178 飛んでくるの巻(ざまぁ回)
3600名もの人間が、一瞬にして石化するという奇跡体験に包まれた神の住まう山。
それだけですらもはや世紀末だというのに、さらに信じられないことが立て続けに起こったのだ。
その出来事に、敢えてタイトルを付けるとするならば……。
『勇者、飛んでくるの巻』……!
そう……!
石化した名もなき勇者が、不思議な力で撃ち出され……。
リヴォルヴに向かって、灰色の牙を剥いたのだ……!
「……うがあああっ!?」
曲がり角の出会い頭のキッスさながらに、迫り来る灰色の唇を、リヴォルヴは死に物狂いでかわす。
勇者の石像は書斎の窓ガラスをブチ破り、書斎の扉も破壊、廊下から向かいにある客間に飛び込んでいった。
「ナ……ナんだ、ありゃぁ……!?」
テラスに這いつくばりながら、三度目となる台詞を口にするリヴォルヴ。
しかし、そうとしか言いようのない物体であった。
そして、ひと息つく間もなく、そうとしか言いようのない物体は、
……カッ……!!
閃光を放った。
……ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
部屋の奥から血しぶきとともに爆炎が吹き出し、書斎に戻ってくる。
「うっ……!? うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
リヴォルヴはとっさにテラスから身投げしたが、爆風に煽られ宙を舞う。
落ちたのが中庭の花壇で、下が柔らかい土だったのが僥倖だった。
「ナんだ、ありゃあ……!? ナんナんだ!? ありゃあっ!?」
勇者が石化するというだけでも異例の事態だというのに、それが山から飛んできた上に、爆発するとは……!
その出来事に、敢えてタイトルを付けるとするならば……。
『勇者、人間爆弾になるの巻』……!
それも、ひとり……いや、ひとつだけではなかった……!
空を仰いだリヴォルヴは、夢魔に取り憑かれたような光景を、目にしていた。
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「ぶるぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
勇者爆弾たちが、血に染まった夕焼け空を、さらに悲鳴で染め上げながら、次々と飛来……!
たったの1発ですら、核爆級の威力であったソレが、次々と……!
リヴォルヴのいる本丸に、突き刺さっていたのだ……!
2発目は屋根に、3発目は玄関扉に、4発目は庭のプールに着弾する。
それだけで屋根には大穴が開き、玄関は扉ごと粉々になり、プールには高波があがった。
もはや頭を抱えたくなるほどの大被害。
この屋敷がこれほどまでに、他者の手によって好き勝手に蹂躙されたのは、初めてのことであった。
……いや、かつて一度だけあった。
プールに神尖組の死体が浮いたとき……。
その時は物理的な被害こそなかったものの、難攻不落の要塞に陰がさした瞬間であった。
リヴォルヴの脳裏に、嫌な思い出が蘇る。
そして見やったプールに、ハッとなっていた。
勇者の石像が、あの時のように、そこにいたのだ。
肌の色こそ違えど、頭を下にして、水面から露出した脚を、ガニマタに開いて……。
悪魔のタタリのように、プールに突き刺さっていたのだ……!
「ま、まさか……! あの時も、ヤツはこうやって……!!」
そう……!
『犬神事件』の犯人は、死体を屋敷のプールに運び込んだわけではなかった……!
こうやって……!
山からプールに投げ込んでいたのだ……!!
リヴォルヴに、ついに真相が与えられた。
そして、爆炎も……!
……ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
……バゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
……ズバシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
「ぐうっ!? うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
重厚な両開きの玄関扉が紙クズのように舞い、ガラス片とともに襲い来る。
屋根が雪崩を打って降り注ぎ、プールから高くあがった水しぶきが、血の雨となって頬を打つ。
たった4発の勇者爆弾で、天守閣は火の海……!
それどころか要塞に次々と撃ち込まれ、そこらじゅうで兵士たちが逃げまわり、爆散していた。
ズーン! ズズーン!! と地響きがおこり、足元ビリビリと震える。
難攻不落だと思っていた要塞は、もはや紙の砦。
もはや、地獄絵図……!
「ぐっ……! うぐうううっ! ひいいいいいっ!!」
リヴォルヴは爆撃中を、転けつまろびつしながら逃げ惑っていた。
途中、石造りの小さな建物の中に逃げ込む。
そこは大型望遠鏡のある、偵察室だった。
エヴァンタイユ諸国まで見通せるほどの高倍率の望遠鏡が設置されており、有事の際はここから本土の様子を伺う。
リヴォルヴは一時的な避難のためにここに逃げ込んだのだが、とっさに思いつき、装置に取りついた。
砲筒のような望遠鏡を回転させ、シンイトムラウのほうに向ける。
これは砲台ではないので攻撃能力はない。
だが、知りたかったのだ。
この要塞とシンイトムラウは、攻城兵器でも届かないほどに距離が離れているというのに、いったい何をして、ここまで勇者爆弾を届かせているのかを。
望遠鏡の倍率をあげて、山の頂上を捉える。
そして目に飛び込んできた光景に、またしても……!
「ナっ……ナんじゃ、ありゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?!?」