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124 新たなるヒーロー

 ……ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!



 街角を、爆音が貫いていく。

 地獄の釜蓋が開闢したかのような灼熱が溢れ出し、爆風となって周囲の窓ガラスが弾け飛ぶ。



 ……パン! パン! バァァァァァァァーーーーーーーーーンッ!



 爆心地のすぐそばにいた、神尖組(しんせんぐみ)という名のチンピラたちは、その剣圧をまともに浴びてしまった。

 爆発コントのようなチリチリパーマに黒焦げの顔、制服は焼け落ち、パンツ一枚になっている。



「ひっ……!? ひいいっ……!?」



 まるで炎の魔人に会ったかのように、正気を失った様子で、べしゃりと腰砕けになる。

 しかし、チンピラたちよりも爆心地近くにいたチェスナは毛先ひとつ焦げていない。



「わ、わうっ……!? す、すごいちからなのです……!」



 彼女が見上げる先には、愛剣を振り終えたかっこいいポーズのまま、固まるクーララカが。

 刀身はまだ熱せられた鉄のように、赤い光をこうこうと放っている。


 ストーブに顔を近づけているような熱気に、額から汗がつうと走った。



 ――ちゃ……チャルカンブレードは、使い手の情念によって威力を増す剣……。


 久しぶりに振ったとはいえ、これほどまでの熱気を放ったのは、初めてだ……!


 これも、セン……。

 いいや、母さんのおかげか……!



 すると、どこからともなく声が聞こえてきた。



『もう、あなたったら……。それはあなたの力よ。あなたの誰かを守りたいという心に、チャルカンブレードが共鳴したのです』



『か……母さんっ!』



『行きなさい、クーララカ。心のままに。今のあなたにはもう、迷いはないはず』



『は、はいっ! 母さんっ!』



 クーララカは真っ直ぐ前を見た。

 長く伸びた大通りの先、遙か向こうには大きな山がそびえている。


 彼女はもはや、足元のチンピラたちには目もくれていなかった。


 しかしジョボジョボとした水音のあと、涙にまみれた震え声が湯気のように立ち上ってきて、否が応でも注意を引き戻されてしまう。



「と……とんでもねぇっ!? とんでもねぇぞっ!?」



「まっ、まさか、チャルカンブレードがこんなに威力があるだなんて……!」



「こっ、こんなの、勝てるわけがねぇ……! 勝てるわけがねえよっ!」



「だっ、だからやめておこうって、俺は言ったんだ!」



 クーララカが仕方なく目をやると、そこにはパンイチをしとどに濡らすチンピラたちが。

 彼らはすっかり怯えきっており、彼女が目を細めるだけで、


 「ひいっ!?」と引きつれた悲鳴とともに、自ら進んで土下座をした。

 尿だまりに顔を突っ込みながら、懸命に命乞いをする。



「い、命ばかりはお助けを! 命ばかりはぁぁぁ……!」



「な、なんでもしますから、なんでもしますからぁぁぁ……!



「お、俺はやめておこうって言ったんです! でもコイツらが、弱いクセにイキがっちゃって……!



「な、なんだと!? テメェがいちばんノリノリだったじゃねぇか!」



「ち、違うんです! リヴォルヴ様に言われたんです! リヴォルヴ様に言われて仕方なく……!」



「あっ! そ……そうそう! そうなんです! あの狭間馬鹿に逆らうと、すぐロシナンテルーレットとかいうへんなゲームをやらされるんです!」



「もう二度とこんなことはしません! しませんから、今回だけは助けてください! お願いします!」



「「「「「「お願いしますっ!!!!」」」」」」



 それは流れるような言い訳から繋がる、ピッタリと息の合った謝罪であった。


 不意にクーララカの服の袖が、くいくいと引っ張られる。

 さらに視線を落とすと、そこには上目遣いのチェスナが。



「あの、ゆうしゃさまたちもはんせいしているので、ゆるしてあげてほしいのです」



 神尖組には少し関わったクーララカですら、すでに許しがたい感情を抱いているというのに……。

 少女はさらに酷い目に遭わされてきたであるはずなのに、彼らを許そうとしている。


 その寛大さに、クーララカは思わず舌を巻いてしまった。



「お前たちワイルドテイルは、今までさんざんコイツらに弾圧されてきたはずだ。それに、巫女である前はその筆頭であったであろう。それなのに、コイツらを許すというのか?」



「わうっ! わうたちはかみさま……シラノシンイさまや、『のらいぬマスク』さまのお許しがないかぎり、だれもきずつけてはいけないのです!」



 立派な心がけではあったが、なんとなく引っかかる言い回しではあった。



「逆にその、神様……『のらいぬマスク』とやらの許しがあれば、争いもいとわぬというのか?」



 すると巫女は「わうっ!」と鳴いた。



「わうたちが戦うときは、かみさまのためです! 自分たちのためには戦わないのです!」



「そうか……」



 クーララカはなんとなくであるが、この島のワイルドテイルたちの行動原理がわかったような気がする。

 そして信心深い種族だというのは聞いていたが、想像以上であった。


 いずれにしても、すべきことができた今、雑魚たちと遊んでいるヒマはない。

 クーララカは剣を鞘に収めながら、チンピラたちに沙汰を申し渡す。



「この娘の慈悲に感謝するのだな! ただし次に私の前に現れた時は、ただでは済まさぬぞ! 貴様らの大好きな『地獄の鬼ごっこ』をさせてやるから、覚悟するがいい! さぁ、去ねっ!!」



 一喝され、「ひいっ!?」と飛び上がり、カサカサと這い逃げていくチンピラたち。


 その尻を見送ったあと、クーララカは視線を移す。

 爪先を向けた先は、ペットショップ。


 中でもひときわ大きな檻に近づくと、小さな錠前ごと扉を引きちぎる。



 ……グシャアッ!



 そして中に浮かんでいる、灰色の雲のような存在に向かって言葉をかけた。



「ムク! 鳥カゴに閉じ込められたお前を、助けてやったぞ! これで借りは返したうえに、ひとつ貸しだ!」



 『借りを返した』まではわかるのだが、なぜさらに『ひとつ貸し』になるのか……?

 謎理論に、ムクと呼ばれたフクロウは無言で首を傾げる。



「では、さっそくその借りを返してもらうとしようか! 今からすぐに、あるお方の元に伝書を届けてもらおう!」



 しかしクーララカは一方的に話を進めた。

 ペットショップのカウンターにあった、ペンとメモで手早く伝書をしたためると、フクロウの脚に結びつける。



「では、頼んだぞ! さっさとするんだ!」



 急かされ、浮かない顔で飛び去っていくフクロウ。

 その尻を見送ったあと、クーララカはジャンジャンバリバリから取り戻したリュックの中から、何かを取りだして被っていた。


 それらの一部始終を、不思議そうな顔でキョトキョトと見つめていたチェスナ。



「あの、おねえちゃんは、これからなにをするつもりなので……わうっ!?」



 少女は言葉の途中で目を見開く。

 なぜならば、そこには……。



「……我こそは『野良犬マスクウーマン』……! いまここに、爆誕っ……!!」



 少女が予想だにしなかった、新たなるヒーローが立っていたからだ……!

ヒロインじゃないの? と思われるかもしれませんが、違います。

その理由は、いずれ明らかに…!

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