17 生まれ変わるために7
『スラムドッグランド』のおかげで、グレイスカイ島は大きく生まれ変わった。
かつては、暴力と殺戮、金と欲望と兵器が渦巻く、勇者アゲ、ワイルドテイルサゲの場所であったのだが……。
今や、やさしさと笑顔、真心と希望とゴルドくんが渦巻く、勇者サゲ、ワイルドテイルアゲの地となったのだ……!
その陰の立て役者であるオッサン。
島にはかなり長期滞在となってしまったが、復興を終えた今、ハールバリー小国に戻るのかと思いきや……。
「私は、このグレイスカイ島に移住したいと思います」
まさかの、引っ越し宣言……!
現在オッサンは、ハールバリー小国のルタンベスタ領、ホーリードール家の屋敷に居候している。
かつて同国の王都である、ハールバリー領への引っ越しをしようとしたことがあったのだが、ホーリードール家の姉妹たちがついていくと聞かず、結局お流れになってしまった。
今回、オッサンの決意は本物であった。
しかし地獄のスッポンのような、迅雷に打たれても離れない姉妹を振り切ることはできず……。
結局、ホーリードール家ごと、お引っ越し……!
前回の引っ越し騒動ではルタンベスタ領が大騒ぎとなった。
なにせ聖女の名門がいなくなるというのは、領地にとって大きな痛手となるからだ。
しかも今回は国から出て行くということになったので、国王までやってくる騒ぎとなった。
特に次期国王であるバジリスは、手にした権力でオッサンを取り込めると思っていたので大反対。
しかし、オッサンチケットの中でも最高レアリティである『ゴルちゃんがなんでもいうことを聞く券』で手打ちがなされた。
バジリスはさっそくその券を行使し、ゴルドウルフを家老に任命しようとする。
しかし、上手……!
オッサンのほうが……!
券の隅には、こんな一文があった。
『本券は、公序良俗、公衆道徳に反する「お願い」に対しては無効となります』
さらにその下に、米粒を噛みつぶしたような文字で、
『行政に関する「お願い」は無効となります』
さらなる衝撃の一文が……!
「なっ……!? なんなのだこれはっ!? わらわの為政を公序良俗や公衆道徳と同列に扱うなど、不届き千万! ご……ゴルドウルフめぇーーーっ! なぜあの男だけは、わらわの思い通りにならぬのだっ!?」
ありとあらゆる妨害を振り切って、オッサン、ついに国外移住っ……!
これには受け入れ先のワイルドテイルたちも、魂消るほどに驚いた。
オッサンはともかく、ホーリードール家の聖女たちまでもが、自分たちの島に来てくれるのだ……!
すでに彼らにとっては女神同然の彼女たちとともに暮らせるとあって、上を下への大騒ぎ。。
「ホーリードール家の方たちがこの島に来てくださらなければ、この島は地獄のままじゃった……。それを再び我らの楽園として取り戻してくださったあの方たちは、シラノシンイ様もお認めになった聖女様じゃ! ワシらを見守ってくださる以上、おかしな所に住まわせるわけにはいかん!」
ワイルドテイルたちは一致団結して、ホーリードール家の新居建造に着手する。
それは、とんでもない場所に建てられた。
なんと……!
神の住まう山の、頂上……!
山を切り開いて聖地の参道のように、大きな道をつくり……。
その上に、たいそう立派な山院を作りあげてしまったのだ……!
大聖女の住まいといえば大理石の宮殿が一般的である。
しかしその山院はすべて木造。
山に生えている最高級木材であるプラチナメープルをふんだんに使い、しかも釘は一本も使っていない。
手先が器用なワイルドテイルたちだからこそできる、芸術的な建造物であった。
参道を登ると、緑に囲まれた清水寺のような、純白の大聖堂が迎えてくれる。
その中にはもちろん、シラノシンイと三姉妹像……!
しかも、見上げるほどの巨像……!
グレイスカイ島に、新たなる新名所が誕生した瞬間であった。
この一大事業は、引っ越し準備のためにハールバリー小国に戻っていた姉妹には極秘裏に進められていた。
そしていよいよ引っ越し当日となって、今度は逆に彼女たちが魂消る番となったのだ。
大聖堂の中に案内された三姉妹。
くもりひとつない白木の、清らかで静謐なる空間に安置された、自分たちの巨像をあんぐりと見上げていた。
姉妹の良心であるプリムラは、大きく開けた口のはしたなさにようやく気づき、両手で口を押えながら、顔をイヤイヤと振る。
「と……とんでもありませんっ! こんな立派な場所に、住まわせていただくだなんて……! こ、これはもうお屋敷というよりも、大聖堂です……! 煌聖女様がお住まいになられるのであればともかく、私どもみたいな者たちが住むだなんて……!」
『煌聖女』というのは、政教一体の国家において、女王と聖女を兼任している人物のこと。
ちなみに、『キリーランド小国』の王室が煌聖女の一族である。
さらに余談となってしまうが、ザマーが死ぬほどなりたがっている立場である。
ザマーは国をまるごとひとつ支配し、自分だけを崇めるようにするのが夢だったのだ。
しかし皮肉にも、先を越されてしまった……!
よりにもよって、死ぬほど殺したいと思っていた、ライバルに……!
その張本人であるマザーも「あらあら、まあまあ」と驚いていたものの……。
すぐに大きな胸の前で指を絡め合わせ、ニッコリ笑った。
「ママ、ここにある像みたいに、おっきくなるのが夢だったの。だって大きくなれば、みんなをいっぺんにぎゅーってできるでしょ? だからずっとお星様にお願いしていたの。もっと大きくなれますように、って。ママのお願いを叶えてくれるだなんて、本当にみんないい子でちゅね~!」
マザーは手を引っ張って案内してくれたワイルドテイルの子供たちを、しゃがみこんでぎゅうと抱きしめる。
「パイたんも、あんなふうにおっきくなるー!」
ゴルドウルフに肩車されているパインパックは、目の前にある10倍以上ある自分の像に大興奮。
なにはともあれオッサンは、このグレイスカイ島を新しい拠点に定めた。
それは、なぜなのか……!?
と、その前にっ……!
オッサンは引っ越し早々、なぜか『プリン村』にいた。
次回、ついに『大プリン村』っ……!?





