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132 狩リノ時間1(ざまぁ回)

「赤いゴキブリどもが、さっそく現れおったか! 相手は10人、初陣にはちょうどいい! 第1分隊と第2分隊、かかれぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」



 木箱の上の団長の合図を受け、武装した野良犬マスクたちが動き出す。



 ……ザッザッザッザッ!



 白砂を駆け散らし、落武者のような、赤きマントに身を包んだ若者たちを取り囲んだ。


 彼らは最初は怯んでいたが、相手がワイルドテイルであることを思い出すと、



「く、くそっ! ナメやがってぇ!」



「俺たち神尖組に楯突くなんて、いい度胸してるじゃねぇか!」



「そんなことをしたら、どうなるかわかってんだろうなぁ!?」



「かまわねぇ、やっちまえっ! 皆殺しだっ!」



 抜刀しつつ立ち上がり、お互い背中合わせになって、野良犬たちと対峙する。


 団長より派遣された野良犬たちは、総勢20名。

 数だけであれば倍の差がある。


 しかし相手はワイルドテイル、いままで彼らがさんざん虐げてきた、弱き民たち。

 末端でも剣術道場の師範代クラスの腕前である、神尖組に勝てるはずもなかった。


 そう、例えるなら農民と剣豪。

 勝負になるはずもなかった。


 『あるモノ』がなければ……!



「人間は、神には勝てぬ! なぜならばそれは、人間だからだ! しかし野良犬であれば別だ! なぜならば野良犬には、神も人間もないからだっ! どちらも等しく、喉笛を喰いちぎる対象でしかない! さぁ、食らいつくのだっ! ヤツらの首筋にっ!」



 隊長は天を衝くほどに高らかに手を挙げ、さらに叫ぶ。



「援護要員、発射用意っ!」



 ……ざっ!



 すると、神尖組を取り囲んでいた野良犬たちのうち、10名が膝射(しっしゃ)の体勢を取る。

 構えられたその手には、小さなクロスボウが。


 若者たちは嘲笑(わら)った。

 そして自分たちの勝利が揺るぎないことを確信する。



「ギャハハハハハハハ! なんだそのオモチャみてぇなクロスボウは!?」



「ワハハハハハハハハ! そんなショボイのが神尖組に通用すると思ってんのかよっ!?」



「ヒャハハハハハハハ! 撃ってみろよっ! その時こそが、お前らの最後だっ!」



 神尖組の訓練場では、ありとあらゆる事態を想定した剣術が教えられる。

 複数に囲まれた状況などはもちろん、弓やクロスボウなどの遠距離武器を相手にしたときの戦い方などを徹底的に仕込まれるのだ。


 この世界の遠距離武器は、一部の特殊なものを除いて射程はそれほどない。

 特にいま、彼らに向けられているライトクロスボウとの距離は、10メートル程度しか離れていない。


 その場合、どう対処するかというと……。


 撃ち放たれる呼吸を察し、射手めがけて特攻。

 一の太刀で矢弾を弾き落とし、返す刀で射手を一刀両断にする。


 それはかなりの高等技術であるが、彼らはそれをやってのけるのだ。


 となると技術も踏んだ場数も、圧倒的な差があることになる。

 もはや戦う前から勝負はついているかに見えた。


 しかし、しかしである。

 神尖組の若者たちが思い描いている戦闘シミュレーションは、相手が『人間』だった場合である。


 もし相手が『野良犬』だった場合、どうなるだろうか……?


 そんなこと、彼らは考えるよしもなかった。


 なぜならば、野良犬など取るに足らない存在。

 路地裏を這い回り、残飯をあさり、人の影にも怯え、足音にすら逃げ出すような存在。


 そんな最弱の存在と戦うことなど、考えたこともなかった。

 そんな最弱の存在が、神にも等しい自分たちに……。


 牙を剥くことなど、夢にも思っていなかったのだ……!



「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



 団長の号令は、彼らにとっても絶好の合図となった。



 ……ザアッ!



 白砂を波しぶきのように蹴って、射手である野良犬たちに挑みかかる。

 あるひとりの若者は、心の内で叫んでいた。



 ――さぁ、撃ってこい……!

 撃った時こそ、テメェの最後……!



 ……ビシュンッ!



 撃ち放たれた弾丸に、彼は笑んだ。



 ――トロくせぇ弾だ! 俺には止まって見えるぜ!


 でもこれで、終わりだっ……!

 この白い砂浜を、テメェの汚ぇ血で、染め上げてやんよっ……!


 俺たち神尖組に歯向かったところで、テメェら野良犬は簡単に屠殺されちまうってことを、思い知るんだな!

 コイツを軽くブチ殺せば、残ったヤツらは実力の差を思い知り、烏合の衆と化す……!


 たとえ残りが何百匹いようとも、無力……!

 いつもどおりの殺戮ショーの、はじまりはじまりだっ……!



 それは、もっともな思考であった。

 なぜならば、彼らはそうやっていつも、抵抗してくる異教徒たちを虐殺していたのだから。


 それには例外はない。

 ただその過去の例には、ただ一匹として『野良犬』はいなかった。


 生きるためならどんな手でも使う、『野良犬』はっ……!


 特攻していた神尖組の若者たちが、迫り来る弾丸を斬り払った瞬間、



 ……パァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーンッ!!



 煙玉のように、それは弾けた。

 次の瞬間、



「「「「「「「「「「ウギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」」」」」」」」」」



 10人分の阿鼻叫喚が、ビーチを揺るがした。


 唐辛子の煙幕に晒され、そのあまりの衝撃に涙と鼻水を噴出させながら、彼らは砂浜に顔面スライディングをかました。



「ぎゃあああああっ!? 痛い痛い!? 痛いいいいいいいいっ!?!?」



「なんだこれっ!? なんだこれっ!? 目がっ、目がぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」



「痛ぇ! メチャクチャ痛ぇよぉぉぉーーーーーっ!」



「死ぬっ、死ぬっ、死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーっ!!」



 殺虫剤をかけられたゴキブリのように、のたうちまわる若者たち。

 もうそれだけで、じゅうぶん勝負がついていたのだが……。



「よぉし、追撃だ! 近接要員、かかれぇーーーーーーーーーーーーーっ!!」



 号令一下、今度は棒を持った野良犬たちが飛びかかる。


 そして、目隠しをしていない、浜辺のスイカ割り遊びのように……。

 いいや、まるで生産調整のため、畑のスイカを叩き割るかのように……。


 倒れた勇者たちを、滅多打ちっ……!!



 ……ガスッ! バキッ! ゴシャッ! グシャッ! メシャッ!



 神尖組の制服は、『ゴージャスマート』の最高級品のひとつ。

 魔法練成による防御効果が付加されているので、そのへんの棒きれ程度どころか、鉄棒で撃たれてもなんともない。


 しかしワイルドテイルたちが支給されていたのは、『スラムドッグマート』の最高級品である、竿状武器(ポール・ウエポン)


 リーチがあって軽く、とても扱いやすいのだが、魔法練成による強化が施されている。

 鉄を打ち据えても折れることはなく、打った鉄の向こう側に衝撃をそのまま伝える。


 それは、最高級品どうしの激突であった。


 『ゴージャスマート』の最高級品と、『スラムドッグマート』の最高級品がぶつかりあった場合、どうなるのか……?

 すべての盾を貫く矛と、すべての矛を防ぐ盾の原理……?


 否……!

 すべての盾を貫く矛と、ただの紙切れっ……!



「「「「「「「「「「ウギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」」」」」」」」」」



 絶叫、ふたたびっ……!!

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