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143 歴史的宣言

 ホテルのエントランスに突如として現れたのは、大軍ともいえる兵士たちを引きつれた、ひとりの少女。



「わらわはハールバリー王女、バジリス・ホーバリス・ハールバリー!! ハールバリーの次期女王でもあるわらわに……頭が高いぞっ!! ひかえおろう!!」



 彼女が名乗りをあげると、エントランスにいた者たちは一斉にひれ伏した。


 いくら小国とはいえ、相手は王女である。

 そして幼少とはいえ、相手は女王となる人物なのだ……!


 彼女が一歩前に出るたび、後から率いられるように、兵士たちがエレベーターの中から溢れ出る。



 ……ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!



 その千万ともいえる軍靴が、地響きのようにあたりを揺らす。

 包囲網のように狭まってくる大軍に、名のある者たちもさすがに萎縮する。


 しかしこの中で、ただひとり膝頭を地に付けなかった者がいた。

 それは……、



「アラアラ、バジリスちゃん、こんにちは! いつの間にか、ホテルに戻ってきていたんでチュねぇ!」



 あくまで壇上からの、フレンドリーを装った上から目線を貫くザマー・ターミネーション。

 彼女は普段であれば、王族相手であれば喜んで跪くのだが、バジリスに対してだけはそうはしなかった。


 なぜならば、知っていたのだ。


 マザー・リインカーネーションも、彼女に対して跪かず……。

 あまつさえ「バジリスちゃん」などという愛称で、呼び親しんでいることを。


 不倶戴天の敵であるマザーがそうなのだから、ザマーである自分は、それと同格以上の接し方でなくてはならない……。

 などとつまらないライバル心からであった。


 しかし本家マザーの場合は事情が違う。


 マザーはプライドゆえに跪かないわけではない。

 むしろ相手が小さい子であれば、積極的に跪く。


 いやそれは、『目線を合わせる』といったほうがいいだろうか。

 そしてそれも、相手が王族だろうが庶民だろうが、難民だろうがホームレスだろうが関係ない。


 彼女は相手が誰であれ、必要があれば喜んで跪く。

 むしろ靴紐なんてほどけそうになっている子供なんて見つけた日には、



「あらあら、まあまあ! そんなゆるゆるの靴紐だと、踏んづけて転んじゃって、スッテンして危ないでちゅよぉ!? ママがキュッってしてあげまちゅからねぇ~!」



 なにもかも振り乱して駆けつけてしゃがみこみ、大きな胸で圧迫されて窮屈そうにしながらも、ニコニコと靴紐を結びなおしてあげるというのが日常であった。

 それが貧民の子の靴であったならば、



「あらあら、まあまあ! この靴、指先が破れちゃってるわ! これじゃあ歩いているとイタイイタイでしょう? ママが繕ってあげまちゅからねぇ~!」



 どこからともなく取り出したソーイングセットで靴にツギを当てることですら、日常茶飯事であった。


 バジリスも、マザーがそんな人物だと知っているので、たとえ貧民の子と同じように扱われても気にしなかった。

 むしろその分け隔てない精神には、尊敬の念すら抱いていた。


 「バジリスちゃん」という呼ばれ方も、母を早くに亡くしてしまったバジリスにとっては、母親を思い出してたまらなく嬉しいものであった。


 しかし……いま眼上にいる、あの女だけは違う。

 馴れ馴れしく「バジリスちゃん」呼ばわりされるなど、虫唾が走る思いであった。


 バジリスは、かつて臣下であったポップコーンチェイサーにしたように、ザマーに跳び蹴りしたい気持ちでいっぱいになっていた。

 だが今は、こんなところで小競り合いをしている場合ではない。



「ザマーよ! そちらにおる少女たちの身柄は、このバジリスが預かる!」



 自分たちよりずっと歳上のビッグバン・ラヴを見やりながら、一方的に申し伝えるバジリス。



「アラアラ、バジリスちゃん、この醜女(しこめ)たちは、悪魔に取り憑かれちゃってるの。だから、渡すわけにはいかないわぁ。だって悪魔払いは聖女の仕事なんでチュからねぇ」



「このオバサン、なんであーしらがパンよりゴハン派だって知ってるし!?」



「バーちゃん、『おこめ』じゃなくて『しこめ』。醜い女の子っていう意味だよ」



「ハァッ!? それってチョー失礼じゃなくなくなくなくないっ!?」



 横でギャアギャアと騒ぐビッグバン・ラヴをよそに、王女と大聖女はなおも睨み合いを続ける。



「この者たちは、悪魔などには取り憑かれておらぬ! なぜならば言動が、ここにいる誰よりもしっかりとしておるからな!」



「アラアラ、悪魔の言動を支持するだなんて……。いくらバジリスちゃんでも、言っていいことと悪いことがありまチュよ?」



 そこでふと、ザマーはあることに気づき、ハッとなった。



「も……もしかして、バジリスちゃんがここにいるということは……。まさか、ゴーコンを蹴ってきたんでチュかぁ!?」



「その通りだ、ザマーよ! リヴォルヴは『野良犬バスターズ』なるふざけた組織を作りおったから、わらわは言ってやったのだ! ならば我々は、『野良犬バスターズバスターズ』になるとな!」



 するとザマーは頬に手を当てて、おおげさにイヤイヤと取り乱してみたせた。



「アラアラッ!? 勇者様のゴーコンを蹴ったうえに、その反組織を作るだなんて……! それは、ゴッドスマイル様に弓引くことも同じ……! そして、神であるゴッドスマイルを敵に回すということは、世界を敵に回すのも同じ……! 自分がなにをしようとしているのか、わかってるんでチュかぁ!?」



 その煽り立てるような言葉と仕草で、跪いていた者たちもざわめきはじめる。


 この中でバジリスは、誰よりも視線が低い位置にあった。

 しかし誰よりも高みにいるかのように、彼らを睥睨すると、



「そんなことなど、百も承知……! われらハールバリー小国は、すでに反勇者を標榜する国家となったのだ!!」



「えっ……えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?」



 この大胆を通り過ぎた無謀ともいえる発言には、民衆どころかビッグバン・ラヴ、そしてザマーまでもが絶叫した。



「は……反勇者を標榜とする、国家だって!?」



「そ……そんなことを宣言して、いったい何になるっていうんだ!?」



「バジリス様は、世界を相手に戦争をなさるおつもりかっ!?」



「勇者を敵に回したら、ハールバリー小国などひとたまりもないぞっ!?」



「ね、ねえブリっち!? よくわかんないけど、これってマジ、ヤバくなくなくなくないっ!?」



「ふーん、ビックリじゃん」



「チュッ……! チュチュチュチュチュチュチュ! バジリスちゃんったら、神尖組(しんせんぐみ)の入隊式にお呼ばれして、嬉しくて舞い上がっちゃったのね! たとえお子ちゃまとはいえ、王族の子がこんな勝手な宣言をしたら……タダではすみませんでチュねぇ! きっとハールバリーの国王も、このことを知ったらビックリするでチュねぇ! 国王とは仲良しのザマーが、かわりにバジリスちゃんにメッてしちゃいまチュよぉ!」



 そうやって脅せば、バジリスは事の重大さに気付いて泣きべそをかくだろう、ザマーはそう思っていた。

 しかしすでに女王としての風格を醸し出しているバジリスは、騒ぎ立てる烏合の衆などものともしない。



「このことは、国王もすでに承認済みである! それに本来は、神尖組の入隊式典のあとに予定されていた、ハールバリー小国でのわらわの戴冠式において、世界に向けて宣言するつもりであったもの……! それが少し早くなっただけのことだ!!」



 国王は承認済みのうえに、しかも戴冠式まで控えているとなると……。

 この少女の発言はもはや、狂言などではない。


 国王が宣言したも同然の、国家声明……!


 ハールバリー小国はなんと、世界に名だたる、勇者たちに向かって……!

 神の使いと呼ばれる、神聖なる者たちに向かって……!



「わらわはここに宣言する! 我が国において……! いいや、このグレイスカイ島からも、勇者たちを一掃……! 1匹残らず駆除することを!!」



 後に全世界を巻き込むこととなる、反逆の照明弾を……。

 いま、高らかに打ち上げたのだ……!

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