107 希望の徒花5(ざまぁ回)
神尖組の隊員は、世間一般ではエリートとされていた。
しかも『神の指』ともなれば、エリートの中のエリート、エリート・オブ・エリート、超エリートである。
隊員クラスであっても、勇者組織のなかでは上位に位置する勇者ではあったのだが……。
彼らにはただひとつだけ、他の勇者と異なる点があった。
それは……『ハーレムの禁止』であった。
彼らは勇者でありながらも、ハーレムを持つことを許されていなかったのだ。
その理由としては、尖兵の立場である彼らは、有事の際には最前線に送られ、生命の危機に晒されることとなる。
もし何かあったら、後家が大量生産されてしまうのを防ぐためであった。
しかし勇者の大半は『英雄』と呼ばれるだけあって、一部を除いて大変『色を好む』。
そして多くの勇者がそうであるように、女性をただの道具としてしか見ていなかった。
そのため……。
神尖組の隊員の間では、もっとも手近な『別の女』である、同僚の配偶者に手を出すのが日常茶飯事であった。
もちろん表だってやることはできないので、こっそりと……。
第10番隊の隊員たちも、例外ではない。
彼らは、常日頃から仮面を被っていたのだ。
任務のときには、『ペストマスク』という名の仮面を。
非番のときには、『家族』という名の仮面を。
彼らは上半身で、誰もが羨む、幸せそうな一家を演出しながら……。
下半身では、まったく別のところに繋がっていたのだ……!
それでもいちおう、『愛』というものは存在した。
枯れた花でも大切に扱うホーリードール家ですら、ゴミの日に捨てられてしまうほどのモノでしかなかったのだが……。
いちおう彼らにも、『家族愛』というものはあった。
特に、自分への子供に対する愛情は……いや、本当の子供かどうかの疑問はあるが、それはさておきあったのだ。
しかしそれすらも今や、なくなってしまった。
ある者は、抜け殻となって。
ある者は、肉の塊となって。
自らの手で、失ってしまった……!
グレイスカイ島でのいちばんのホテル。
それを今、シンイトムラウの崖から一望したら、どんな光景が見えるだろうか?
贅を尽くした広々とした部屋のなかで、リゾートを楽しむ家族だろうか?
これからどこに行こう、今日は何をして過ごそうと、和気あいあいと話す家族だろうか?
否……! ひとり……!
血の海に沈む、寡夫たちが……!
自らの家族を手にかけてしまったことに気づき、のたうちまわっていたのだ……!
それも、29部屋……! 29人分も……!
「ぐわっ! あああっ! あああああっ! 俺はっ! 俺はっ! 俺はぁぁぁぁぁぁっ!!」
「なんてことを! なんてことを! なんてことをしちまったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「野良犬マスクだと思ってたのに……! 野良犬マスクだと思って、斬りかかったのに……!!」
「ワイルドテイルの娘の剥製を売れば、大儲けできると思ってたのに……!!」
彼らは『希望の徒花』により、正気を失っていた。
しかし家族を手にかけた直後、一瞬だけ正気に戻り……。
そして彼らはとうとう、真の狂人へと成り代わってしまった。
「ヒッ……ヒヒヒ……! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
「嫁も子供も、いっぺんに失っちまった……! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
「俺にはもう、何もねぇ……! 何もねぇんだ……! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
『家族』という繋がりを失ってしまった彼らは絶望に打ちひしがれていた。
しかし『希望の徒花』により、また都合のよい夢を視はじめる。
それは、新たなる『家族』の夢……!
「い、いや……! まだ、スキュラ様がいる……! 俺にはまだ、スキュラ様がいるじゃねぇか……! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
「こうなったら……! 何としても野良犬野郎を生け捕りにして……スキュラ様にお届けするんだ……! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
「そうすれば、スキュラ様はきっと、俺を認めてくださる……! 俺を愛してくださる……! ずっとおそばに置いてくだる……! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
「それに、それに……! こんなことになったのも、元はといえばすべて、野良犬マスクのせいじゃねぇか……! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
「どうせ野良犬マスクは処刑されるんだ……! 生け捕りなんかじゃすまさねぇ……! 半殺しにしてやる……! 処刑以上の恐怖を、前もって味わわせてやるんだ……! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
そして29名の殺人鬼たちが、再び解き放たれる……!
ホテルの入り口で絶命していた30の亡骸を、ぐしゃぐしゃに踏みにじって……!
第10番隊の隊員の中で、唯一、『希望の徒花』の効果を受けなかった30は、非業の死を遂げた。
それは、見るも無惨な姿ではあったのだが……。
実は、彼らを待ち受けている死のフローチャートの中でも、『最良』ともいえるバッドエンドだったのだ。
では、残りの29名はというと……。
『最悪』のバッドエンドに向かって、まっしぐら……!
いや、訂正しよう。
正しくは29名ではなく、30名……!
その、『もうひとり』はというと……!
グレイスカイ島にある、街はずれの店にいた。
そこはVIP中のVIPだけが入れるという、とある高級ブティック。
街のショッピングモールのアパレルは、どれも『超高級』クラス程度の店ばかり。
せいぜい『激高級』クラスの店があるくらいである。
しかしここは、それらとはまったく別次元。
石を投げれば当たるようなセレブ風情にとっては、雲の上の場所とされている。
地位、財産、人格、すべてが認められなければ、場所すら教えてもらえない……。
つまり、本当にあるかどうかもわからない『天空級』ブティックなのだ。
『もうひとり』はその店内で、鼻歌まじりにドレスの試着をしていた。
「フンフンフン~♪ ンフフ、式典へのドレスは、こんな感じでいいかしらねぇ」
「はい、スキュラ様、とてもよくお似合いですよ。こちらは創勇者のハンサムミスター様がお作りになられた一点モノで、たったいま入荷したばかりでございます」
「えっ!? このドレス、『天女の羽衣師』のハンサムミスターちゃんの新作なのぉ!? やだぁ、最高っ! スキュラちゃん、ずっと探してたの! 今日は本当にラッキーねぇ、ンフフフフフフフ!」
幸運の絶頂にいる彼を、祝福するかのように、
……バリィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
店のガラスが、弾け飛ぶっ……!!
そこから先は、一瞬であった。
ゾンビの群れが29体、一気に店内になだれ込むと……。
……ドスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
30体目の仲間を増やすように、滅多刺しっ……!!





