118 野良犬バスターズ
新連載、開始しました!
『ヘル・クラフト 天国を追放された天使見習い、地獄を掘る!』
しかも一挙に5話掲載!
そこまでで、このお話の番外編のような面白さを感じていただけると思いますので、ぜひ読んでみて下さい!
このお話の最後に、リンクがあります!
「我ら勇者一族の中にいて、牙を研ぎ……飼い主の手を食いちぎる機会を伺っている、その犬の名は……」
神尖組局長、アーミー・オブ・ワン・ゴージャスティスっ……!!
「げっ……げえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
リヴォルヴは真犯人であろう者の名を、敢えて公表した。
なぜならば、来賓の中にも『野良犬組』と繋がっている者がいるかもしれないと考えたからだ。
すると、ソイツは走るはず。
走狗のように……!
リヴォルヴはすでに、来賓をひとりひとりマークするようにと、部下に命じてある。
もしこの集まりを終えたあとで、伝書を飛ばそうとしたり、伝声を利用しようとした者がいたら、その内容を押さえれば、一気に本丸への確証が得られるというわけだ。
しかしこれはリヴォルヴにとって、リスクの大きすぎるギャンブルであった。
例えるなら、160色に色分けされた導火線の中から、時限爆弾を止める1本を切れと言われているようなものである。
なにせ、自分よりも格上の勇者を『告発』したも同然だからだ。
しかも、ゴッドスマイルへ反旗を翻す者として。
しかし、確たる証拠はまだない。
それを、これから死んでも掴まなくてはならない。
もしそれができなければ、爆死……!
だからこそ、リヴォルヴはなるべく多くの人間を巻き込んでおきたかった。
入隊式のためにこの島に訪れていた神尖組のメンバーはもちろんのこと、今ここにいる権力者たちもまとめて。
王族の来賓ともなれば、この島に来る際に大勢の警護を連れて訪れている。
小国では数名程度か分隊クラスの人数だが、大国ともなると中隊ほどの兵力を持ち込んでいるのだ。
それも『神の指』ほどではないが、かなりの使い手たちを。
それら戦力まで総動員して、この島で本土決戦を行なう。
それこそが、リヴォルヴに残された、最後の切り札……!
しかし普通に協力を依頼したところで、この、薄氷と地雷原の上でタップダンスを踊るようなギャンブルに乗ってくる者はいないだろう。
なにせ勇者の告発に加担した以上、「間違いでした」ではすまされない。
たとえ国王クラスですら、ミンチですめば御の字レベル。
だからこそリヴォルヴは勇者にとっての強権のひとつである、『ゴーコン』を発令した。
『ゴーコン』が発動している最中、協力を依頼された者には、協力の義務が課せられる。
もちろん断ることもできるのだが、その後に待っているのは、アイアンメイデンのような針の筵。
勇者に非協力的なものは、人ならざる者とされるので、非難の口実を与えてしまうのだ。
立場ある者にとっては、それは絶対に避けたいところ。
と、いうことは……。
『ゴーコン』の時点で、権力者たちは究極の二択を迫られることとなる。
一、リヴォルヴの協力要請を受諾し、セレブ爆弾となるか……。
二、リヴォルヴの協力要請を拒否し、セレブ陥落となるか……。
ふたつに、ひとつ……!
前者は失敗すれば、セレブ陥落どころか生命の危険もある。
しかしもし成功すれば、絶大なるリターンがある。
勇者の上層部にいるアーミー・オブ・ワンの裏切りを証明できれば、ゴッドスマイルから多大なる寵愛を与えられ、そして民衆の間ではヒーローとしてもてはやされるのは間違いない。
そして後者は成功も失敗もない。
ただ、セレブ陥落というリスクだけを背負わされてしまう。
唯一、リターンと呼べるものは……。
それだけの被害で、すむということ。
前者の失敗は直接の死を意味するが、後者の失敗には再起のチャンスが残されている。
もし、リヴォルヴの告発が失敗に終わった場合は、『無茶なゴーコンに加担しなかった』という言い訳が立つ。
しかし、『ゴーコンを断った人非人』というレッテルだけは、タンスに貼ったステッカーのように、剥がしても消えない可能性がある。
となればこの二択において、前者のほうが分がいいと考える者がいても無理はなかろう。
さらに、瀬戸際に立たされた権力者たちの背中を押したのは、入隊式での一件。
第10番隊たちの狂気の殺戮ショーを目の当たりにし、もしかしたら本当に神尖組は腐敗しているのではないかと思うようになったのだ。
そしてついに、講堂に集められた権力者たちは、決断を下す。
全員が全員、リヴォルヴの『賭け船』に乗ることを、宣言するっ……!
リヴォルヴ、ついに自分以外のプレイヤーのチップまでかき集め、全賭けに成功っ……!
倍プッシュどころか、倍々……!
いいや、百倍プッシュ……!
しかしこれは、さようなら……!
もはや説明不要レベルの、核爆案件……!
リヴォルヴと権力者たちは背水の陣のギャンブルに挑むつもりでいたが、無茶、無謀、無駄……!
傍から見れば、すでに賭け事ですらないっ……!
例えるなら、突進してくる豚の群れから自分の両親を探し出さなくてはならないのに、なぜかそこには少年院を脱走しようとする不良少年が混ざっていて、邪魔してくるような……!
ただの、イジメっ……!!
……ちなみにではあるが、セレブたちが助かる方法が、実はひとつだけある。
それは、逆にリヴォルヴを裏切り者に仕立て上げることであった。
リヴォルヴの告発を妄言だと断じ、講堂内で一致団結して彼を縛り上げる。
あとはその身柄を、アーミー・オブ・ワンに引き渡せば、万事解決……!
しかしそんなウルトラCを思いつく者も、たとえ思いついたとしても実行に移せるほど肝の据わった者はいなかった。
よって、ここに完成するっ……!
リヴォルヴと近隣諸国の権力者たちが手を組んだ、『野良犬バスターズ』がっ……!
『野良犬バスターズ』の本拠地は、リヴォルヴの屋敷に設定された。
彼を最高司令官とし、その下に他の勇者たちや権力者たちを配置する。
一気に多大なる戦力を得たリヴォルヴは、まず屋敷の中庭に、すべての戦力を集結させた。
そして書斎のテラスを謁見台がわりに、眼下の兵士に向かって、こう演説した。
……諸君! 俺たちはいま、『狭間』にいる!
ゴッドスマイル様を支える勇者組織の屋台骨が腐り、崩落の危機を迎えている!
ゴッドスマイル様が世界の土台となる亀ならば、我ら勇者は世界を支える象!
その一匹が今、暴れだそうとしている!
象が暴動を起こせば、世界が揺らぐ……!
俺たちはそれを、ナんとしても阻止せねばならない!
相手は巨大なる象……!
手強い相手なのは間違いないが、俺たちならやれるっ!
なぜならば俺たちは、『勇者』……!
善なるものだからだっ!