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145 出陣、そして

 この島を訪れていたセレブや権力者たちは、ゴーコンが発動されてからは、主に以下の3つの命運に分けられていた。


 まずは上級。王族や大富豪などの、国を動かせる力を持った者たち。

 彼らはいま、リヴォルヴの野良犬バスターズに参加している。


 そして下級。町長や村長、小金持ちといわれる者たち。

 彼らは野良セレブや奴隷となってしまったが、いまは野良犬クルセイダーズに参加している。


 あとは、順序は前後してしまったが、中級……。

 領主や富豪などの、領地を動かせる力を持った者たち。


 彼らは兵力こそ持ち合わせていないのでリヴォルヴからはハブられていたが、奴隷にされることもなかった。

 そんな彼らこそが、今回運命の選択を迫られた者たち。


 ザマーについて、勇者の援護をするか……。

 それともバジリスについて、勇者に反旗を翻すのか……。


 それは彼らにとって、まさに生と死に直結する選択であった。

 しかし彼らは引き当てたのだ。


 閻魔大王もニッコリの、当たりクジを……!


 ホテルのロビーに集まっていた権力者たちの賛同を、ひとつ残らずかき集めたバジリス。

 彼女は「うむ」と満足そうに頷くと、もはやザマーには目もくれずに高唱する。



「たった今より、血の交換は為(な)された! 我らは今より『野良犬バスターズバスターズ』! 地位も名誉もプライドも捨てた、勇者に喰らいつく野良犬となったのだっ! それでは出撃とまいるぞっ! 目指すはマザー・リインカーネーション! 真の大聖女の元へ!」



「ウオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーッ!!」



 立ち上がり、拳を高らかに掲げる賛同者たち。

 バーニング・ラヴは「うぇーいっ!」と諸手を挙げ、ブリザード・ラヴは「ふーん、いいじゃん」と小さくガッツポーズ。


 盛り上がる輪の外で置き去りにされていたのは、なおもピアノ演奏台の上に立っているザマーとベインバック。

 そして聖女軍団を引きつれやってきた、ブリギラであった。


 白いローブの集団は、呆然と立ち尽くしている。

 そんな彼女たちに一瞥すら向けず、揃った足並みでホテルをあとにする『野良犬バスターズバスターズ』。



「ア……アラアラ、みんな元気でチュねぇ~! でも、真の聖女ならここにいるでチュよぉ~!」



「そうですね。今までのことを悔い改めて、収入の5……いや、80パーセントを寄付するのであれば、一緒に行ってさしあげても……」



「みんな、いっちゃ嫌でしゅ! いっちゃったら、キライキライになっちゃうでしゅ!」



 ストロードール家の聖女たちは、それぞれの持ち味を活かして追いすがったのだが……。


 ガン無視っ……!


 彼女たちはどこに行ってもチヤホヤされるのが当たり前だったので、あっさり取り乱してしまう。



「あっ……アラアラっ!? この女神の生まれ変わりとされた聖女の名門、ストロードール家の言葉といえば、神託同然……! それを無視するだなんて、どうなってしも知りませんでチュよぉ!? 今だったら許してあげまチュから、ザマの所に戻ってきて、跪くんでチュ!」



「お姉様の言うとおりでございます! それに今から1分間、寄付を80パーセントから5……いや、30パーセントまで値引きするでございます!」



「いいんでしゅか? ベインたんは、本当に嫌いになっちゃうでしゅよ!」



 しかしそれでも、ガン無視っ……!

 そしてついに、キレてしまった……!



「アラアラっ!? 覚えておくんでチュよぉ! ザマに逆らった者がどうなるか、たっぷりと思い知らせてやるでチュ! アナタたちの弱みを写した真写がこっちにはたっぷりあるんでチュ! それを新聞社にバラ撒いてやるんでチュ!」



「そのまま行ったら、死んでしまうのでございます! 邪神に取り憑かれ、生皮を剥がされながら生血を抜かれ、骨や肉はすり潰され、魂までもをくっさい液に浸けられて、死してなお永遠に苦しむのでございます! それを今なら20パーセント! いや10パーセントの寄付で救ってさしあげるのでございます!」



「うわああああん! みんながいなくなっちゃったら、怖いでしゅぅぅぅぅーーーっ!」



 その想いがついに通じたのか、去りゆく軍団の先頭にいた少女が足を止める。

 そして、背を向けたまま、こう言ったのだ。



「そういえば……そなたらは先ほど、勇者を幇助(ほうじょ)しにまいると申しておったな。よく考えたら、我々の敵ではないか……」



 凄みをきかせて振り返るバジリス。



「ならば今ここで、そなたらの生皮を剥いで生血を抜き、骨や肉はすり潰し、魂までもをくっさい液に浸ければ……。兵士の士気高揚ができ、勇者への援軍も潰せて……。まさに、一石二鳥ではないか……!」



「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」



 鬼婆を3匹同時に絞め殺したような絶叫が、フロアじゅうに轟く。

 しかしバジリスが振り返り終えた頃には、悲鳴の主の姿はなかった。


 残された聖女軍団たちだけが、抱き合って震えているばかり。

 今にも泣きそうな彼女たちに向かって、バジリスは言った。



「安心せい。我らの敵は勇者のみで、罪なき者には手をかけぬ。ただ……その勇者を幇助するというのであれば、容赦はせぬぞ……! このことを、そなたらを置いて真っ先に逃げ出した、薄情な飼い主にも伝えおくがいい……!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ホテルをあとにした新生『野良犬バスターバスターズ』は、廃墟と化した大通りを進んでいた。


 新たな軍勢が、この島に生まれ出でた瞬間である。

 ではここで、現状の戦況のほうを見てみよう。


 勇者軍 野良犬バスターズ 本隊 …… 3600名

  彼らは今、シンイトムラウの周囲を包囲しつつある。


 勇者軍 野良犬バスターズ 分隊 …… 300名

  彼らは街中に戦線を展開、聖女たちにおびき寄せられ、いまはビーチで交戦中。

  当初は400名だったが、100名が倒された。


 野良犬軍 わんわんクルセイダーズ …… 100名

  現在、ビーチで交戦中。


 野良犬軍 わんわん騎士団 …… 5名

  現在、独自での作戦行動中。


 わんわんクルセイダーズはホーリードール家の援護により、いまだ死傷者ゼロという状況を保っていた。

 しかし勢力としては、いまだに野良犬バスターズのほうが優勢。


 数も戦闘力も、野良犬バスターズのほうが遙かに上。

 さんざん醜態を晒した勇者たちであったが、いよいよ気を引き締めてきた。


 そうなるともはや付け焼き刃の集団である、わんわんクルセイダーズでは太刀打ちできない。

 常時、空から『癒し』が降り注いでいるので、負傷してもすぐに復帰できるが、倒すこともできずにいた。


 彼らには、決定的なものが欠けていたのだ。

 それは、『決定打』……!


 いくらスラムドッグマート製の棍棒は優秀だったが、殴打というのは致命傷を与えにくい。

 ひとりを囲んでタコ殴りにできればよいのだが、数の差がありすぎてそれもできない。


 彼らは数の力でちりぢりにさせられ、個別撃破されようとしていたのだ。


 しかしそれも、彼女たちの参戦によって、終りを告げる。

 それはやはり、高みから降り注いだ。



「……紅蓮に眠る烈火の豪霊よ、爆炎を打ち鳴らし者よ、我の一臂(いっぴ)に…………!」



 それは炎竜が火炎を吐く直前のような、獰猛なる唸りであった。

 声の主は、ビーチの屋敷の屋根の上に姿を表した少女。


 彼女は熾(おこ)った鉄のように、こうこうとした輝きをまとっている。


 壮大なる詠唱に、あたりの空気を揺らがせるほどのオーラ。

 まぎれもない、大魔法発動の瞬間であった。



「…………爆炎打法よ、あやつらを打てっ! バーニング・バラージ・ドラムソロっ!!」



 少女が赤熱した手をかざした直後、独演(ドラムソロ)のような、独壇場ともいえる轟音が放たれる。



 ……ドバババババババババババババババババッ!!



 マシンガンのごとき火球の弾幕が、下々の者たちに降り注ぐ。



「ぎゃああ!?」「ぐわっ!?」「ひいいっ!?」「なんだあっ!?」



 小規模な爆発がビーチのあちこちで起こり、開花するように吹っ飛ばされる勇者たち。


 赤き衣の少女の隣には、青き衣の少女。

 彼女もまた、ささやきを降らせる。



「……蒼青に眠る絶対の零霊よ、閃氷を奏でし者よ、我の一臂(いっぴ)に…………」



 それは氷竜が吹雪を吐く直前のような、静かなる唸りであった。


 彼女は永久凍土に眠る氷柱のように、透き通った輝きをまとっている。


 静謐なる詠唱に、あたりの気温を下げるほどのオーラ。


 赤き衣の少女と比肩するほどの、大魔法発動の瞬間であった。



「…………氷結奏法よ、あやつらを貫けっ! ブリザード・ブリッツ・ペンタトニックっ!!」



 少女が指をつまびかせるたび、独演(ギターソロ)のような、すべての者の耳目を奪う硬音が放たれる。



 ……キイン! キイン! キイン! キイン! キィィィィィーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 レーザーのような青い光の筋が次々と撃ち放たれ、矢のように敵を貫いていく。



「はっ!?」「うっ!?」「ぎっ!?」「あっ!?」



 赤き少女の魔法の派手な吹っ飛びと違い、遠距離から狙撃されたように、崩れ落ちる勇者たち。


 なんとビッグバン・ラヴ……!

 たった2発の魔法で、30人ほどの勇者を、一気に排除(エリミネート)……!!


 1射あたり15キルという、恐るべき効率。

 これは今まで丸めた新聞紙でゴキブリを叩いていた家庭に、スプレー式の殺虫剤がやって来たような、革命であった……!


 そこにさらに、森を破るようにして現れたのは……!



「我らは、『野良犬バスターズバスターズ』っ! 野良犬狩りを狩る者なりっ……! 我らが来た以上、ここはわんわん天国となるのだっ! かかれーーーーーーーーっ!!」



 膠着状態のビーチに颯爽と現れた、強力な援軍たち……!



 野良犬軍 野良犬バスターズバスターズ …… 100名



 これで、勇者軍の300名に対し、野良犬軍は総勢200名……!

 戦力差、1.5倍……!


 今の野良犬たちにとっては、そんな差など、『無い』に等しかった……!

今回は、プチざまぁということで……。

ザマーへの本格的なざまぁは、もう間もなく……!

ご期待ください!

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