表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

474/806

156 ついに決着

 野良犬軍団最大のピンチを救ったのは、神速で突っ込んできた船たちであった。


 まず、建造を終えたばかりの『スラムドッグマート』の商船。

 それが神の拳のごとく、屋敷を破壊しつつビーチに乗り上げた。


 中には、『スラムドッグスクール』の聖女の卵たちが50名。

 いずれも、マザーの胸に抱かれ温められ続けてきた、青い鳥たちである。


 その癒やしの力は、ザマーの虎の子である聖女軍団すらも、凌駕するっ……!


 そして立て続けに到来したのは、5隻の高級クルーザー。

 それが彗星の如く、ほうき星のような航跡波を逆立てながら次々と着弾。


 中には、『大魔導女学園』の生徒たちが10名ずつで、こちらもあわせて50名。

 いまや同学園の副学長を務めているミグレアが、厳選した優等生たちである。


 その火力は、超高校生級……!

 多くの勇者から引く手数多な人材であったが、彼女たちは決して勇者にはなびなかった。


 この瞬間のためであるといわんばかりに、大魔法をビーチの勇者たちめがけて、叩き込んだのだ……!


 同格の勇者と魔導師の場合、魔導師のほうが火力は高い。

 そのぶん魔導師は脆弱であるし、剣撃と違って魔法は詠唱を必要とする。


 しかし、ビーチに倒れていた野良犬たちが、彼女たちを援護したのだ。

 彼らはクーララカの合図のもと、食らいつくように勇者の足にしがみつくと、



「我らが押さえているから、撃てっ! 撃つのだ! 我らごと貫くつもりで、やれーーーーーっ!!」



 そして雨あられのごとく降り注ぐ光弾。

 神尖組(しんせんぐみ)の制服には対魔法防御の練成が施されているものの、いくら防弾チョッキとはいえ限界はある。


 蜂の巣を突いたようにまとわりつくマジック・アローの群れに、彼らの装備はやがて引き裂かれ……!

 焼け出されたように、ズタボロにっ……!



「ぎゃあああああーーーーーーーっ!?」「うぎゃあああああーーーーーーーーっ!?」「いでぇ、いでぇよぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?」



 ビーチは勇者たちの処刑場と化したのだ……!


 奇跡の奇襲は大成功を収めたうえに、勇者軍と野良犬連合軍の兵数の差も埋まってしまった。

 となると、もはや結果は言うまでもないだろう。


 グレイスカイ島のとあるビーチで起こった局地戦は、両軍の立場が二転三転する大激戦となった。

 しかし、その地に最後に立っていたのは……。


 野良犬たちであった……!


 倒れ伏したのは、300名もの勇者たち。

 絨毯爆撃が通り過ぎた後のように、パンツ一枚の全身は見るも無惨な有様になっていた。


 「うう……」「いでぇ……いでぇよぉ……」「死ぬ、死ぬぅぅ……」などと呻きながら、瀕死の身体を蠢かせている。


 かたや野良犬たちは疲労困憊ではあったものの、負傷者はゼロであった。

 なにせマザーたちにかわって、50名もの聖女たちが癒やし続けてくれたのだから。


 彼らは誰もが肩で息をしながら、あたりを見回していた。

 ある人物を、探していたのだ。


 それは……。

 自らを犠牲にして、小さな生命(いのち)を救った、偉大なる聖女たち。


 彼女たちはビーチの隅のほうで縮こまって、泣いていた。


 長女、次女、三女が、お互いの身体を寄せ合い……。

 中央にいるワイルドテイルの幼子を、抱きしめていたのだ。


 瞳から、ダイヤモンドのような涙を、惜しげもなく流しながら……。



「ああっ! ああっ! あああっ! よかった! よかったわぁ! マイランちゃんが無事で、ほんとうに良かったぁ!」



「ああっ……! お怪我はありませんか!? 痛いところはありませんか!? ああっ……! ご無事で何より、何よりでした……!」



「うわああああんっ! マイたんよかった! マイたんよかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」



 彼女たちは小さな命が守られたことを、心の底から喜んでいた。

 しかしマイランは……。



「ご、ごめんよぅ。ごめんよう……! おいらのせいで、聖女様たちの綺麗なお顔に、傷が……!」



 すると彼女たちは、とんでもないといわんばかりに目を剥いた。



「なにを言っているの!? マイランちゃんのためなら、ママたちの顔の傷くらい、なんでもないわ!」



「そうです! 命は何ものにも変えられません! 命にくらべたら、顔なんてどうだってよいのです! おじさまもおっしゃっておりました! すべては命あってこそ、と……!」



「うわああああんっ! マイたんよかった! マイたんよかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」



 ひっしと抱き合って、わぁわぁと大泣きする聖女たちに、マイランもついに決壊。



「うわああっ! おいらたち、おいらたち……! いままでずっと勇者様や聖女様たちから、生きてる価値のないゴミだって言われて続けてきたのに……! 無事でよかったなんて言われたの……初めてだよっ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」



 その美しい光景に、誰もが思う。


 戦って、よかった、と……!

 勇気を振り絞って、勇者に抗ってよかった、と……!


 マイランの命が……いいや、多くのワイルドテイルたちの命が守られたのは……。

 勇者の暴虐に、立ち向かったからだ、と……!


 誰もがそう実感していた。

 そして、ホーリードール家の愛の深さというものを、改めて実感する。


 その感情にさらに拍車を掛けていたのは、とあるオブジェ。


 ホーリードール家が大輪の花のように抱き合い、満開の花のよう嬉し泣きをしている、少し離れた場所に……それはあった。



「ヂュッ!? ヂュウッ!? ヂュウウッ!? 早くザマを助けるでヂュッ!? ブリちゃんにベインちゃん!? なにをしているでヂュッ!? ザマを引っ張り上げるでヂュゥゥゥゥーーーッ!!」



「引っ張らないでください、ザマーっ! 苦しいのでございます! でもピンチをチャンスに変えるのがストロードール家の女……! ザマー! お覚悟を! このままザマーが埋没死すれば、ストロードール家のザマーの座はワタシのものになるのでございます!」



「いいから2匹とも、さっさと死ぬでしゅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」



 ゴルドくんの一撃で空中に吹っ飛ばされてしまったストロードール家の聖女たちは、空中で揉み合いになり、誰を下敷きにするかで揉めあった。


 しかし例によって、3人仲良く頭から砂浜にダイブ。


 最初は首までしか埋まっていなかったのだが、自分だけが助かろうとまた争いを始め、とうとう3人とも脚だけ残して深く埋没してしまったのだ。


 嬉しくないパンモロ、再びっ……!


 地中から、ウギャアウギャアとくぐもった絶叫を響かせながら、6本もの脚が触手のようにのたうつ様は、魔界に咲く食虫植物のような醜さであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ