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117 ゴーコン

 バァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 天の岩戸のように閉ざされていた書斎の扉が、ノックを繰り返していた部下ともども弾け飛ぶ。


 そこに立っていたのは、げっそりとやつれたリヴォルヴ。

 死の商人としての風格をさらに深くした、デスディーラーであった……!


 彼は寸刻前までは、生命を断とうとするところまで追い込まれていた。

 神尖組(しんせんぐみ)の入隊式が大失敗に終わってしまった今、勇者上層部からの厳罰は免れず、堕天やむなしと思われていたからだ。


 しかし彼は、乗り越えたのだ。

 自らの前にあった、隘路(あいろ)を……!


 そして彼は、撃ち殺したのだ。

 自らに取り憑いた、死神を……!


 もはや彼に、迷いはなかった。

 廊下に這いつくばっている部下たちを、銃口のように不気味に光るまなざしで睨み降ろす。


 「ヒイッ!?」と縮み上がる者たちに向かって、こう命じた。



「……来賓の方たちを、今すぐ講堂に集めるんだナ」



 それから小一時間後。

 屋敷の中にあるもっとも広い部屋である講堂に、この島に滞在している大国関係者や勇者たちが集められた。


 壇上に立ったリヴォルヴは、そんな彼らすら自分の部下であるかのように見下ろす。

 大半が、リヴォルヴよりも格上の者であるにも関わらず。


 そして、彼が放った第一声とは……!?



「ただ今より、創勇者(そうゆうしゃ)デスディーラー・リヴォルヴの名において、『ゴーコン』を発動するっ……!!」



 すると、間髪入れず「ええっ!?」とした反応が返ってくる。


 『ゴーコン』というのは、『Godsmile War Condition』の略で、戦争態勢の宣言である。

 一定階級以上の勇者で、かつ発令地の最高責任者であれば発令が可能。


 レベルによって6段階に区切られており、以下のような内訳となっている。



 レベル0 : 平常時

 レベル1 : 『ある程度の規模を持つ組織との戦争』 ※座天(ざてん)級以上の勇者が発令可能

 レベル2 : 『小国との戦争』 ※智天(ちてん)級以上の勇者が発令可能

 レベル3 : 『大国との戦争』 ※熾天(してん)級以上の勇者が発令可能

 レベル4 : 『極秘』 ※準神(じゅんしん)級以上の勇者が発令可能

 レベル5 : 『極秘』 ※御神(ごしん)級以上の勇者が発令可能



 リヴォルヴは座天(ざてん)級以上の勇者なので、ゴーコンの宣言はレベル1の発動と同義とみなされる。

 そしてこの宣言がなされた場合、宣言した勇者には発令地域において、以下の特権が与えられる。


 1、兵器および魔法の使用制限の撤廃

 2、人民の無制限の協力と供出義務

 3、宣言者よりも下位ランクの勇者すべての協力義務

 4、宣言者よりも上位ランクの勇者の任意協力


 ようは、自分の組織外の者たちの協力を得て、おおっぴらに戦争することができるのだ。

 しかも、これは緊急事態宣言でもあるので、勇者上層部の承認は不要とされている。


 しかし、駆り出される者たちにとってはたまったものではない。

 来賓客たちの間からは、赤紙を受け取ったかのような不安が噴出する。



「ど……どういうことだね、リヴォルヴ殿っ!?」



「ゴーコンの発動をするということは、宣戦布告も同義なのだぞ!?」



「この島に、それほどの敵がいるというのか!?」



「私は聞いたぞ! いまこの島には『野良犬マスク』とかいう伝法者がおるそうだな!?」



「まさかその者をなんとかするために、ゴーコンを発動しようというのか!?」



「それは例えるなら、野良犬一匹殺すのに大魔法を……いいや、軍隊を持ち出すようなものだぞ!?」



「そんなことが許されると思っているのか!?」



「宣言を取り消すのだ、リヴォルヴ殿! 今なら我々も、聞かなかったことにしてやろう!」



 喧々とした怒声を浴びせられていたリヴォルヴは、だらりと降ろしていた手を、ゆっくりと上げた。

 彼は演説台に立っていたので、ステージの下からは、腰から下は見えていなかったのだが……。



 すうっ。



 と突き出されたそれは、



 ……拳銃(ガン)っ!?



 ……ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーンッ!!!!



 爆音が構内を揺らし、椅子から立ち上がっていた賓客たちが将棋倒しになる。

 残響と硝煙が立ち上るなかで、彼は口を開いた。



「相手は確かに野良犬ナんですが、ちいとばかし、毛並みが違いましてナ。血統書つきの野良犬ナんですナ」



 「血統書つきの、野良犬……?」と誰かがオウム返しする。



「ええ。飼い主の手を噛もうとしている、躾のなってない犬ですナ。俺の見込みが間違ってナければ、それがどうやらウジャウジャいるようで……」



 「ま、まさか、それは……!」と誰かが息を呑んだ。



「その通り、スキュラ様……スキュラもその一味ですナ。順を追って、説明させていただきましょうかナ」



 そしてリヴォルヴは、いままでのいきさつを話した。



「……と、いうわけナんですナ。これでゴーコンを発動した理由がわかっていただけましたかナ?」



「ま……まさか、勇者組織の中に、野良犬……邪教徒の一味が紛れ込んでいるだなんて……!」



「でも、リヴォルヴ殿の言っていることは、筋が通っているぞ!」



「まったくだ! 入隊式での第10番隊の凶行も、これで説明がついた!」



「それに、スキュラを動かせるほどの人物となると、かなり高位な勇者であるに違いない!」



「ということは、上層部も汚染されている可能性があるということか……!?」



「リヴォルヴ殿! 『野良犬組』の首領は何者なのか、目星はついておるのか!?」



「ええ、もちろんですナ」



「だ、誰なのだね、それはっ!?」



「それは……」



 リヴォルヴが、その名を口にした途端、



「げっ……げえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 銃声にも似た動転が火を噴いた。


 ……リヴォルヴはついに、大いなる掛けに出た。

 残りの人生すべてを掛札(チップ)にした、ビッグ・ゲームに……!

新連載、開始しました!

『ヘル・クラフト 天国を追放された天使見習い、地獄を掘る!』

しかも一挙に5話掲載!

そこまでで、このお話の番外編のような面白さを感じていただけると思いますので、ぜひ読んでみて下さい!

このすぐ下に、リンクがあります!

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