185 男たちの末路
リヴォルヴの発動した『ゴーコン』は、勇者の歴史上、初めての結末で幕を閉じた。
なんと……!
勇者、敗北……!
さらに……!
4000名もの者たちを駆り出しておきながら、たった400名の野良犬軍に、甚大なる被害を与えられて……!
しかも……!
野良犬軍は死傷者をひとりも出していないという、パーフェクト・ゲームで……!
そして通常であれば、勇者にケンカを売った者は誰であれ、必ず悲惨な末路を辿る。
本来であるならば、世界中の勇者がグレイスカイ島に押し寄せ、弔い合戦を始めているところなのだが……。
今回はふたつの理由により、そうはならなかった。
まずひとつ目は、物理的な問題。
勇者たちが、いくらグレイスカイ島に向かおうと船を出そうとも、沖合からなぜか進むことができないのだ。
これでは、島に上陸して真偽のほどを確かめる術もない。
そしてふたつ目は、『ゴーコン』の発動理由。
今回は、アーミー・オブ・ワンが勇者組織の裏切り者として挙げられ、その不正を正すための戦いであった。
しかし蓋を開けてみれば、なんの証拠も挙がらなかった。
というか、ゴーコンに参加した勇者たちは、シンイトムラウの草ひとつ刈れずに敗戦していたので、なんの証拠も挙げられずに終わっていた。
いくら嫌疑があっても証拠がなければただの濡れ衣。
しかもその相手が同じ勇者であったので、勇者組織にとっても痛くもない腹を探られただけの結果となってしまった。
リヴォルヴに向けられた上層部の怒りは、計り知れなかったことだろう。
いつもは勇者こそが大正義であった『ゴーコン』も、今回ばかりは例外。
世論的には、ハールバリー小国の姫であるバジリスと、マザー・リインカーネーションがリヴォルヴの暴走を食い止めたということになっていた。
『エヴァンタイユ諸国』におけるハールバリー小国の立場と、聖女界におけるリインカーネーションの立場は、うなぎのぼり……。
いいや、滝を登りきった鯉が龍になったかのような、ドラゴンのぼりであった……!
そのあたりの話は、ひとまず脇に置いておいて……。
両雄とされるバジリスとリインカーネーションは、グレイスカイ島において戦後処理にあたっていた。
それも実際には、オッサンが影で暗躍していたのだが……。
まず、勇者の大本営発表で、今回のゴーコンに参加した勇者たちすべてに、堕天が通告された。
ゴーコンに参加したのは総勢4000名ほどであるが、うち600名はエヴァンタイユ諸国の兵士たちである。
ということは3400名の勇者が、一気に堕天処分となってしまったのだ。
--------------------
名もなき戦勇者 170名 ⇒ 3375名
名もなき創勇者 61名 ⇒ 62名
名もなき調勇者 113名 ⇒ 316名
名もなき導勇者 167名 ⇒ 170名
--------------------
これほどまでの大規模な堕天処分は、『新勇者体系』において初めてのことである。
勇者という名の砂山が、大きく削り取られた、ひとつの歴史的瞬間であった。
堕天した勇者のうち、生存していたのはビーチに埋められた400名もの勇者たち。
彼らは100名ずつに分けられ、船でエヴァンタイユ諸国に強制送還された。
各国では、勇者組織の人間が受け入れ体制という名の処刑体制を整えて待っていたのだが……。
なんと沖合にて、4隻とも船が沈没っ……!
堕天した勇者たちは全員、泳いで逃げ出してしまったのだ……!
事態を重く見た勇者上層部は、異例の通達を発令する。
それは……。
『落ち勇者狩り』っ……!
400名ものはぐれ勇者たちを、勇者だけの力で狩るのは大変なので、賞金首としたのだ。
そして始まる、狩りの時間っ……!
その賞金がまた高額だったので、冒険者たちが次々と『勇者ハンター』を開業する。
それどころか商人や農民までもが、ソロバンや鎌を片手に、山狩り開始っ……!
「……いたぞ! 落ち勇者だっ! 矢を撃ち込め!」
「ひっ……ひぎいいっ!? うぎゃああぁぁぁぁぁーーーーっ!」
「よし、足をやったぞ!」
「ひっ……! ひぎっ! ひぎいいいいーーーーーーーーーーーっ!!」
「くそっ、這って逃げようとしてる! 逃がすな! 囲め! 投げ縄を使うんだ!」
「ぎゃひいっ!? いぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」
「やった! 捕まえたぞ!」
「こいつ、まるで獣みてぇだ! 言葉も忘れちまったのか!?」
「そりゃそうだろう、このボロボロの身体、今までさんざん追われてきたんだろう。頭のネジもぶっ飛んじまうってもんさ」
「コイツもとうとう年貢の納め時ってわけだ、コイツを突き出せば、しばらくは遊んで……」
「いや、待て。それよりも、もっと金になる話があるんだ」
「なんだそれ?」
「いま新聞じゃあ、『落ち勇者狩り』の話題で持ちきりだろう? 一匹でも狩られりゃあ、一面トップ扱いよ」
「そりゃそうだろう。だってコイツは、ゴッドスマイル様のお顔に泥を塗ったも同然なんだからな」
「だからよ、コイツを拷問にかけているところを真写に撮って、新聞社に持ち込んだら……どうなると思う?」
「あっ、なるほどぉ! 高く買ってくれるってわけか!」
「そういうことだ、コイツが生き地獄を味わっている間は、俺たちはずっと天国ってわけよ!」
「そりゃあいい! さっそくコイツを拷問にかけようぜ!」
「さぁこい! たっぷり稼がせてもらうから、覚悟しろよ!」
「ひぎぎぎぎぎぎっ!? ひぎいいいいーーーーーーーーーーーっ!?!?」
各新聞紙面には連日、残虐シーンが掲載された。
それはだんだん過激さを増していき、目も覆いたくなるほどであったが……。
勇者に仇なした者が懲らしめられる様は痛快であると、部数は倍増した。
捕まった『落ち勇者』は、五体満足のまま突き出されることはなくなる。
さんざん責苦を味わわされ、顔も歪むほどの叫び顔を真写に撮られ、晒し者にされたあと……。
最後に首に縄をかけられたまま、街じゅうを引きずり回された。
しかしその時にはもう、石をぶつけられても無反応なほどの、干からびたミイラのようになっていたという。
……さて、もうお気づきの方もおられるかもしれないが……。
『落ち勇者』となった400名は、『微罪』に処されていた。
それは、ビーチに埋められて顔をズタズタにされるだけではないというのは、前述のとおりである。
そう……!
彼らが邪教徒と称し、さんざん狩ってきた、無辜の者たち……!
彼らが遊び半分で拷問にかけ、嘲笑とともに生命を奪ってきた者たち……!
それと、同じ目に……!
いいや、それ以上のウルトラバイオレンスを彼らの身体に、骨の髄まで、叩き込む……!
それこそが今回の『微罪』の、プラスアルファであったのだ……!!





