表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

518/806

07 風評被害

「ぐ……グギエェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?!?」



 汚物まみれになったまま、ドスンバタンと木箱の上をのたうちまわるザマー。


 長きに渡ってこの国を、そして聖女界を苦しめていた巨悪も、ついに……!?


 しかしこれは、彼女にとっては弱点部位を破壊されただけに過ぎなかった。

 それはひと振りですべてを薙ぎ払う尻尾のようなものだったので、失ったのは大きな痛手ではあったものの……。


 しかし、まだ、まだ残っていたのだ……!

 彼女には、最後の奥の手が……!



 ……ごばあっ……!



 人間とは思えぬ動きで身体を翻し、トカゲのような体勢で、聖女たちを睨み降ろすと、



「グルシャァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」



 倒したと思ったラスボスが第二段階になって復活したかのような、いななきを轟かせていた。

 見開いた眼球は危険色でビカビカと明滅し、裂けた口の端からは毒ガスが漏れているかのような息が、プシュープシューと漏れている。



「そんなことを抜かすのは……どこのどいつでチュかぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?!?」



 豪雷のような一喝。

 聖女たちはいままで懸命にこらえ、一歩も引かなかったのだが、ついに後ずさってしまった。



「撒いてやるっ……!! バラまいてやるでチュッ!! テメェらの恥ずかしい真写(しんしゃ)が、こっちにはタップリあるでチュ……!! それがバラまかれたら最後、勇者にはもう二度と相手にしてもらえなくなるでチュッ!! テメェらの聖女人生は、終わりなんでチュゥゥゥゥーーーーッ!!!!」



 それはザマー的には、スカンクのオナラばりのとっておきの一撃であった。


 なぜならば、この世界の聖女はすべて、勇者に仕えることを夢見ている。

 勇者に愛想を尽かさてしまっては、そもそも存在意義すらもないとされているからだ。


 聖女たちは一念発起したいじめられっ子のように、気丈に振る舞っていたが……。

 この切り札には、さすがに全面降伏するはず……!


 しかし、ラスボスは知らなかった。

 歴史はすでに動いているというのに、ひとりだけ、過去に囚われていたのだ。


 目の前にいる少女たちは、マザーという本当の聖女に出会ったことで、ニセ聖女を脱却し……。

 真の聖女というものに目覚め、サナギのように脱皮……!


 すでに心は蝶のように羽ばたいており、さらなる高みから、マザーを見下ろしていたのだ……!


 少女たちの瞳には、もはや迷いはなかった。



「構いません。どうぞ、お好きなようになさってください!」



「にゃっ!? にゃんでチュとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



「マザーがおっしゃっていました。真の聖女というのは、みんなのママであると……!」



 聖女たちはその時のことを思い出すように、瞳を閉じ、胸に手を当てて続ける。



「だからみんなに平等に、愛を分け与えるべきであると。しかし特別な愛だけは、いつも心のなかに持っていなさいとおっしゃっておりました。しかしその特別な愛を捧げる相手は、『勇者』ではないと。真の聖女が、真の愛を捧げる相手は……」



「ハンッ! どうせ、『ゴッドスマイル様』って言うんでチュ! 強欲なあのメスブタの言いそうなことでチュ! あのメスブタはそうやって希望を持たせておきながら、自分ひとりでいい思いをするつもりなんでチュっ!!」



 しかし次に聖女たちの口から紡ぎ出されたのは、世界最高の勇者の名ではなかった。

 それは……。



「『ゴルちゃん』……!」



 かつては世界の最底辺にいた、野良犬っ……!?



「ご……ごるちゃん?」



 思いもよらぬ新キャラの登場に、思わず虚を突かれてしまうザマー。



「はい。マザーは、『聖女のすべての愛は、ゴルちゃんに通じる』とおっしゃっておりました。ゴルちゃん様というのがどんなお方なのかまだわかりませんが、マザーがおっしゃっている以上、きっと素晴らしい殿方に違いありません」



 オッサン、まさか異国の地で、風評被害……!?



「私たちはマザーの元で、真の聖女を目指します。これからは勇者様のためではなく、ゴルちゃん様のために生きると決めました」



「私たちがこの港を訪れたのは、マザーのいるグレイスカイ島に向かい、島の復興をお手伝いするところだったのです。そのついでではありましたが、こうやって最後のご挨拶ができてよかったです」



「それでは、長い間、お世話になりました。……ごきげんよう、ザマー」



 ポカンとしているザマーをよそに、さざ波のようにしずしずと去っていく、白きローブの集団。

 観衆もしばらく我を忘れて見守っていたが、誰かがふと思い出したように石を投げた。



 ……ガツン! ゴツン! ガンッ!



 ノーガードだった三姉妹の頭に石がぶつかり、額から血が出る。

 マスクの目の穴からそれが垂れ落ちていたので、彼女たちの呪いの人形っぷりが一気に再加熱した。



「うげえっ!? 気持ち悪いっ!?」



「やっぱり悪魔よ! 本当に悪魔だったんだわ!」



「しかも見た目だけじゃない! 幼気な聖女たちを脅して言いなりにしていただなんて、心まで悪魔としか思えない!」



「悪魔を殺せっ! 悪魔を焼き殺せーーーっ!!」



 ついに松明までもが投げ込まれ、三姉妹の立っていた木箱が燃え上がった。

 燃え上がる炎に包まれ、火だるまになったかのように暴れまわる。



「「「ぎゃああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」」」



 その様はまさに、火あぶりに処される魔女……!

 決して濡れ衣などではない、真の魔女さながらであった……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 天才ですか? [一言] ざまあー回いつも楽しみにしてるのですが、今回のザマー回素晴らしいです。
[一言] マザーがさらっと聖女達を洗脳しとる(笑)ゴルちゃん教が発足しそうな予感(笑)
[一言] 生きているかな? 彼女もゾンビになってたりして。 オバンバ三姉妹の出来上がりですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ