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15 生まれ変わるために5

 プリン村を訪れたゲストたちは、このあたりでいままで感じたことのないタイプの、言い知れぬ感情に包まれる。

 それは、不安に近いものなのであるが、そんなありきたりな言葉では表すことのできない、複雑な感情。


 例えるならば、世界から猫が消えてしまったような……。

 いいや、世界がゴルドくんに支配され、人類と呼べるものは自分だけになってしまったような……。


 人類がこの惑星(ほし)にいたという証である、海辺に埋もれた女神像を見つけたはいいものの……。

 その女神の顔すらも、ゴルドくんであったかのような……。


 押し潰されてしまうほどの、圧倒的な感覚……!

 あえて名づけるのであれば、圧倒的な『ゴルドくん感』に支配されてしまうのだ……!


 むせかえるようなゴルドくんの熱烈歓迎に、めまいを覚えるゲストたち。

 すでに彼らは、ゲシュタルト崩壊ならぬ、ゴルドくん崩壊を起こしていた。


 すると不思議なことに、それまでじゃっかん引き気味であったはずなのに……。

 誰もが瞳をトロンとさせ、陶酔したようにつぶやきはじめる。



「ゴルドくん……いい……!」



 と……!


 そんなゲストの元に、ついにプレーンなゴルドくんがやって来る。


 それは森の入り口で木の陰から見ていた、ゴルドくんの着ぐるみなのだが……。

 ゴルドくん崩壊を起こしていたゲストたちにとっては、たまらなく安心できる存在となっていた。


 この島に来るまでは『ゴルドくん』の名前すら知らなかった者でも、世界的スターに会ったかのように、先を争うようにしてゴルドくんに飛びつく。



「ああーーーーっ!? ゴルドくん! ゴルドくんだぁーーーっ!」



「やった! ゴルドくんに会えるだなんて、最高っ! 感激ぃ!」



「ああん! 嬉しすぎて、もう死んじいそう!」



「ふん、もう騙されないぞ! これこそホンモノのゴルドくんだ!」



 ゴルドくんはくっついて離れないゲストたちを、引きずるようにして自宅に案内する。


 壁のシミが人の顔に見えるどころか、壁すべてがゴルドくんに見える部屋の中で振る舞われるのは……。



 特製プリンっ……!



 ここでようやく『プリン村』の面目躍如といったところであるが、ゴルドくん崩壊を起こしたゲストたちにはもはや、『軟体ゴルドくん』にしか見えない。


 『マザー牧場』で採れた新鮮な牛乳と卵を使って作られたこのプリン。

 味については折紙つきなのだが、ひと口食べたゲストたちはみな口を揃えて、



「……ゴルドくんの味がする……!」



「おおっ、ほんとだ! ゴルドくんを食べてるみたいだ!」



「すごーいっ! ゴルドくんって、こんな味なんだぁ!」



「ふん、騙されないぞ! これはプリンなんかじゃなくて、僕の大好きなゴルドくんだ!」



 この『グレイスカイ島』には、純粋にバカンスやショッピング、アトラクションなどを楽しみにして来る者たちがほとんどなのだが……。

 中にはケチをつけてやろう、もし酷いアトラクションだったら暴れてやろう、などと考える者たちもいた。


 しかしそんな彼らも、この『プリン村』を出る頃には、ゴルドくんの熱狂的なファンへと生まれ変わる。


 この効果については、『スラムドッグランド』の関係者の誰もが予想していなかったことである。


 ちなみにではあるが、本アトラクションのプロデューサーであるプリムラは、当初抱いていたイメージを半分ほど切り捨てていた。


 本来の彼女の頭の中にある『プリン村』の住人は、ゴルドくんではなく、オッサンであった。


 想像してみてほしい。

 先ほどの村内のゴルド君ラッシュが、すべて、おじさまラッシュになっている光景を。


 アトラクション建設前に、そのイメージイラストを見せられた関係者のひとりは、こうつぶやいていた。



「プリン村というより魔界村のん」


「熱にうなされている時に見る夢みたいのん」


「これを考えた人間は脳のどこかが欠損しているのん」



 さんざんな評価だったので、プリムラは泣く泣くオッサンをゴルドくんに変更した……といういきさつがある。


 寸前でプリムラを思いとどまらせたその関係者に、拍手喝采を送ろう。


 さて、ゴルドくん漬けになったゲストたちが『プリン村』を出ると、次にあるのは、なんと……!



 『ゴルドくん オフィシャルショップ』……!



 ここはゴルドくんの関連グッズのみを扱っている、特別な『スラムドッグマート』である。

 この店を目にしたとたん、ゲストたちはみな生理現象を催したかのように、ふらふらと吸い込まれてしまう。


 そして、ふたたび散財っ……!



「あっ! ゴルドくんの付け耳だ!」



「こっちには、しっぽもあるぞ!」



「おひげもあるよ! これ全部身に付けたら、ゴルドくんになれるかなぁ!」



「ふん、当たり前だろ! これ全部くださいっ!」



 店から吐き出されるゲストは、もはやゲストと呼べるものではなかった。


 いでたちが完全に『ゴルドくんフォロワー』……!


 このゴルドくんオフィシャルショップは、『スラムドッグランド』でもかなり奥まったほうにあるというのに、全ショップでナンバーワンの売り上げを叩き出していた。


 もちろんこれも、関係者は予想だにしていなかった、嬉しい誤算である。


 そんな身も心もゴルドくんになりきったゲストたちは、ついに最後のアトラクションに突入する。


 それは、島の南側……。


 かつて多くのワイルドテイルたちが収容され、実験動物となり、殺されていった……。

 リヴォルヴの屋敷の跡地に建てられたもの。


 関係者どころか、ワイルドテイルたちも真っ青になって反対した、あの(●●)問題の施設である……!


 これは、人類への警鐘……!

 この世界に、隕石級の一石を投じることとなった、宇宙からの浄化(カタルシス)……!


 その名も……!



 『勇者邪悪駆逐記念館ゆうしゃじゃあくくちくきねんかん』っ……!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 狂気を感じる話でした…Σ(゜д゜lll) プリムラさん…怖いよ [一言] ここはゴルドウルフ達がいる世界の遥か上空、そう死後に悪事を働かなかった者が逝くとされる天界。その天界5丁目にそれは…
[一言] 正面から勇者一族に宣戦布告しちゃいましたね。 いくらホーリードール姉妹の主宰でも、ゴッドスマイルは黙っているわけには行かないのでは。 防衛戦の準備はしているんでしょうか。
[気になる点] 「プリン村というより、魔界村のん」 ・・・こっちもすでに魔界村な気が・・・ なんやねん、ゴルドくんを食べてるみたいて・・・ ・・・おじさまラッシュはざまぁにつかえるのでは・・・?(乾笑…
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