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125 わんわんクルセイダーズ

 ……ドバァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 と印籠か桜吹雪が現れたような衝撃が、敬虔なる巫女少女を襲う。



「わっ……!? わうぅぅぅぅぅぅ~~~~~~っ!? おねえちゃんも、のらいぬマスクだったのですね!?」



 チェスナは驚きあまりのけぞりすぎて、コテンと後ろにひっくり返ってしまった。

 しかし起き上がる勢いを利用して、シュバッと土下座する。


 小さく丸まっている巫女少女に向かって、『野良犬マスクウーマン』は高らかに宣言した。



「チェスナよ、縮こまっているヒマなどないぞ! さぁ、立ち上がるのだ! いまこそ戦いの時なのだからな!」



 するとチェスナはビクリと顔だけあげ、驚愕の眼差しを向ける。



「わううっ!? た、たたかう!? だれとですか!? それに、そんなことができるのですかっ!?」



 野良犬マスクウーマンは「できる!」と力強く即答。



「戦う相手はすぐにわかる! それにみなで決起すれば、不可能などあるものか! さぁ、いますぐワイルドテイルたちの集落へと向かうぞ!」



「わ、わうっ! で……でもでも、もう時間がないのです! いまからだと、いっしょうけんめい走って集落に戻っても、おひるをすぎてしまうのです!」



 さっそくの問題発生に、「むぅ……!?」と唸る野良犬マスクウーマン。



「うーむ。こうなったらやむをえまい、どこかで馬を拝借するしかないな。それも、とびきりの駿馬を……」



 そう決断する彼女の視界の隅を、一匹の葦毛の馬がパカパカと横切っていく。

 いかにも散歩中といった装いで、わざとらしいほど『通りすがり』をアピールしながら歩いている、その巨馬は……。



「さ……サビっ!? ちょうどいい所に! 貴様を我が早馬としてやろう!」



 野良犬マスクウーマンは見つけるが早く、言うが早くチェスナをひょいと小脇に抱え上げると、その馬の元へと駆けていった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 その頃、シンイトムラウの麓にあるワイルドテイルたちの集落は、不穏な空気に包まれていた。

 不安のあまり誰もが家屋を飛び出し、広場に集まり、被災者のように身を寄せ合って震えている。



「こ……このあたりにおった神尖組(しんせんぐみ)の勇者様たちが、みないなくなっちまっただ……」



「最近は見張りの数も少なくなってきたってのに、ついにひとりもいなくなっちまうだなんて……」



「いま神尖組の勇者様たちは、街中を徹底的にさらっているそうだぞ」



「な、なんのために?」



「わからん、でも、それが終わったら次は、ワシらの番なんじゃねぇか?」



「め……滅多なこと言うもんでねぇ!」



「で、でも、おかしいだ! 勇者さまの見張りがなくなるだなんて、初めてのことだ!」



「そうじゃ! 勇者様たちは、野良犬マスク様を目の敵にしとった! 次に勇者さまたちが来るときは、野良犬マスク様もろとも、ワシらを皆殺しにする気なんじゃ!」



 もはや反論できる者もいなくなり、広場は静けさと恐怖に包まれる。


 普通であれば、逃げ出すことを提案する者がいても、おかしくはないのだが……。

 逃げたところでどうしようもないことは、みなわかっていた。


 この島では迫害対象である彼らワイルドテイルたちは、シラノシンイしかすがるものがなかったのだ。


 そしてついに、怖れていたものがやって来た。



 ……ドガガガガガガガガガガッ……!



 地を揺らすような蹄の音が、集落に向かって近づいてきていたのだ……!


 その馬蹄は、彼らがいつも耳にしているものとは異なり、沈重で荘厳としていた。


 まるで、死神が迫り来るように……!

 さながら、逃れようのない終末が訪れるかのように……!


 それはただの跫音だというのに、集落の者たちを縮み上がらせるほどに圧倒的なオーラを秘めていた。


 たしかにそれは、ある者にとっては『絶望』であった。

 しかし逆に、ある者にとっては……!?



「あっ!? あっあっあっあっ!? ああああーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」



 最初に気付いたのは、ある若者だった。

 彼は立ち上がり、街へと降りる山道を指さす。


 それにつられて集落の者たちが一斉に振り向いた。

 すると、



「あっ……!? ああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 彼らが目にしたのは、信じがたいほどの、『希望』……!


 海で漂流していたら、ジョーズが上手に助けてくれたような……。

 しかも一緒にいた、嫌な上司だけは食べてくれたような……。


 嬉しいけど、夢でしかあえりえないような、困惑きわまりないモノ……!



「の……野良犬マスクさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 そう……!

 疾風のように、集落へと向かってきていたのは……!


 彼らにとってはすでに神格化されているマスクを、被った女……!

 彼女は、鞍の馬の天狗のように、颯爽と……!


 しかもお姫様ポジションには、巫女のチェスナが……!


 歓喜とも動転ともつかぬ悲鳴のなか、豪馬は一瞬にして広場になだれこんでくる。

 野良犬マスクを被った女は、辞書に不可能などなさそうな偉人のごとく、馬の脚を高くあげながら叫んだ。



「皆の者! 私は『野良犬マスクウーマン』! しかし詳しい事情を説明しているヒマはない! ここはもうすぐ、神尖組が押し寄せてくる! 今すぐ私とともに、ここから離脱するのだ!」



 「するのです!」と言い添えるチェスナ。


 突然の宣言に、戸惑いが加速するワイルドテイルたち。

 集落の長が立ち上がり、みなを代表し問うた。



「あなた様が何者かはわかりませんが、そのいでたちとお名前から察するに、野良犬マスク様と同じ、シラノシンイ様の従神様なのですね!? でも、この島には逃げる場所などありません!」



「私は従者などではないが、今はそんなことはどうでもいい! それに、逃げる場所についても心配するな! 安全な場所を、私は知っている! 私についてくるのだ!」



「し、しかし……! シンイトムラウには、まだ野良犬マスク様がおられます! 野良犬マスク様をおひとりにして、我々だけが安全な場所に逃げるわけにはまいりません!」



 その言葉にチェスナもハッとなる。



「そ……そうなのでした! まだやまには、かみさまがいるのです! かみさまを置いて、にげるわけにはいかないのです!」



 すると、ワイルドテイルたちも口々に続いた。



「そ、そうだ! 山にはまだ、我らが信じる野良犬マスク様がおられるのだ!」



「みんなで力を合わせて、野良犬マスク様をお守りしなくては!」



「我々は、殺されてもここを動かないぞ!」



 しかしもうひとりの神は、それらを一喝した。



「寝ぼけたことをぬかすなっ!!!!」



 その一声だけで、しんと静まりかえる。



「貴様らのような武器もない者たちがいたところで、紙の砦にもならぬわ!! 紙クズのように蹴散らされるだけの愚行を、貴様らの神は望んでいるとでも思っているのか!! だとしたならば、とんだお笑いぐさだな!!」



 「わ、我らの神を、愚弄する気かっ!?」と誰かが叫んだ。



「愚弄しているのは貴様らのほうだっ!! 貴様らの信じる神は、貴様らごときに守られなければならぬ、腰抜けなのか!? いいや、断じて違う!! 私が知るあの(●●)男は、そんな脆弱ではないわ!!」



 野良犬マスクを『あの男』呼ばわりしたことで、ふたりの間に親近感のようなものがあることを、集落の者たちに抱かせた。

 チェスナは「おねえちゃんはやっぱり、かみさまとなかよしだったのですね!」と目をキラキラさせている。



「それに……! この(●●)私が、貴様らを逃がすとでも思っているのか!!」



 「ええっ!?」と驚くみなに向かって、野良犬マスクウーマンは、最後のトドメを放った。


 それは、ワイルドテイルたちが思わず犬耳を、こぞってパタパタさせてしまうほどの……。

 信じがたい、一言であった……!



「我ら『わんわんクルセイダーズ』は、この拠点を破棄し、ただちに新たなる拠点へ移動っ! そこで作戦会議を行なうっ! 我々はこれより、邪悪なる勇者たちをこの島から追い出す、聖なる戦士となるのだっ!!」



「えっ……ええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] おっさんのペット、飼い主に似たのか凄い気の利いた登場しまくってて笑う。
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