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09 ラキホラ

 強奪した馬車で走り出す、ストロードール三姉妹。


 このくらいの犯罪は、彼女たちにとってはちょっと早いアフタヌーンティーのようなものでしかない。

 しかし今までは足が付かないように密やかに、そして用意周到に行なわれていたのだが……。


 ここにきて、タガが完全に外れてしまっていた。


 理由はふたつある。

 まずひとつ目の理由は、グレイスカイ島で長きに渡って極限状態に置かれてしまったせいである。


 いくつもの修羅場をくぐってきた彼女たちであっても、あの体験は未曾有であった。

 そして人は生死の境をさまようと、ある種の覚悟が生まれる。


 彼女たちも、いままでの悪事を反省し、真の聖女に生まれ変わってくれれば良かったのだが……。

 しかし、投げられた運命のコインは、


 裏目っ……!


 呪い人形三姉妹は、より強力な呪怨を得て、蘇ってしまった……!

 この混沌たる世界を、さらにかき混ぜる魔女として、解き放たれてしまった……!


 そしてふたつ目の理由としては、


 ……もう、ヤケクソ……!


 本拠地であったはずの、この『キリーランド小国』において、彼女たちはすべてを失ってしまった。


 地位も、名誉も、手下たちも……!


 きっと一等地にある屋敷も、今頃は大変なことになっているだろう。


 しかし彼女たちの損切りは早かった。

 示し合わせたわけではないのに、この国からの脱出をすでに決意していたのだ。


 この以心伝心っぷりというか、この一枚岩っぷりは、ホーリードール家にはない長所である。


 もはやこの国に未練はない。


 恐怖のマスクで怖がられようとも、下着姿で通りを走ろうとも……。

 そして何を奪い、誰を傷つけようとも……。


 国を越えれば、無罪放免……!

 すべてがリセット……!


 もちろん、普通の犯罪者ではこうはいかないのだが、彼女たちは聖女の名門ストロードール家である。

 その気になれば、行先の国で犯罪歴をもみ消すことなど造作もないことであった。


 呪いの人形たちを乗せた馬車は、大通りを我が物顔で爆走する。


 ブリギラのワイルドなライドテクニックで、露店を次々と破壊。

 ベインバックは弾け飛んだ果物をかじり、通りすがりの馬の荷物を抜き取る。


 次々と馬車内に溜まっていく戦利品を、ザマーは優雅により分ける……。


 追いすがる者たちもなんのその、道行く人たちの罵りもなんのその……!

 彼女たちには怖いものなど、なにひとつ存在しないのだから……!


 スターを得たかのような無敵状態。

 この最恐トリオを止められる者は、もはやこの世には存在しないように思われた。


 ……しかし、実をいうと……。

 これらの凶行はすべて、カラ元気に過ぎなかった。


 ホーリードール家に完全敗北したうえに、何もかも奪われてしまったのを、こうやってウサ晴らしをして忘れようとしていただけだったのだ。


 そして、彼女たちは目にする。

 ずっと苦しめられてきた仇敵を、悪夢のように思い起こさせる、忌まわしきオブジェを……!


 それは、前からやって来た。

 ゴトゴトと石畳を鳴らしながら、前のほうから進んできた、大きな荷馬車。


 それが牽引していたものは、なんと……!

 ガニマタで砂浜に埋没する、3人の少女たちを模した、彫像っ……!!


 それは明らかに、グレイスカイ島での、ストロードール三姉妹の痴態がモチーフになっているものであった。

 出ているのは下半身だけなので、誰かはわからないのだが、像の下にあるプレートには、



 長きに渡ってこの国を苦しめてきたニセ聖女、ストロードール家の末路

 二度とこの悲劇を繰り返さないために、ニセ聖女を撲滅しよう!



 名指しのうえに、屈辱的すぎるスローガンがっ……!!


 馬車の向かっている方角から察するに、港に向かうのは明白であった。

 ニセ聖女たちの頭のなかに、その光景がよぎる。


 港の広場で、ホーリードール家の像に、この国の誰もが跪き……。

 その隣に設置された、あの像に、嘲笑する姿が……!


 いくらこの国に未練が無いとはいえ、そんなノーフューチャーを看過するほど、寛大ではない……!

 少女たちは、瞬間湯沸し器のように憤怒した。



「「「グルシャァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」」」



 さすがのツーカーっぷりで、乗っている馬車から一斉に身を乗り出し、乗り移ろうとする。

 一車線分ほど距離が開いていたが、悪鬼羅刹と化した彼女たちには、何の障害にもならない。


 荷馬車が通り過ぎるタイミングを見計らって、飛び移るっ……!



「「「シャァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」」」



 しかし……。

 外れていたのは、理性だけではなかった。


 そのことを、彼女たちはいま、誰よりも痛感しているだろう。

 半裸で飛びかかる最中、ストップモーションで見てしまったのだ。


 対向車線から猛スピードで迫り来る、もう一台の馬車を……!



「「「しまっ……!?」」」



 と叫んだときにはもう遅かった。

 いくら『歩くホラー』と呼ばれた彼女たちであっても、空中で逃げることなどできはしない。



 ……グワッ……シャァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッ!!



 横薙ぎで突っ込んできた馬車に弾き飛ばされ、突風にあおられた木の葉のように舞い上がるっ……!



「ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 衝撃で、身に付けていた下着が千切れ飛ぶ。

 恐怖マスクに全裸で、クルクルと空中回転する少女たち。


 かつてこれほどまでに、嬉しくないサービスシーンがあっただろうか……!?


 『ラッキースケベ』などという、嬉しいハプニングなどでは断じてない。

 この嫌な事象を、敢えて冠するならば、


 『アンラッキーホラー』っ……!!


 その瞬間を見せつけられてしまった道行く人たちは、思わず目をそむけてしまう。

 しかしいちばんアンラッキーなのは、彼らではなかった。


 そのことを、当人たちはいま、誰よりも痛感しているだろう。

 全裸で墜落する最中、ストップモーションで見てしまったのだ。


 ありえないほどのグッド……いいや、バッドタイミングで……。

 対向車線から猛スピードで迫り来る、もう一台の馬車を……!


 その馬車が牽引していたのは、彫像ではない。

 少女たちにとっては、最大級の屈辱であったはずの像。


 しかしそんなものが霞んでしまうほどのブツが、迫ってきていたのだ……!

 それは、なんと……!

次回でストロードール家ざまぁ編の最後です!

そのあとはいよいよ、オッサンのターン!

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― 新着の感想 ―
[一言] どこまでも地に堕ちるものですね、ストロードール共は。まあ、いいでしょう。 それはそれとしてェ、オッサンが大変な目に合いそうな気がしますがァ、私は助けませんねェ!! 何せアントキ『嘘をついた…
[良い点] スーパーストローシスターーーズ!!! デッデッデレ♪ デッデッデレッデ♪ デッデッデレ♪ デッデッデレッデ♪ デッデッデレ♪ デッデッデレッデ♪(おどろおどろしい低音) ・・・狂犬や・・…
[気になる点] ちなみにラキホラってどういう意味でしょう。 ラッキーホラー?
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