179 アングリー勇者(ざまぁ回)
この世のすべてを見通せるほどの巨大望遠鏡ごしに、リヴォルヴが目にしていたのは……。
この世のどこにもありえないような、信じられない光景であった……!
神の住まう山の頂上付近には、ひとつの巨木が天を衝くように生えている。
これは現地のワイルドテイルたちから『御神木』と呼ばれているほどに神聖なる木とされているのだが……。
その根元のあたりに、ひとつのおおきな人影と、ふたつの小さな人影があった。
おおきな人影は、御神木の枝の端っこを引っ張って、ぐいんとしならせている。
そこに、ふたつの小さな人影が、石化した勇者をえっちらおっちらと運んできて、大きな人影に渡した。
大きな人影は、引き絞っていた枝の樹冠に、受け取った勇者を乗せた。
そしておもむろに、大きな人影が手を離した途端、
……びよよよよ~~~~~~~んっ!!
と、いう音が聞こえてきそうなくらいの勢いで枝は戻る。
直後、残像を残すほどの勢いで撃ち出されたのは、
「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
これ以上ないほどの絶望と恐怖を、表情と悲鳴に乗せながら、迫り来る……!
|勇 ・ 者 ・ 爆 ・ 弾 《ダーティ・ボム》っ ……!!
それは、すでに爆撃を受け続け、ベコベコにひしゃげてしまった要塞の正門に着弾。
魔導列車が突っ込んでも跳ね返せるほどの頑強さをほこっていたその鉄の壁が、
……ドグワッ……シャァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーンンッ!!
爆音とともに外れ、倒れ込み……!
「うわああっ!? に、逃げろ、逃げろっ!?」
「つぶされる!? つぶされるぅっ!?」
「ぎゃああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
その下にいた、幾多の神尖組隊員たちを巻き込んだっ……!
……ドバッ……シャァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーンンッ!!
アリの群れが踏み潰されるような音のあと、いくつもの水風船が破れてしまったかのような鮮血が、正面通路を波が押し寄せたように濡らす。
その発射の一部始終に、そしてその凄まじい威力に、リヴォルヴは絶句していた。
――ナっ……ナんじゃ、ありゃぁぁ……。
き……木の枝で、飛ばしてきてただナんて……!
大昔の投石器の原形みてぇナ、あんな原始的すぎる方法で……!
ナんで……ナんでここまで飛んでくるんだよっ……!?
俺と創勇者たちが開発した、最新鋭の攻城兵器でも、あんなには飛ばねぇってのに……!?
ナんで……ナんでだよぉっ!?
それに……照準器もナシで……!
ナんでこんなに、正確に撃ち込めるんだよっ!?
リヴォルヴは目をこすり洗うように何度もジャケットの袖でぬぐった。
普段はぜったいやらない、ほっぺたもつねってみた。
しかし、悪夢は終わらない……!
永遠のように、続くっ……!
レンズの向こうでは、小さな影がぴょんぴょん跳ねていた。
「ねぇ我が君! プルもやりたーいっ!」
「これプル、これは遊びではないのですよ」
「もう、ルクったらそればっかり! ねぇ我が君、少しくらいならいいでしょ!? おねがーいっ!」
「わかりました。でも、1発だけですよ」
「やったーっ!」
ゴルドウルフに抱っこされ、まるで夜店の射的にでも挑戦するかのようにはしゃぐプル。
悪魔の投石器を小さなお手々で引っ張って、狙いを定めた先は……?
……びよよよよ~~~~~~~んっ!!
「ひぎぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
絶叫は大きくフックしてしまう。
弾頭は、自分の着弾点を察した途端、全身全霊を込めた拒絶の雄叫びをあげた。
「や……やだやだやだっ!! そこはやだっ!! やめてやめてやめてやめてやめて!! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
彼が散りゆく先は、果たしてっ……!?
……ドガスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッツ!!
その瞬間に、砂被りするほどの間近にいたのは……。
いまシンイトムラウの麓にいる、『野良犬バスターズバスターズ』とは別の方角へ作戦展開していた、『わんわんクルセイダーズ』……。
クーララカ率いる一団は、ちょうどそこにいたのだ。
この島のシンボルとなっていた、神聖なるその広場に。
神聖さの象徴に、見事突き刺さった勇者を目撃していた。
そう……!
いたずらっ子の放った弾丸は、この島いちばんのアンタッチャブル……!
ゴッドスマイル像を、撃ち抜いていたのだ……!
ちなみにではあるが、像が掲げる剣には、いまだスキュラたちが刺さっていたのだが、すでに像と一体化するように石化していた。
巨像はぐらりと揺らいだあと、切り倒された巨木のように、
……ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーンッ!!
地に伏し、粉砕されてしまった。
その様子を、偶然にもとある記者が伝映装置で捉えていたものだから、さぁ大変。
エヴァンタイユ諸国にアップで映し出されていた『神尖の広場』の惨状に、世界が震撼した。
「ひっ……ひえええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
なにせ、この世界を司る人物が、神にも等しき人物が……。
たとえ像とはいえ倒れ、地に伏してしまったのだ……!
それどころか、無断で触っただけでも罰せられるような、神聖なる尊像だというのに……。
首だけ残して、バラバラにっ……!?
それが起こったのが、もし国であるならば、問答無用で焦土となっていただろう……!
震えあがる世界をよそに、張本人であるはずの、いたずらっ子は……。
「やったーっ! ストライクっ!」
射的の豪華賞品をゲットしたかのように、諸手をあげて飛び回っていた。