも、よくお似合いですよ」と当たり障りのない答えを返す。
それはいつもの反応であったが、脅威の精神力といえた。
なにせ女子高生カリスマモデルの『ビッグバン・ラヴ』が、一度も見せたことのない水着姿を大公開。
むっちりとした肉付きのバーニング・ラヴが、たわわに実った肢体を、たった一枚の薄布に包んでいるのだ。
胸のところにゴルドくんのイラストがあしらえられた真っ赤なビキニは、このグレイスカイ島の限定商品。
肩紐が吊り橋のようにピーンと張り詰め、ほんのわずかな面積だけで量感のある胸を支えている。
イラストのゴルドくんは大岩に押しつぶされたようにぺちゃんこになっていたが、心なしかいつもより幸せそうに見えた。
ブリザード・ラヴも負けていない。
スレンダーなボディを水色のゴルドくんビキニに包んでいるのだが、いつもなら隠されている腰やふとももを惜しげもなく大公開。
花瓶のようにキュッとしたくびれ、滑やかでしなやかな美脚は、男ならず女までもを釘付けにするのは確実であった。
「あんっ、今日はお招きいただきありがとうございます。社長」
悩ましげな吐息とともにやって来たのは、『スラムドッグマート』の幹部のひとりであるミスミセス。
彼女もバーニング・ラヴに負けないほどのナイスバディなのだが、水着はさらに大胆であった。
なんと、カーテンのような布のスリングショット……!
肩から伸びたふたつの布が、そのまま股間へと繋がっている、Vの字型の水着である。
身体の全面を覆うのは、光渡しのような2本の細い筋のみ
それは通りすぎるついでのように胸を隠しているだけなので、ちょっとしたはずみでモロ出しになってしまいそうな危うさがあった。
しかも股間を覆うVの字の布は、極限まで切れ上がっているので……。
その奥に秘められたものが、ギリギリまで……!
「ミスミセスさん、チョー大胆っ! 角度によってはほとんど見えてるし! あっはっはっはっはっ!」
「ふーん、ほぼマッパじゃん」
「はあんっ、へ、変でしたでしょうか? あんっ、マセリアちゃんがこのくらいの水着じゃないと、ゴル……社長の目は惹けないって……。私は別に、そんなつもりはなかったのですが……」
いまさらながらに恥ずかしがりだすミスミセス。
そこに、元気な声が飛び込んできた。
「あっ! やっと来たわねゴルドウルフ! 今日はめいっぱい遊ぶわよ!」
「こんにちわぁ、ゴルドウルフさん。とっても素敵なビーチですねぇ」
「これも、かみさまのおかげなのです! ゴルドウルフさんも、かみさまに感謝するのです!」
次にオッサンの前に現れたのは、わんわん騎士団。
シャルルンロット、グラスパリーン、チェスナ。
三人とも、お揃いのスクール水着を着ている。
そこにゆっくりと加わった四人目が、みなの水着を見回しながらつぶやいた。
「3号以外は焼け野原……。我が騎士団は壊滅状態のん。この後に控えた強豪相手には、勝負にもならないのん」
「ミッドナイトシュガー、アンタがいちばん焼け野原でしょうが! それにアタシはまだ芽が出たばかりなの! これがぐんぐん大きくなって、あっという間に3号を追い越してやるんだから!」
「ああん、揉まないでくださいぃ!」
「チェスナ、アンタも大きくなったら、少なくともこのくらいにはなりなさいよ! でなきゃ、騎士団失格よ!」
「わうっ! かしこまりなのですっ!」
いつものドタバタに気を取られていて、誰もが接近に気付くのが遅れてしまった。
……ぬぉぉぉっ……!
とか、
……ゴゴゴゴゴ……!
などの擬音が似合いそうな、ただならぬモノの出現に……!
それは、2号が『さらなる強豪』と形容しただけあって、それまでの存在とは明らかに規格外であった。
ずしゃりと一歩踏み込むだけで、
……ぼみよぉぉぉぉぉ~~~~~~~んっ!!
荒波のなかで打ち鳴らされる、あばれ太鼓のように、鳴動っ……!
しかもビーチというこの地においては、着衣なるものは存在しない。
そのため、一歩一歩がオーバーラン。
一挙手一投足がオーバードライブ。
……ぼみょん、ぼみょん、ぼみょぉぉぉぉぉ~~~~~~~~んっ!!
拘束具を解かれた大罪人のような凶悪さで、我が物顔の大暴れっ……!
すべてのものを過去にする、恐怖の大魔王のような、その圧倒的存在感……!
それで包み込めば、男であればいともたやすく窒息死させられるであろう。
しかも殺された側も、大往生のような安らかな死に顔を浮かべていることであろう。
そう、それは真のサイレント・キラーっ……!
喉に詰まるどころか、顔全体を包み込んで窒息させられるほどの……!
餅の遙か上をゆく、鏡餅っ……!
かくして、その正体はっ……!?
「あらあら、まあまあ! ゴルちゃん、ひとりでお着替えできた? ママ、あと少しでゴルちゃんの更衣室に行くところだったのよ!」
マザー・リインカーネーションっ……!
最凶の胸を、持つ女っ……!!





