116 リヴォルヴの推理
リヴォルヴは書斎机の下で、膝を抱えていた。
しかし今や、現実逃避の淋しさはすでに消え去り、さながら頭の中にスーパーコンピュータを有する天才のように変貌。
目を血走らせ、親指の爪がボロボロになるまで噛みまくり、思考を巡らせていた。
――そうか、そういうことだったナんて……!
野良犬マスクは単独犯かと思っていたが、そうじゃナい……!
ヤツらは、大規模ナ反逆組織……!
『野良犬組』だったんだ……!
その尖兵とった野良犬マスクは、この島のカフェに馬で乗り付けて巫女をさらい、街中を縦走した。
わざわざそんナ派手ナことをしたのは、『野良犬マスク』という存在を、強烈にアピールするため……。
今後起こることはすべて、ヤツの仕業だと印象づけるためだったんだ……!
俺はそれにすっかり騙され、ちょうどそのとき屋敷にいた、サイ・クロップスをヤツの元に派遣した。
しかもその相談をサイ・クロップスとしている時に、偶然を装ってストロングタニシとかいうワイルドテイルが入り込んできたんだよナ。
サイ・クロップスは神尖組の隊曹、そしてストロングタニシは野良犬の神を信仰していナかったから、つい、信じてしまった……。
そう……!
サイ・クロップスもストロングタニシも、『野良犬組』の一味だったんだ……!
そう考えると、野良犬マスクが木のフォークだけでサイ・クロップスを圧倒したというホラ話も、納得できるナ。
ナぜナらば、それは実際に行ナわれたことナんだろうだからナ。
野良犬マスクとサイ・クロップスが示し合わせて、まずはサイ・クロップスに同行した隊員を始末する。
そしてそのあと、集落のヤツらが見ているナかで、ふたりして道化踊りを踊りやがったんだ……!
ナぜそんナことをしたのか?
それは野良犬マスクが、神がかった力を持っている存在だと、集落のヤツらに誤解させるため……!
『八十裂き』で引きずられたというサイ・クロップスの死体を、もっとよく調べていれば、気づけたものを……!
そう、サイ・クロップスは死んじゃいねぇナ。
集落のヤツらが見ている中で殺されナかったのが、何よりもの証拠……!
ヤツはまだ生きている。
でも死んだことにした。
それはナぜか……?
そのあとに起こる事件で、裏で動くためだナ……!
そうだ、やっぱりそうだ……!
そう考えれば考えるほど、ナにもかもがピッタリはまる……!
ゴルゴンがいまだに行方不明ナ理由も、簡単に説明がつく。
ナんたってヤツも『野良犬組』ナんだからナ……!
第13番隊の隊員は相当の手練れだ。
しかしサイ・クロップスとゴルゴンにかかっちゃ、ひとたまりもナいだろうナ。
ナんて……ナんてヤツだ……!
自分の部下を殺したうえに、しかも死体を海やプールに晒しモノにするだナんて……!
そして最後、スキュラだナ。
ヤツもまた、『野良犬組』……!
これはもう、考えるまでもねぇナ。
式典での裏切りっぷりを見れば、一目瞭然……!
ああ……!
そうか……そういうことだったのか……!
最初の始まりが、たった一匹の野良犬だった……。
でも、そうじゃナい。そうじゃナかったんだ。
それはあくまで、見せかけだけ……。
たった一匹の野良犬の背後には、ゴッドスマイルという名の血統犬たちが、ウヨウヨいたんだ……!
『神尖組』という名の、皮をかぶって……!
その内に、『野良犬組』の本性を隠しナがら……!
あとは、ジャンジャンバリバリだ。
コイツは『野良犬組』における、街での暗躍要員だ。
おそらく例の、カフェでトラブルを起こしたという女とペアを組んで行動しているんだろうナ。
そして、そのふたりがしでかしたのは、『セレブ狂乱事件』……!
ジャンジャンバリバリはシャンパンアケマクリという、ジャンジャンバリバリに憧れる人物を演じていた。
ナぜ勇者でもナい人物に、成り代わる必要があったのか……?
それは簡単だ。
カジノの客からの情報によると、ヤツは笑い薬を使って『狭間ルーレット』でインチキをしていたらしい。
勇者のジャンジャンバリバリのままでそれをやると、ジャンジャンバリバリとしての行動が制限されてしまう。
そこでケチがつくと、そのあとに控えている、神尖組の入隊式典のMC代理ができナくナっちまうからナ。
ジャンジャンバリバリはシャンパンアケマクリとして、この街のカジノで『狭間ルーレット』のMCとして下積みを積んだ。
そしてワイルドテイルに扮装させた女を使って、『狭間ルーレット』を盛り上げた。
『狭間ルーレット』にかけられた女は、いままで『玉』にされたどのワイルドテイルよりも、頑丈でしぶとかったらしい。
そりゃそうだろうナ。
MCがその気にナれば、『狭間ルーレット』への玉への苦しみナんて、いくらでも調節できるからナ。
ヤツらはそうやって客を集め、ついにはこの島いちばんのカジノでビッグゲームをやる機会を得た。
そして……インチキをばらした……!
あとは、カジノにいた多くの観光客たちを煽動すれば……。
この島のカジノは全て、めちゃくちゃにっ……!
『野良犬組』の仕事は、そのあと最終段階に入る。
ヤツらの最終目標は、神尖組の入隊式……!
ここではジャンジャンバリバリとスキュラが組んで、式をメチャクチャにした。
そして……。
……俺は、そのショックでこうして、書斎に引きこもった。
……俺は、たった一匹の野良犬にすべてをメチャクチャにされた間抜けとして、処分される。
……今までの不祥事の責任を、すべて取らされて……。
……そうナる……。
……そうナる、はずだった。
ヤツにとっては……!
イカサマのサイコロで、俺に四二目を引かせ……。
自分は裏でのうのうと、三五にありつこうとしたヤツがいる……!
ソイツが誰かは、俺にはもう見当がついている。
神尖組をここまで操れるのは、ひとりしかいねぇ。
ナにせスキュラに至っては、式典で狂気を宿らせ、恥にまみれた死を晒すほどのことをさせたんだ……。
そんナ芸当ができるのは、ひとりしかいねぇよナぁ……!
そう……!
神尖組、局長……!
アーミー・オブ・ワンっ……!!
ヤツの目的は、俺を堕天させ、この島を手に入れること……!
『ひとりの軍隊』ナんて名を名乗っているが、ヤツは力押しだけでナく、謀略の天才でもある。
このくらいのことは、パンにバターを塗るくらいの感覚でやってのけるだろうナぁ……!
お前さんの計画は、まさに完璧だったよ……!
この俺が、久々にホンモノの『狭間』を感じるくらいに……!
しかもたとえ失敗したとしても、ぜんぶ野良犬マスクがやったことにすりゃ、お前さんは尻尾すら掴まれることはねぇ……!
だが、残念だったナ……!
いくらお前さんの頼みでも、この島だけはくれてやるわけにはいかねぇナぁ……!
イカサマを使って掠め取っていこうとしているのナら、ナおさらだ……!
今度は、こっちがサイコロを振る番だ……!
俺をサマに掛けたヤツがどうナるか、たっぷり思い知らせてやる……!
「楽しませてやるよ……! 生と死の狭間を……!」