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112 入隊式1

 その日、グレイスカイ島は曇りひとつない空をたたえていた。

 いつも快晴のこの島ではあるが、今日はいちだんと空が澄み渡り、水色の水晶のように美しい。


 この日、勇者となる若者たちの前途のように、キラキラと輝いていた。


 『神尖(しんせん)の広場』には、ずらり着飾った者たち。


 最前列には、真新しい制服に身を包み、支給されたばかりの剣を誇らしげにぶら下げる新人隊員。


 彼らの左右にある長机には、リヴォルヴを初めとする勇者のお偉いさんたちが、ずらりと居並ぶ。


 そのまわりには、陽の光を受けてプリズムのように七色に、自分の持つ栄華を誇示するようにギラギラと輝く王族や貴族たち。


 それらは、広場の敷地内だけではない。

 鉄柵の向こうにも多くの観客たちが詰めかけている。


 来賓よりもだいぶ粗末な、階段状の客席の最前列には報道陣。

 ごつい銃座のように構えた真写(しんしゃ)装置の前で、ひっきりなしにシャッターを切っている。


 式典が始まるまでの間、特にフォーカスを集めていたのは、とある高名な大聖女三姉妹。

 彼女はホーリードール家を目の敵にしており、この島に来られなかったことを、さんざんあげつらって批難していたイジワル三姉妹である。


 泣きわめくマザーを尻目に島に上陸した彼女たちは、ずっとニヤニヤしっぱなしであった。


 スクープ狙いのマスコミたちより上の座席は、賑やかしのために招待された小金持ち連中。

 ようはテレフォンショッピングのおばちゃんたちのような用途、いわゆるリアクション係として呼ばれた者たちである。


 本土に帰ればそれなりの権力がある彼らであったが、この場では賑やかし扱い。

 しかし不満な様子はなく、みなこの日を待ちわびていたようにニコニコ笑顔を振りまいていた。


 なぜならば彼らはこのあとのパーティで、勇者や権力者たちとのコネクションを作りに来ていたのだ。


 この広場は内外問わず、さまざまな思惑が蠢いていたが、みなが注目していた場所はひとつ。


 それは……この世でもっとも神聖なる色とされる、黄金と紫で飾られた、白亜のステージ。

 ステージの隅には演説台があって、パリッとしたタキシードに身を包んだ人物が立っていた。


 彼はミイラのように肌がボロボロであったが、色黒だったのが幸いしてほとんど目立っていない。

 そして瞳だけは、徹夜明けでも輝きを失わないウェーイ系の若者のように、らんらんと輝いている。


 さらにそれ以上に主張していたのは、爆発した鳥の巣のような頭髪。



『それではただ今より、第20回、神尖組(しんせんぐみ)入隊式を開始するじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんっ!!』



 それは地声でも広場じゅうに響き渡るような声量出会ったが、拡声魔法により島全体に知れ渡るように轟いていた。



 ……ドォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 開会の宣言とともに、花火が打ち上がり、青空にパラパラと爆音がばら撒かれる。

 同時に、



 ……ワァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!



 広場の外の観客たちが、皆こぞって歓声と拍手を送った。

 さらに、



 ……ジャジャァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーンンッ!!



 ステージ裏に控えていた楽団が、一斉に音色を奏ではじめる。

 高級なカフェに流れていそうな、品の良い伴奏をバックに、司会進行のアフロミイラは、まずは自己紹介をはじめた。



『この素晴らしき式典を、皆様にご案内させていたく栄光にあずかったのは、導勇者(どうゆうしゃ)ジャンジャンバリバリじゃぁぁぁぁーーーーーーんっ!! 本来MCとして予定されていた勇者様がすっぽかしたようだったので、このジャンジャンバリバリが代役をつとめさせていただくじゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーッ!!!!』



 彼、ジャンジャンバリバリはカジノの一件で追われる身となり、アジトも突き止められて路地裏をさまよう生活を送っていた。


 しかし彼は、諦めなかった。

 そんな彼を、天は見放さなかった。


 再び降ってわいた幸福、ソレは……!


 『第10番隊の凶行事件』……!


 街に殺戮の嵐が吹き荒れているのをいいことに、大混乱に陥っているのをいいことに、なぜか第10番隊の者たちは彼を狙わないのをいいことに……。


 死体の山が築かれ、血の川が流れる最中、彼は火事場泥棒を働いたのだ……!


 店員たちがいなくなったウイッグ専門店に押し入り、その店の最高級のアフロをゲット。

 そのカツラの説得力は素晴らしく、彼はあっという間に返り咲く。


 伝説のパーティキング、ジャンジャンバリバリへと……!


 そして……第10番隊の熱気に当てられたように、彼も踏み込んでしまったのだ。

 『勇者殺し」の領域へと……!


 入隊式典のMCをつとめる導勇者のことは知っていたので、港で待ち伏せ。

 街はすでに式典の準備で大わらわになっていたので、実行は容易であった。


--------------------


 名もなき戦勇者(せんゆうしゃ) 170名

 名もなき創勇者(そうゆうしゃ) 61名

 名もなき調勇者(ちょうゆうしゃ) 113名

 名もなき導勇者(どうゆうしゃ) 167名 ⇒ 168名


--------------------


 路地裏で、衣装を含めた荷物一式を奪ったジャンジャンバリバリは、何食わぬ顔をして『神尖の広場』へと向かう。

 そして設営に追われる神尖組のスタッフに向かって一言、



「代理のMCとして呼ばれたジャンジャンバリバリじゃんっ! 俺が来たからには、過去に例がないくらいの、アゲアゲの式典になること、間違いなしじゃんっ! ジャンジャンバリバリィィィィィーーーーッ!!」



 ……そして現在に至る。


 彼は厳かに静まりかえった会場のなかで、ひとり大盛り上がり。



『それでは、まずは最初のプログラムへと行こうじゃぁんっ! さぁて、のっけから、ビッグなゲストを紹介しゃうじゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!』



 ……ジャジャァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーンンッ!!



 イージーリスニングが、ズンチャ、ズンチャチャと勇ましいものに変わる。



『いつもの式典であれば、ビッグなゲストは会場の外から進軍してきて登壇する流れですが、今回はぜんぜん違うじゃんっ! 記念すべき20回目である今回は、サプライズとして驚きの登壇をしてくれるじゃんっ! ナントナント、第10番隊の方々はすでにこの場内におられるじゃん! 皆様、おわかりになりますじゃぁぁぁーーーーんっ!?』



 観客たちは、にわかにざわめいた。



「えっ!? 第10番隊の方々は、もうここにおられるのか!?」



「うそお!? 私、第10番隊の方々、特にスキュラ様の大ファンなの! あの方々に会えるから、今回の式典に来たのよ!」



「私もだ! あの偉大なる剣豪たちをこの目で見たくて、遠くから来たんだ!」



「俺も! 第10番隊の隊歌斉唱があるから、一緒に歌うつもりで歌詞を暗記してきたんだぞ!」



「どこだ!? どこにおられるんだ!?」



 これには賓客を初めとして、マスコミやその他大勢の観客が、キョロキョロしはじめた。


 ちなみにではあるが、『神尖組』というのは世上(せじょう)人気が非常に高い勇者組織のひとつである。

 実情はともかく、勇者でありながらも常に最前線に身を置き、ゴッドスマイルのためなら命も惜しまないという生き様が、民衆の支持を集めていたのだ。



『それでは、第10番隊の隊歌とともに、ご登場していただくじゃんっ! 歌詞がわかるなら、いっしょになって歌おうじゃんっ! それでは、どうぞじゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!』



 ……ジャジャァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーンンッ!!



 ジングルのあとに、司会者が手で示したのは……。

 ステージの背後にある、水色の布で覆われた、氷山のような物体……。


 それが、合図とともに、



 ……バッ……!!



 と取り払われた。

 すると、そこには……!!


 この『神尖の広場』の名物……。

 いや、メインともいえる、偉大なる人物の彫像……。


 ゴッドスマイル像が……!


 天から降り注ぐ光のハシゴを受ける、勇猛なそのお姿は、見る者すべてを跪かせるほどに神々しい。


 しかし今は、今だけは違った。


 なんと、なんとっ……!


 像が掲げる剣に、いたのだ……!

 いや、どう見ても突き刺さっていたのだ……!


 モズにはやにえにされた獲物のような……。

 30人もの、勇者たちが……!



「えっ……ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」



 これには、まるで局地的な大地震が起こり、天地がひっくり返るほどの衝撃を観客たちに与えていた。

 事実、ほとんどの者が椅子から転げ落ちていた。


 さて、もうおわかりだろう。

 リヴォリヴに与えられた究極の選択で、下した答えを……。


 彼は第10番隊を「清掃」も「救出」もしなかった。


 選んだのはなんと、「維持」……!


 像の剣に胴体が貫かれたままの勇者たちを、そのままの状態で式典に参加させるという……。

 とんでもない荒技を、やってのけたのだ……!

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