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130 ふたつの騎士団

「「「我ら『わんわん騎士団』、ただいま参上っ!!!!」」」



 煙によってススだらけになってしまった少女たちは、銅像のように真っ黒のまま、かっこいいポーズと決め台詞を放つ。

 そしてポカーンとする衆目をよそに、狂犬と名高いリーダーがさっそく食ってかかった。



「残念だったわね、クーララカ! アタシたちを出し抜こうったって、そうはいかないわよ!」



 ビシイッ! と指さされ、正義のヒーローに追い詰められた怪人のように歯噛みをするクーララカ。



「くっ……! お前たちは、スラムドッグスクールで授業の最中ではなかったのか!?」



「それは『運の3号』のお手柄よ! 窓の外に飛ばされたプリントを取ろうとして、窓から落っこちかけたところを、ムクに助けられたのよ!」



「窓から落ちるのは毎週のことでしたけど、おかげで今週は落ちなくてすみそうですぅ~」



「な……なんだと!? しかしその時はすでに、ムクは伝書を持っていなかったはず!?」



「それは『技の2号』のお手柄ね! ムクは伝書を持っていたわ! アンタがしたためた、マザーへの手紙はもうなかったけど、マザーがしたためた、スラムドッグマートへの手紙をね!」



「その文面から推理して、ただならぬ事が起こっていることがわかったのん。それに、マザーたちが港に戻ってくるのも」



「だからアタシたちは、スラムドッグマートが準備していた木箱のひとつに、こっそり潜り込んだのよ! それならたとえ何があったとしても、追い返されたりすることはないからね!」



「ぐっ……! これから我々がすることは、ままごとなんかじゃない! 本当の戦争なんだ! だから子供のお前たちを巻き込むまいと思って、私は……!」



「やっぱりアンタが、アタシたちは置いてくるように指示した張本人だったのね! それにアタシたちのためを思ってだなんて、ウソおっしゃい! 本当は『わんわん騎士団』に活躍の場を与えず、あとから羨ましがらせてやろうっていう魂胆だったんでしょうが!」



「そ、それは言いがかりだっ! なにを証拠にそんなことを……!」



「ネタはあがってるのん。さっきこの子に、『わんわんクルセイダーズ』のことを教えてもらったのん」



 彼女たちの隣には、すでに取り込まれてしまったようなチェスナが「わうっ!」と鳴いていた。



「しかも団理まで丸パクリだっていうじゃない! アタシたちが来たらそれがバレるのが怖かったんでしょうが!」



「でも、わんわん度合いは私たちより、ワイルドテイルさんたちのほうが、ずっと高いですねぇ~」



「ぐううっ……!」



 全てを見透かされてしまった怪人は、二の句が継げなくなってしまった。


 そんな彼らの小劇場をよそに、ワイルドテイルたちは何をしていたかというと……。



「さぁさぁ、みんなお腹が空いたでしょう? お弁当をいっぱい持ってきたから、たくさん食べてね!」



 まるで海に遊びに来た団体客のように、砂浜に弁当と敷物を広げて食事の真っ最中。

 もうすっかり、戦闘ムードではなくなっていた。



「あ、あの、マザー。それよりもワシらは、勇者様たちと、戦いを……」



「お腹がペコちゃんだったら、どろんこ遊びもできないでしょう? だからまずはお腹いっぱいにしなきゃ、ねっ!?」



「あの、すみません。本当だったらみなさんのお好みを調べたお弁当にするつもりだったのですが、時間がありませんでしたので……お口に合うかどうか……」



「いっぱいたべうー!」



 聖女たちに進められ、重箱をつつきはじめるワイルドテイルたち。

 するとあちこちで、歓喜の声が湧き上がった。



「う……うめえっ!?」



「な……長いこと生きてきて、こんなにうめぇもの、初めて食べただ!」



「わあっ! 美味しい! すっごく美味しいよ!」



「こんなにうめぇもんが食べられるなんて、生きててよかったぁ!」



 そうこうしている間にも、黙々と働いていた騎士たちは、木箱を船からすべて降ろし終える。

 釘抜きを使って蓋を開けると、スラムドッグマートの品物がぎっしりと詰まっていた。


 木箱の上に立ったクーララカが、皆に向かって気を引き締めるよう叫んだ。



「よぉし! 腹ごしらえもすんだようだな! ならば、いよいよ戦いの準備だ! 腕っ節に自身がある者は、私の左側に列を作れ! 近接戦闘用の武器、そして防塵用のマスクと重装防具を支給する! 腕っ節に自身がない者は、右側だ! 援護用の武器と軽装防具、そして同じく防塵用のマスクを支給する! それ以外の、戦えぬ者はこのビーチに待機! テントを張り、物資補給の係を務めるのだ!」



「あらあら、まあまあ。クーちゃん、あんなに勇ましくなって……かっこいいわぁ!」



「くーたん、がんばえー!」



「近接用の武器は、打撃系の武器を用意した! なぜならば、戦いの素人が使うには、刃のついた武器は誤って自分自身を傷付けてしまうおそれがあり、危険だからだ! また剣でダメージを与えるには技術がいるし、鎧を着た相手には通用しない! その点、打撃武器は当たりさえすればダメージとなる! それがたとえ、鎧の上からであってもだ!」



「なにか、どこかで伺ったことのあるお言葉のような……?」



「はい、プリムラさん。あれはゴルドウルフ先生が授業でおっしゃっていたこと、そっくりそのままですぅ~」



「援護用の武器は、大人にはライトクロスボウ! 子供にはスリングショットだ! これなら弓と違って、扱うのに技術はほとんどいらぬ! ただ弾をつがえ、狙いを定めて引き金を引くだけだ! なお誤射による被害を防ぐためと、身体のどこに当てても効果を得るため、矢ではなく唐辛子の弾丸を使用する! 直接当ててもほとんどダメージは無いが、破裂すると目も開けられぬほどの粉塵をあたりにばらまく! そのため、支給した防塵マスクは必ず着けて戦うように!」



「なにやら『わんクル』が、我が物顔で仕切ってるのん」



「どーせすぐに化けの皮が剥がれるでしょう」



 とうとうチャチャに耐えきれなくなって、クーララカは大声のまま突っ込んだ。



「誰が『わんクル』だっ!? 我が神聖なる騎士団を略すんじゃない! それに後から来た以上、お前たち『わんわん騎士団』……『わん騎士団』も私の指示に従ってもらおう!」



「言い直したうえに、『わん』しか略せてないのん」



 そんな被せツッコミをよそに、睨み降ろす『わんクル』と、睨み上げる『わん騎士団』。

 ふたつの騎士団のリーダーの視線がぶつかり、バチバチと火花が散る。


 シャルルンロットは不敵に口元を歪めると、鼻で笑いながら金色のツインテールをかきあげた。



「フン、まあいいわ。しばらくの間は、大人しくお手並み拝見といきましょう。もしロクでもない指揮官っぷりだったら、我ら『わんわん騎士団』がワイルドテイルたちを率いるから、覚悟なさい」



「くっ……! 命をかけた戦いで、小学生についていく者などいるわけがなかろう!」



「そうかしら? それじゃあさっそく1人頂いていくわね。……そこのアンタ、気に入ったわ。見所があるから、私たちと一緒に行動なさい」



「わうっ! かしこまりなのですっ!」



 巫女少女のチェスナは、比喩ばかりではなく……。

 しっぽをパタパタ振って、あっさり寝返っていた。

三姉妹もわんわん騎士団も久しぶりの登場だったので、ちょっと長めの絡みを入れましたが、次回、いよいよ勇者たちのターン!?

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